Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 病理・細胞02
デジタル病理は“使える時代”へ——学会の手引きと標本品質で整理する


日本病理学会が示す手引きの要点
『デジタル病理画像を用いた病理診断の手引き 第二版』では、デジタル病理画像※1による診断は、従来の顕微鏡診断と同等に扱いうることが明示されている1)。
一方で、診断の最終責任は病理医が負うこと、画像は“診断に耐える品質”でなければならないことを繰り返し強調している。あえて数値基準を示していないのは、病理診断に必要な情報が臓器や疾患、染色法によって大きく異なるためであり、判断を現場の専門性に委ねるという学会の姿勢が表れている。
なお、手引きが病理診断を行う際の考え方と留意点を示す文書であるのに対し、『病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準 第4版』は、デジタル病理診断を支えるシステム側の要件や管理の考え方を整理したものである2)。現場運用(手引き)とシステム要件(技術基準)をセットで整えることで、“診断に耐える品質”を担保し、制度上求められる「十分な装置・機器」の要件を実装可能な形に落とし込める。
病理・細胞検査のエキスパートレビュー
厚生労働省は、診療報酬の医科点数表などにおいて、病理診断を顕微鏡観察に限定していない3)。そのため、WSIを用いたとしても、要件を満たした運用のもとで病理医が診断し診断報告書を作成すれば、通常の病理診断料の算定が可能と整理されている※2。これは、日本病理学会の手引きと制度解釈が実務上、整合していることを示している。
デジタル病理における本質的な論点は、「診断に使ってよいかどうか」ではない。焦点はむしろ、診断に耐える品質——すなわち“どのような品質で運用されているか”にある。
1.デジタル病理のおける標本品質の注意点
デジタル病理では、切片がやや厚いだけで核が重なって見え、核異型が強調されて見えることがある。また、肉眼では軽微に見える染色ムラがデジタル表示では強調され、全体像として評価しづらい標本になることも少なくない。
さらに、スキャン時のわずかなピント不良は「見えない」という問題以上に、「この像を診断根拠として信頼できるか」という病理医の確信度を下げる要因となる。デジタル病理では、標本とスキャン条件がそのまま診断情報として固定されるため、標本品質の影響がより直接的に表面化する。品質に疑義がある場合は、再スキャンやガラス標本での確認を行う運用が不可欠である。
2.システム導入前に求められる「診断精度の検証」
デジタル病理は、システム導入をしたからといって直ちに診断に用いることができるわけではない。実際、College of American Pathologists(CAP)のガイドラインでは、WSIを診断目的で使用する前に、従来のガラス標本による診断と同等の精度が得られるかを検証することが求められている4)。
具体的には、少なくとも60例以上の通常症例を用い、一定期間をあけてデジタル画像とガラス標本を比較し、診断一致率を評価することが推奨されている。さらに、免疫染色や特殊染色など追加の用途を想定する場合には、別途症例を加えて検証を行う必要があるとされている。このような検証の結果、十分な診断一致率が得られない場合には、その原因を解析し、改善を図ることが前提であり、精度の検討を経ないまま導入することは想定されていない。
強調すべきは、デジタル病理のシステム導入前に行われる診断精度の検証そのものが、標本の品質に左右されるという点である。デジタル画像とガラス標本の診断一致率は、システムの性能だけで決まるものではなく、切片厚、固定条件、染色の再現性、スキャン後の見え方といった要素の積み重ねによって成立する。すなわち、精度検証の結果は、その時点で用いられる標本品質を如実に反映する。
標本品質を保証するためのチェックリスト
手引きが切片厚や倍率などの数値を示さないのも、病理診断に必要な情報が一律ではなく、最終的に「診断できるかどうか」を判断する専門職の目が不可欠だからであり、その前提となる標本品質を日常業務で担保しているのが臨床検査技師である。
デジタル病理の診断に耐える品質を保証するためには、下記6項目を満たす検査体制の構築が求められる。
- 切片作製工程(固定・切り出し・切片厚)が施設内で標準化されており、日常業務において再現性が確保されている
- 染色(H&E、免疫染色、特殊染色)の安定性が担保されており、デジタル画像上においても診断に必要な形態学的情報が十分に得られる
- スキャン後の画像品質確認(標本欠損、フォーカス不良、色調異常、アーチファクト等)を、診断前に実施する運用が確立されている
- 品質に疑義が生じた場合の対応(再スキャン、ガラス標本での再確認等)が手順として明文化され、対応内容が記録されている
- 患者情報・標本識別情報とデジタル画像の紐付け(LIS/病理部門システム等との連携)により、取り違え防止の仕組みが構築されている
- デジタル病理導入前後における診断精度検証(バリデーション)を実施し、その結果に基づいた工程改善が継続的に行われている
これらの項目は、システム性能の評価を目的としたものではなく、診断精度の検証結果が標本品質を正しく反映するための前提条件を示すものである。
※1:ここではwhole slide imaging(WSI)を指す。
※2:算定にあたっては、デジタル病理画像の観察・送受信に十分な装置・機器を用いることが求められ、関係学会の指針を参照することが前提とされる。デジタル画像“のみ”の病理診断では認証されたデジタルパソロジーシステム(クラスII)の使用が前提として整理されている。クラスI / 薬事未承認機器ではガラス標本で再確認し、確認した場合は通常の病理診断料として取り扱われる旨が示されている。
引用文献
1)日本病理学会,他:デジタル病理画像を用いた病理診断の手引き 第二版.2024
2)日本病理学会,他:病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準 第4版.2024
3)厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する告示」(令和6年厚生労働省告示第57号)
4)Evans AJ, et al : Validating whole slide imaging for diagnostic purposes in pathology: guideline update. Arch Pathol Lab Med, 146 : 440-450, 2022
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共著|濱田 誠(群馬パース大学医療技術学部検査技術学科)




