Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 血液04
その白血病芽球、本当に1系統? 急性白血病における系統可塑性とMALの概念


MALという新しい視点——急性白血病の系統可塑性
白血病はこれまで、細胞形態、細胞化学染色および細胞抗原解析によって芽球の分化段階や造血系統を推定し、さらに染色体・遺伝子異常を加味して分類されてきた。なかでも、異なる系統のマーカーを共発現する混合表現型急性白血病(MPAL)は、長年にわたり診断・分類上の課題とされてきた。
近年、遺伝子解析技術の進歩により、血球分化は固定的な階層構造ではなく、一部の前駆細胞が複数系統への分化能を保持する、連続的かつ動的な過程であることが明らかになっている1)。また、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)の一部に、これまで十分に認識されていなかった多系統への分化能が存在することに加え2)、急性骨髄性白血病(AML)、初期T細胞前駆急性リンパ芽球性白血病(ETP-ALL)、MPALの一部にも同様の性質が認められている3-5)。
本論文では、従来B-ALL、T-ALL、AML、MPALとして分類されてきた白血病の一部に、造血幹細胞・前駆細胞に類似した多能性と系統可塑性が共通して存在することを概説している。Gutierrezらは、これらの特徴が治療抵抗性、再発、系統転換および予後不良と関連することから、従来の系統分類を越えた多能性急性白血病(multipotent acute leukemia:MAL)として捉え、新たな診断・治療戦略を構築することを提唱している1)。
血液検査のエキスパートレビュー
1.従来の系統分類を越えるMAL
MALは、正常造血幹細胞・前駆細胞がもつ複数系統への分化能や系統可塑性を白血病細胞が保持、または再獲得している急性白血病群として提唱された概念である。現時点では独立した正式な診断名ではなく、従来B-ALL、T-ALL、AML、MPALなどに分類されてきた症例のうち、多能性前駆細胞様の分子学的・細胞学的特徴を有する白血病を従来の系統分類を越えて捉える枠組みである1)。
2.多能性前駆細胞と系統可塑性
図1は、正常造血が固定的な枝分かれ構造ではなく、連続的かつ動的な分化過程であることを示している。造血幹細胞から多能性前駆細胞を経てB細胞、T細胞、骨髄系細胞へと分化するが、多リンパ系前駆細胞または共通リンパ系前駆細胞ではリンパ系への分化が始まった後も潜在的な骨髄系分化能を保持している1)。すなわち、系統決定に至るまでには複数系統の転写・表現型プログラムが重なり合う移行状態が存在し、MPALなどに分類されている急性白血病でもこの多系統分化能・系統可逆性が病態形成に関わっている可能性があるとされている。

〔Gutierrez A, et al : Blood Neoplasia, 3 : 100231, 2026/The figures were created with BioRender.com. Gutierrez A. and Kentsis A.(2026) https://BioRender.com/m3atqllより〕
従来用いられてきたFAB分類は、芽球形態および細胞化学染色を基盤として、AMLをM0~M7、ALLをL1~L3に分類してきた。形態学的評価は、N/C比、核形、クロマチン、核小体、顆粒、Auer小体、細胞質の性状などから分化系統を迅速に推定できるため、現在も急性白血病診断の重要な位置づけとなっている。
一方、形態学的評価は白血病細胞を一定の系統と分化段階に当てはめる性質が強く、同一クローン内に存在する少数の未熟細胞集団や、治療に伴う系統変化を十分に捉えられない場合がある。WHO分類第5版や国際コンセンサス分類では、形態、免疫表現型および染色体・遺伝子異常を統合して診断するが、系統判定は細胞質または表面CD3のT細胞系マーカー、CD19を中心としたB細胞系マーカーの組み合わせ、骨髄系マーカーのMPO、CD13、CD33、CD117、単球系分化マーカーなど、限られた系統マーカーに依存している。これらのマーカーのみでは同一系統内に存在する多様な分化段階や、白血病細胞集団内の少数サブクローンを必ずしも十分に識別できない。
図2に示すように、従来、ALL、AML、MPALと診断される白血病の一部には多能性前駆細胞に類似した芽球が存在し、白血病の病型や細胞状態に応じて、CEBPA、FLT3、HOXA、JUNB/FOSB、MEF2C、BCL2などに関連する自己複製および分化制御プログラムの活性が認められる2-6)。

