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わかりやすい! 医療政策から読み解く技師の未来 [第30回]
地方公営企業法編

2026.06.10 06:00 会員限定記事を示すアイコン



 今回のキーワード 
地方公営企業法
政策医療と繰入金
病院経営の視点


 

「病院の経営が厳しい」「人が足りない」「給与がなかなか上がらない」。公立病院で働く臨床検査技師にとって、こうした言葉は決して珍しいものではありません。近年は報道などでも公立病院の赤字が繰り返し取り上げられており、実際に全国の公立病院では、単年度で数億円規模、病院によっては十数億円規模の赤字を計上しているところもあります。物価高騰や人件費の上昇、医療人材不足、患者数の減少などが重なり、経営環境は一段と厳しさを増している現状です。一方で、その背景にある制度について、現場で語られる機会は多くはなく、「地方公営企業法」という法律の下で運営され、病院の予算の組み方、人事、給与、さらには経営責任の所在にまで影響を及ぼしていることを知っている検査技師は多くはありません。そこで今回は、地方公営企業法を切り口に、公立病院がどのような体制で成り立っているのかを整理し、その中で臨床検査技師がどのような視点を持つべきかを考えてみたいと思います。

 

病院を自治体の一部とする「地方公営企業法」

地方公営企業法は、地方自治体が行う事業のうち、一定の経営性が求められるものを対象とし、民間企業に近い会計や管理手法を取り入れるための法律です。水道や交通事業と並び、病院は「病院事業」としてこの法律の適用対象となっています。この法律の特徴は、「独立採算」を基本としながらも、完全な黒字経営を義務付けているわけではない点にあります。病院は、救急医療や感染症医療など、採算性だけでは評価できない政策医療を担う必要性があるためです。このように、地方公営企業法の下では、企業会計を導入し、収益や費用を可視化しつつも、政策的に必要な医療については自治体が支えるという整理がなされています。

運用上は「一部適用」と「全部適用」という2つの形態があり、一部適用では、会計のみ企業会計とし、人事や予算は自治体本体の仕組みを用います。一方で、全部適用では、人事や組織運営にも病院の裁量が広がり、経営責任がより明確になるという特徴があります。いずれの場合も、職員の身分は地方公務員であり、病院は自治体の一部として位置付けられています。

 

予算や経営形態に自治体が関与

地方公営企業法の下にある公立病院では、病院内だけで意思決定が完結することは多くはありません。病院の予算は、首長の判断や議会の議決を経て確定します。人件費の総額や定数、建物の改修、高額な検査機器の更新なども、最終的には自治体の財政判断に委ねられます。そして、ここで重要になるのが「政策医療」と「繰入金」です。救急医療、小児医療、周産期医療、感染症対応といった分野は、診療報酬だけでは採算が合わない場合も多いため、これらを地域に提供し続けるために自治体は一般会計から病院事業会計へ繰り入れを行います。繰入金は単なる赤字補填ではなく、「自治体が政策として病院に担わせている医療への対価」として位置付けられています。

一方で、近年の赤字拡大を背景に、国は自治体に対し「公立病院改革プラン(現在は経営強化プラン)」の策定を求めてきました。このプランでは、病院の役割の明確化、機能分化、経営改善に加え、経営形態の見直しが重要なテーマとされています。また、ここでの経営形態の見直しは、地方公営企業法による「直営」「地方独立行政法人化」「指定管理者制度」「民間移譲」などがあります。独法化は法人格を持たせることで人事・給与・調達の柔軟性を高める手法で、指定管理者制度は運営を民間に委ねる仕組み、民間移譲は病院そのものを民間に引き渡す形と整理でき、独法化・指定管理・民間移譲のいずれも職員は非公務員の扱いになります。

 

臨床検査部門が考えるべき3つのこと

地方公営企業法の枠組みの中で、臨床検査部門もまた制度の内側に置かれています。検査機器の更新時期、要員配置、時間外体制の構築、さらには給与水準や評価制度に至るまで、これらは全て予算と経営判断の結果として決まっています。現場で感じる制約の多くは、個人や部署の問題だけではなく、制度と政策の積み重ねによって生じているもので「自分たちの仕事が制度の上に成り立っている」ことを理解する視点が重要になります。

次に、臨床検査技師には、検査の価値を単なる作業量や技術論だけで語るのではなく、安全性、効率性、政策医療への貢献といった観点から説明する力が求められます。例えば、救急体制を支える迅速な結果報告や感染症対応における検査室の役割は、診療を支えるだけでなく、地域医療や行政施策の中核を担っています。こうした価値を「病院経営や医療政策の文脈で言語化できるか」どうかが、専門職としての評価を左右する時代になってきており、臨床検査技師の認知度にも貢献します。

3つ目として、将来的に技師長や医療技術部長といった立場に就く場合、求められる役割はさらに広がります。検査機器の更新や新規導入に伴う予算についても、なぜその投資が必要なのか、病院経営や地域医療にどのような効果をもたらすのかを整理し、「議会や議員が納得できる形で説明し理解を得るための提案力」が求められます。これは経営者の仕事というよりも、専門職が自らの領域を守り、発展させるために不可欠な力と言えるでしょう。

今後、独法化や指定管理、民間移譲といった経営形態の見直しが進めば、身分や人事制度、給与体系が変わる可能性もあります。そのときに必要なのは、不安や抵抗ではなく、制度を理解した上で自らの専門性をどのように位置付けるかという姿勢です。地方公営企業法を知ることは、臨床検査技師が「病院経営の文脈で語れる専門職」へと歩み出すための第一歩と言えます。そして、この視点は、公立病院に限らず、国立病院や民間病院で働く臨床検査技師にとっても同様に重要です。医療は限られた財源の中で提供され、診療報酬などの制度にひも付いています。臨床検査技師が、検査を通じて地域医療や政策医療を支えていることを自覚し、その意義を言葉にできたとき、制度は制約ではなく対話の土台となるのではと感じています。


 
※MTJ本紙 2026年2月1日号に掲載したものです

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