キャリア・学び

わかりやすい! 医療政策から読み解く技師の未来 [第25回]
プログラム医療機器編

2026.01.14 06:00 会員限定記事を示すアイコン


 
 今回のキーワード 
プログラム医療機器
精度担保と制度設計
ツールを使いこなせる専門職

 


 

プログラム医療機器、英語でSoftware as a Medical Device(SaMD:サムディ)は、これからの医療者として必ず理解しておきたいキーワードです。これはソフトウエア自体が医療機器として機能する、新しい形の医療技術を指します。2020年以降、AIを活用した診断支援システムや治療用アプリが次々と実用化され、臨床検査技師の業務にも影響を与える可能性が大きいです。今回は、制度的な枠組みや事例、臨床検査技師としての備えについて考えてみます。

プログラム医療機器って何?

プログラム医療機器とは「人の疾病の診断、治療、予防を目的として使用されるソフトウエアで、単体で医療機器としての機能を果たすもの」と定義することができます。具体的には、心電図を解析して不整脈を検出するスマートデバイスアプリや、AIによって画像を解析し診断支援を行うシステムなどが代表例です。これらを機能別に見れば、画像や検査結果を解析し、診断を支援する「診断支援系」、薬剤の投与や生活指導をサポートする「治療支援系」、疾患の進行や体調を継続的に評価する「リスクモニタリング系」に整理することができます。他の医療機器と同様に、クラスI〜IVに分類され、薬機法(医薬品医療機器等法)に基づき審査・承認が必要です。第三者機関による認証、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による審査を経て厚生労働省に承認されて臨床現場で利用されます。承認後は診療報酬の対象です。


こうしたプログラム医療機器には、都市部と地方の医療リソースの差を補う社会的インパクトが期待されます。また、医師の負担を軽減し、より多くの患者に対応できる体制づくりにも貢献します。早期発見と予防による医療費削減、開発費が医薬品などに比べて少なくて済むという特徴も報告されています。一方で、解析精度や学習データの偏り、過信による誤診といった課題もあり、最終的な判断は人間が担う必要があります。技術と人のバランスを考えていくことが求められています。

3つの事例から見る現在地

行動変容を促す治療用アプリの事例では、AIではなくアルゴリズムがコア技術となっています。これは医薬品に代わってスマートフォンアプリを処方するという新しい形の治療として注目されています。CureApp社が開発した高血圧治療補助アプリでは、日常血圧を記録、生活習慣の改善に向けた学習と実践を行い、医師はその記録を基にアドバイスを行います。診察と診察の間を見える化することで、治療中断を防ぎ、血圧コントロールの改善が期待されています。単なる記録アプリではなく治療行為にコミットする医療機器として、患者による検査・記録等のセルフマネジメントにもつながっています。

次に、AIによる画像診断支援の事例です。プログラム医療機器の中でも特に開発が進んできている分野です。アイリス社のnodocaは、専用カメラで撮影された咽頭画像をAIが解析し、インフルエンザ患者特有の所見(インフルエンザ濾胞)を検出します。専門の医師でないと難しい判断をAIが代替・補完し、経験の浅い医師でも診断につながるという大きな価値を提供しています。機器を使いこなすことで個人のスキルによらない、一定レベル以上の医療を提供できる事例です。超音波検査装置をはじめとした高い専門性が必要な医療機器の未来において、参考になるモデルと考えられます。

最後に、グローバルではいくつかのAI活用事例がある病理画像解析領域です。VISIOPHARM社が提供する解析プラットフォームでは、研究から臨床まで柔軟に対応可能で、形態学的な定量解析を効率化しています。病理診断の精度や速度が向上する一方で、AIの提示する結果をどのように読み解くかという判断力が重要となります。この事例からは、病理画像に限らず、形態学的観察や分類の領域へのAIの可能性を感じることができます。臨床検査技師としては、ツールとしての技術を使いこなし、あらゆる検査領域に機器精度管理の視点を持つ必要性が示唆されます。加えて、検査のコスト構造と診療報酬という経済合理性の課題もポイントです。

「どう使いこなせるか」も専門職の価値に

プログラム医療機器の拡大は、職域に変化をもたらす可能性が高いです。「先端技術に仕事を奪われる」との不安はある程度は想定されますが、重要なのは「それをどう使いこなすかが専門職の価値を決める」という視点です。高度な技術であっても、使い方を誤れば正しい結果は得られませんし、画質の悪い画像を入力すれば正しい判断はされません。こうした前提条件を整え、正しい結果を報告する力は、検査技師としての知識と経験の蓄積があってこそで、これまでの自動分析装置の変化にも通じる話です。

また、AIの仕組みが「ブラックボックス」であることに抵抗を感じる人もいるかもしれません。ただ、医療にも完全に仕組みが解明されていない技術は存在し、例えば全身麻酔の作用機序などはその一例です。科学技術とは「使いながら理解を深めていく」営みでもあり、全てを知り尽くした上でしか使ってはいけないわけではありません。大切なのは、その技術が十分な精度を有し、どのような根拠で設計され、どのように運用されているのかを冷静に評価する専門職の視点です。

そして、新しい技術を「誰が使うのか」「いつどこで学ぶのか」という問いも欠かせません。今後は養成課程の中で、医療AIやプログラム医療機器について基礎的な理解を育むことが求められるように感じています。また、現場で働く臨床検査技師も学会参加や技師会活動を通じて、情報をアップデートし続ける姿勢が不可欠で、学び体質はどの時代においても最大の武器となります。

正直なところ、プログラム医療機器が診療報酬の対象となるためにはエビデンスと制度設計、経済性が不可欠で、これが普及の障壁となっているのも事実です。一方で、臨床検査技師にとっては大きな転換点であることは間違いありません。単なる「検査を行う人」から「医療技術を選定し、導入し、評価し、使いこなす人」へと進化することが期待されます。AIやアルゴリズムに置き換えられる存在か、それらを操る専門職か、自らの立ち位置を築くことで、次世代の臨床検査技師が生まれくるのではと感じています。

 
 
※MTJ本紙 2025年9月1日号に掲載したものです

続きを見るには会員登録
(無料)が必要です

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

MTJメールニュースの会員のみなさまへ

MTJメールニュースは、WEBサイト「MTJ ONE」にリニューアルいたしました。
お手数ですが、下記より再度、新規会員登録をお願いします。

すでに会員の方はこちらからログイン