〔Gutierrez A, et al : Blood Neoplasia, 3 : 100231, 2026/The figures were created with BioRender.com. Gutierrez A. and Kentsis A.(2026) https://BioRender.com/m3atqllより〕
3.系統転換と治療抵抗性
これら多能性前駆細胞様芽球は、リンパ系または骨髄系の一方向に固定されず、治療によってリンパ系から骨髄系、あるいは骨髄系からリンパ系へと系統転換する可能性がある7)。その結果、当初の系統を標的とした化学療法や免疫療法を回避し、治療抵抗性、再発および予後不良につながる可能性がある2, 3, 7)。さらに、多能性前駆細胞様の特徴が強い症例ほど生存率が低いことも示されている。したがって、診断時には血球系統だけでなく、細胞集団内に潜在する多能性と系統可塑性を評価することが重要と考えられている1-3)。
MALを念頭に置いた日常検査のポイント
一般的な医療機関では、詳細な遺伝子発現解析を院内で実施することは難しく、フローサイトメトリーや遺伝子検査も外部委託となっている場合が多い。結果判明までに時間を要し、検査可能な遺伝子項目や抗体パネルも限られるため、少数の多能性前駆細胞様集団を日常検査で直接確認することには限界がある。
したがって、日常検査で実施可能な対応としては細胞形態とフローサイトメトリーの結果を詳細に評価することである。細胞形態では、優勢な芽球だけで判断せず、核や細胞質性状などの特徴が異なる細胞集団に注意する。フローサイトメトリーでは、可能な限り臨床情報や形態所見に応じた抗体パネルを選択し、CD3、CD19、MPO、単球系マーカーなどの系統マーカーだけでなく、他のマーカー発現にも注目する。単なる陽性・陰性の判定にとどまらず、発現強度、部分的発現、不均一性、異常発現、少数集団に限局した発現などを確認することが重要である。
また、初診時の標本、細胞画像、細胞分類、細胞化学染色およびフローサイトメトリーの結果を保存し、治療後や再発時と比較する。各検査所見が一致しない場合には、単なる検査誤差や例外とせず、多系統分化能や系統転換の可能性を考慮し、臨床側と共有することが重要である。
引用文献
1)Gutierrez A, et al : Co-option of lineage plasticity as a hallmark of multipotent acute leukemias. Blood Neoplasia, 3 : 100231, 2026
2)Iacobucci I, et al : Multipotent lineage potential in B cell acute lymphoblastic leukemia is associated with distinct cellular origins and clinical features. Nat Cancer, 6 : 1242–1262, 2025
3)Xu J, et al : A multiomic atlas identifies a treatment-resistant, bone marrow progenitor-like cell population in T cell acute lymphoblastic leukemia. Nat Cancer, 6 : 102–122, 2025
4)Peretz CAC, et al : Multiomic single-cell sequencing identifies the stem-like nature of mixed phenotype acute leukemia. Nat Commun, 15 : 8191, 2024
5)Zeng AGX, et al : Single-cell transcriptional atlas of human hematopoiesis reveals genetic and hierarchy-based determinants of aberrant AML differentiation. Blood Cancer Discov, 6 : 307–324, 2025
6)Wang Q, et al : Native stem cell transcriptional circuits define cardinal features of high-risk leukemia. J Exp Med, 222 : e20231349, 2025
7)Chen C, et al : Single-cell multiomics reveals increased plasticity, resistant populations, and stem-cell-like blasts in KMT2A-rearranged leukemia. Blood, 139 : 2198–2211, 2022
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