患者家族の検査助成 遺伝性がん、自治体独自に
予防、早期発見目指す
がんの中には、生まれつきの遺伝的な特徴が影響して発症する「遺伝性腫瘍」がある。この病気と診断された人の家族が、同じ遺伝的な特徴を持つかどうかを調べる検査やカウンセリングの費用を助成する自治体が出てきている。発症していない家族の検査は自費で高額なため、助成で費用負担を軽くして予防や早期発見に向けた経過観察につなげるのが狙いだ。
国立がん研究センターによると、がん患者の5~10%程度は生まれつきがんを発症しやすい遺伝的な特徴がある。乳がんや卵巣がんを発症しやすい「遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)」や、大腸がんや子宮体がんのリスクが高い「リンチ症候群」がその例だ。原因となる遺伝的な特徴は親子やきょうだいで共有している可能性がある。いくつかの遺伝性腫瘍では原因遺伝子を調べる検査に公的保険が使える。ただ、発症者のみが対象で、未発症だがリスクが高いかもしれない家族の検査は全て自己負担。受けるのに20万円程度かかる場合もある。
事後の対応
横浜市は、HBOCと診断された患者の家族が遺伝的なリスクを調べるための検査を受けた場合、費用の一部を助成する事業を2024年度から始めた。全国初の取り組みで、遺伝に関する適切な情報を伝えて相談に応じる「遺伝カウンセリング」の費用も助成する。
HBOC発症のリスクが高いかどうかは「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子を調べる検査で分かる。横浜市在住で、両親や子ども、きょうだいがHBOCと診断された人であれば、検査は3万円まで、遺伝カウンセリングは1万円まで、補助が受けられる。
事業を始める際、横浜市は市内で乳がん診療に積極的に取り組む「乳がん連携病院」や遺伝子の検査ができる病院と議論を重ねた。同市の三室直樹がん・疾病対策課長は「ただリスクが高いと伝えても不安にさせるだけになってしまう。その後の経過観察やケアに対応できる体制をつくる必要があった」と話す。
今年9月末までに23件の助成申請があったという。HBOCのリスクが高いと分かった人は、乳腺のMRI検査やマンモグラフィーによる定期的な経過観察を検討する。発症した場合、早期に発見できる可能性がある。
幅広く対象に
横浜市の動きを受け、兵庫県姫路市も同様の事業を25年度に開始。HBOCに限らず、多くの遺伝性腫瘍を対象にした。助成の対象は、経過観察や予防のための手術といった対処法がある56遺伝子。日本遺伝性腫瘍学会がまとめた検査の手引で挙げている遺伝子のリストを参考にした。
助成を申請する人が姫路市民であれば、遺伝カウンセリングや検査は市外の病院で受けてもよい。姫路市は、兵庫県内でがん診療に取り組む病院に取り組みを発信して連携を呼びかけている。
課題は、検査後の経過観察や処置にかかる費用だ。乳がんや卵巣がんを発症してHBOCと判明した人であれば、さらなるリスクを下げるために未発症の乳房や卵巣を切除する手術を公的保険で受けられる。ただ、国は予防医療への公的保険適用に慎重で、リスクが高いと分かっていても全くの未発症であれば、経過を見る診療や予防手術は自費になる。
姫路市の助成事業立ち上げに協力した岡山大の平沢晃教授(臨床遺伝子医学)は「がんを発症しやすいのは遺伝性腫瘍という病気の特徴の一つ。発症か未発症かで対応を分けるのは適切ではない」と指摘。「自治体の助成で柔軟に対応する動きが広がり、がんの予防に国がどう対応するかを議論するきっかけになればよい」と話す。
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