キャリア・学び

わかりやすい! 医療政策から読み解く技師の未来 [第21回]
デジタル人材育成編

2025.09.11 07:00 会員限定記事を示すアイコン


 
今回のキーワード 
デジタルネイティブへの国家戦略
医療現場のデジタル化
キャリア形成とデジタル系資格

 


 
 

ダーウィンは「最も強いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残る」という言葉を残しました。現代のアナログからデジタルへの流れもまた大きな変化の1つで、私たちは医療だけに限らず、あらゆる分野でこれを感じ始めています。今回は国のデジタル人材育成施策を取り上げ、臨床検査技師のデジタル化について考えてみたいと思います。

 

デジタル人材育成へ変わる教育現場

 

人口減少、少子高齢化、過疎化、地域産業の空洞化という課題は、地方部を中心に刻々と進んでいます。これらを解決するため、地方創生の文脈で進められているのが「デジタル田園都市国家構想」で、その基盤の1つが「デジタル人材の育成と確保」となっています。現在日本ではデジタル人材が質・量とも不足し、都市圏への偏在が問題となっています。こうした背景を受け、2022~2026年の5年間で230万人、年間45万人を育成すると目標が掲げられています。人材育成施策としては、これまでも文科省が学習指導要領を改定し、小学校でのプログラミング教育の必修化や中学校・技術家庭科でのプログラミング・情報セキュリティ教育の充実などが進められてきました。そして、デジタル田園都市国家構想では文科省だけでなく、経産省・厚労省・農水省・国交省・総務省・内閣府・金融庁・内閣官房・デジタル庁と関係省庁総出で取り組みを始めており、すべての分野が対象となっています。

 

例えば、経産省と情報処理推進機構では、デジタルスキル標準という指針を策定し、DXリテラシーやDX推進スキルを整理しています。個人の学習や組織での人材確保・育成に役立てるためです。これらのスキル標準を習得するために立ち上げたポータルサイト「マナビDX」では、230社の730講座を紹介し、手軽に質の高いDXの勉強ができる仕組みを作っています。また、デジタル系国家資格であるITパスポート試験などに合格した個人に向けてDX推進パスポートというバッジ贈呈や、事業者に対するDX認定制度も構築しています。また文科省では、「読み・書き・そろばん」から「数理・データサイエンス・AI」へとキャッチコピーを掲げ、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」を進めています。リテラシーレベルとして大学生全員、応用基礎レベルとして大学生の50%が授業でこれらを学び、毎年75万人近くの人材を生み出すことを想定しています。

 

このようにデジタル施策と教育への影響を取り上げてみると、これからの学生すべてがデジタルネイティブになり、10年後には新卒医療従事者ですらデジタルネイティブという時代がやってくるのではと予想をしています。

 

デジタル化の現在地

 

デジタル化は紙から電子への移行を指し、DXとは異なる段階です。医療現場では、このデジタル化の象徴である電子カルテの導入すら遅れ、2024年の厚生労働省調査によると、一般病院で65.6%、一般診療所で55.0%にとどまっています。そんな中、国は社会保障費の高騰や担い手不足といった諸課題を解決すべく医療DXに期待し、クラウド型電子カルテに注目しています。一方で、病院側としては、クラウド型電子カルテを導入することによるコスト削減効果は限定的であると考えており、想像以上にIT投資へは慎重です。

 

こうしたデジタル化の全体感の傍らで、医療DXで注目されている病院が愛媛県四国中央市にあります。HITO病院は地域の民間中小病院ですが、スマホの完全導入、生成AIによる電カル入力、Apple Watchによる医学文献検索、栄養指導のチャットボット活用、グループチャットSNS運用、オンライン会議の実装、スマートグラスによる看護ケアなど、現在考えられている医療DXのさまざまな取り組みを導入しています。

 

こうした1つ1つの取り組みはもちろん注目すべき点ですが、重要な視点は、この病院の背景です。四国中央市は今後約20年で高齢者が91%とそこまで減少しない一方で、働き世代が64%、年少人口も59%と大きく減少していきます。人手不足がますます深刻となり、医療提供体制をどのように維持できるかという問題に直面します。他の医療機関はもちろん、他の産業よりも魅力的な事業体となり、サービスの効率化も含めた生き残り戦略が求められます。そうした意味では、活用できそうなものは積極的に導入するというスタンスが大事で、こうした組織の職員には、デジタルに関する高いリテラシーが求められます。間違いなく新しい医療従事者の働き方がそこでは実践されています。

 

検査技師にも必要なデジタル化の意識

 

こうした事例からは、今後医療従事者に求められる最も重要なことは「マインド」であることが分かります。自分たちが置かれた立ち位置、これからの医療の局面を創造できる力が必要です。そして、その先に知識やスキルといった具体性が生まれてきます。医療機関内のシステムやネットワークに関する知識を増やしたいなら医療情報技師になるでしょうし、経営マインドも一緒に培うなら国家資格のITパスポート試験です。実務ベースでデジタル管理まわりならOffice系認定とエクセルマクロをマスターすること、もう少し検査室内の業務効率化を進めるならRPAも重要です。ちなみに医療DXに特化した民間資格制度のめぼしいものはまだなさそうですが、介護分野にはスマート介護士という資格が作られました。

 

正直なところ、現段階では病院内でDX化を進めることのインセンティブは診療報酬上大きくありません。ましてやデジタル人材の有無で加点されるような仕組みにはなっていません。こうした意味で、組織的に踏み出すのが難しい状況があるのですが、社会的な変化、地域の実情、組織の経営課題を考えれば、必要な流れであることは間違いありません。個人として準備をしていくことは無駄ではなく、むしろ新たなチャンスにつながる可能性があります。そのような意味でも、自身の資格リストの候補にデジタル系資格を加えておくことは、検査技師としても重要です。キャリア形成は組織ではなく個人に紐づく時代なんだと、こうした事例からもますます感じてしまいます。

 
 
※MTJ本紙 2025年5月11日号に掲載したものです

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