Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 臨床化学・免疫血清04
高感度化で変わる梅毒検査の読み方——RPR・TP抗体の解釈と経時的評価


性感染症のガイドラインが6年ぶりに改訂1)
厚生労働省の報告からも明らかな通り、昨今、梅毒の再興(再流行)が深刻な問題となっている。特に2021年以降、その報告数は急増しており、男性は20〜50代と幅広い層で、女性は20代で突出して多く報告されている(図1、2)。
〔厚生労働省:梅毒;発生状況(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html)より〕
〔厚生労働省:梅毒;発生状況(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/seikansenshou/syphilis.html)より〕
このような背景のもと、日本性感染症学会では2018年より梅毒診療の考え方や基本知識などの情報を継続的に発信し2, 3)、2025年12月には『性感染症 診断・治療ガイドライン2026』が6年ぶりに改訂・刊行された。
今回の改訂では、近年注目を集めているマイコプラズマ・ジェニタリウム感染症を含む既存項目の内容が更新されたほか、非淋菌性尿道炎、疥癬、エムポックスなどの項目が新たに追加された。さらに、BQ(Background Question)やCQ(Clinical Question)が設定され、エビデンスレベルや推奨グレードが明記されるなど、より実践的な内容となっている。
臨床化学・免疫血清検査のエキスパートレビュー
1.RPR・TP抗体検査の基本的な読み方
現在保険適用され、梅毒診断の軸となる検査には、非トレポネーマ脂質抗体検査(保険診療名「STS」、通称:RPR検査)と、トレポネーマ抗体検査(保険診療名「梅毒トレポネーマ抗体」、通称:TP抗体検査)の2種類がある。臨床ではこれらを同時に測定し、組み合わせて診断を行うが、近年はいずれも自動化法による定量的な測定が主流となっている。
両検査結果の解釈の基本は、表の通りである。
| STS(RPR) | 梅毒トレポネーマ抗体 (TP抗体) |
結果解釈のポイント |
| ー | ー | 多くは非梅毒と考えられるが、感染初期で抗体がまだ検出されない時期(ウインドウ期)の可能性も考慮する。 |
| + | ー | 生物学的偽陽性が考えられるが、感染初期の可能性も考慮する。 |
| ー | + | 過去の梅毒感染を反映していることが多いが、早期梅毒の可能性も考慮する。 |
| + | + | 活動性梅毒を疑うが、既往感染や、治療後もRPRの力価が低下しないSerofast reactionも考慮する。 |
〔筆者作成〕
2.TP抗体の高感度化で変わる梅毒診断
今回のガイドライン改訂において、臨床検査の観点から特に注目すべきは、活動性梅毒の診断基準が整理され、TP抗体陽性を重視する考え方が明確に示された点である。
近年、TP抗体検査の高感度化に伴い、早期梅毒ではRPRよりもTP抗体が先行して陽性となる場合があることから、結果の解釈には十分な注意が必要である。海外、特に米国や欧州の動向に目を向けると、このTP抗体検査の高感度化を生かして最初のスクリーニングに用いる「逆シークエンス・アルゴリズム(Reverse Sequence Algorithm)」を導入する検査室が増加しており、CDC(米国疾病予防管理センター)でも梅毒の血清学的検査アルゴリズムの一つと位置づけられている4)。
ただし、この手法は過去に治癒した陳旧性梅毒患者(既往のある患者)もスクリーニングで陽性と判定されてしまう点が課題とされている。その点を踏まえると、前述したようにRPRとTP抗体を同時に測定し、両者を組み合わせて診断する日本の手法は、診断精度(感度・特異度)の観点から理にかなったアプローチと言える。
3.治療効果判定とSerofast reactionの解釈
治療効果の判定に関しては、従来通りRPR定量値の低下を確認することが基本となるが、治療有効性の評価や再感染の早期診断においては、TP抗体の定量値の推移(低下傾向)を確認することも有用と位置づけられている。
さらに、RPRおよびTP抗体がともに陽性の場合は「活動性梅毒」を疑うが、適切な治療後もRPRの力価が低下しないSerofast reactionの可能性も考慮しなければならない。Serofast reactionは、かつて「体内に梅毒トレポネーマが潜伏しているため」と考えられていたが、最近の報告では感染によって引き起こされた免疫の活性化や、自己免疫的なメカニズムが遷延している可能性が指摘されている5, 6)。
梅毒陽性例で検査技師が臨床に伝えるべきこと
表に示した通り、梅毒の血清学的検査はもともと解釈が複雑であることに加え、昨今の報告数の増加や検査の高感度化により、その判定はさらに高度な専門性を要するものとなっている。初診時の1回の検査結果のみで、現在の活動性感染か、過去の治癒済み感染(あるいは偽陽性)かを完全に鑑別することは極めて困難である。
臨床検査技師には、検査結果の数値のみを返すのではなく、既往歴や治療歴、感染機会の有無などの臨床情報を確認することの必要性を臨床側に伝えるとともに、定量的な抗体検査の結果を経時的にフォローし、その推移を見極めることができるよう支援することが求められる。こうした情報提供が、適切な梅毒診療への重要な貢献につながると考える。
引用文献
1)日本性感染症学会・編:性感染症 診断・治療ガイドライン2026.診断と治療社,2025
2)厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)研究 梅毒患者の実態把握及び対策に資する研究(山岸由佳班):梅毒診療の考え方 令和6年3月.2024(https://jssti.jp/pdf/syphilis-medical2403.pdf)
3)「梅毒診療の基本知識」作成ワーキンググループ:梅毒診療の基本知識.2024(https://jssti.jp/pdf/syphilis-medical_basicknowledge.pdf)
4)Papp JR, et al : CDC laboratory recommendations for syphilis testing, United States, 2024. MMWR Recomm Rep, 73 : 1-32, 2024
5)Cao Q, et al : Serofast status in syphilis: Pathogenesis to therapeutics. Clin Chim Acta, 560 : 119754, 2024
6)Kiolbasa M, et al : Serofast syphilis is associated with phospholipid-dependent coagulation abnormalities and B-cell activation following treatment. Int J Mol Sci, 27 : 4954, 2026
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