Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 一般03
一般検査と分子検査の統合的判読——2026年度診療報酬改定にみる髄液検査の再評価


髄液検査の現在地
1.診療報酬改定からみる髄液一般検査の再評価
2026年度診療報酬改定では、髄液一般検査(D004)が62点から77点へ引き上げられた1)。厚生労働省の医療技術評価分科会資料では既収載技術の再評価として位置づけられ、日本臨床検査専門医会が提出した医療技術評価提案書では、熟練した臨床検査技師による24時間対応や検査コストなどを踏まえた適切な技術評価の必要性が示されている2)。
今回の改定は、髄液一般検査が急性期診療を支える重要な検査であることを再評価する契機と捉えられる。髄液一般検査は、外観、細胞数・細胞分画、蛋白、糖などを含み、分子検査とは異なる病態情報を提供する。
2.FilmArray MEを含む髄液検査の最新知見
FilmArray髄膜炎・脳炎パネル(FilmArray ME)は、主要な病原体を迅速に検出できる一方、全例への一律実施が適切とは限らず、臨床情報と一般検査所見を踏まえた診断スチュワードシップが重要である。
Broadhurstらは、髄液pleocytosisを考慮したアルゴリズムによりFilmArray MEの使用数を42.7%削減し、アシクロビル投与期間も66時間から46時間へ短縮した3)(表)。
| 指標 | 報告された結果 | 臨床的意義 |
| FilmArray ME 使用数 | 42.7%減少 | 不要な検査の抑制、検査資源の適正化 |
| FilmArray ME 陽性率 | 18.6% vs 11.5% | 検査対象の選択により検査効率が変化 |
| 非pleocytosis例における 非ウイルス標的の陰性的中率 |
100% |
非pleocytosis例では一部の病原体検出頻度が低いことを示唆 |
| 非pleocytosis例における 全標的の陰性的中率 |
98.0% |
一般検査所見がFilmArray MEの適応検討に有用である可能性 |
| アシクロビル投与期間 |
66時間 → 46時間 |
抗ウイルス薬の適正使用を支援 |
- 各数値は研究デザイン・対象集団に基づく結果であり、介入前後の単純比較を示すものではない。また、髄液細胞数が正常であることのみを理由としてFilmArray MEを除外することを意味しない。
〔Broadhurst MJ, et al : J Clin Microbiol, 58 : e00311-20, 2020を基に筆者作成〕
ただし、髄液細胞数が正常であることのみを理由に、FilmArray MEや個別PCRを除外することはできない。発症初期、脳炎、免疫不全患者などでは、細胞数が正常でも中枢神経感染症を否定できないため、発症時期、神経症状、免疫状態、画像所見などを総合して検査適応を判断する必要がある。
一般検査のエキスパートレビュー
1.一般検査と分子検査の相補的な判読
分子検査は「病原体の核酸が検出されたこと」を示し、髄液一般検査は「髄液に生じている細胞学的・生化学的変化」を示す。両者は競合する検査ではなく相補的である。FilmArray ME陽性例では、一般検査、培養、臨床症状、画像所見などと照合し、その臨床的意義を評価することが重要である。
Boudetらの報告では、FilmArray ME陽性患者の11%で髄液細胞増多が認められなかった一方、臨床所見や他の検査結果との不一致などから、臨床的意義に乏しいと判断された陽性結果も認められた4)。このことからも、髄液白血球数のみで検査適応を判断することや、FilmArray MEの結果のみで原因病原体を判断することには注意が必要である。
また、重症例では分子検査結果を待つことで治療開始が遅れないよう、髄液一般検査による迅速な初期評価を行い、臨床判断を支援することが求められる。
2.髄液乳酸値(CSF lactate)の臨床的意義
髄液乳酸値は、細菌性髄膜炎と無菌性髄膜炎の鑑別を補助する指標として報告されており、3.5mmol/L前後が有用なカットオフとして検討されている5)。
一方、単独で細菌性髄膜炎を確定する検査ではないため、細胞数・分画、糖、蛋白、Gram染色、培養、分子検査などと組み合わせて評価することが重要である。特に抗菌薬投与後では、培養結果の解釈に注意を要する。
検査実務に求められる統合的判読
髄液細胞は採取後の時間経過で変化し、特に好中球は減少しやすい。そのため、採取時刻、検査室到着時刻、測定開始時刻を管理し、可能な限り早期に細胞数・細胞分画を測定することが重要である。FilmArray MEが予定されている場合も一般検査を後回しにせず、並行して細胞学的情報を確保する。FilmArray MEと一般検査の結果が乖離した場合には、直ちに偽陽性と判断せず、発症時期、症状、免疫状態、画像所見などを確認し、必要に応じて再検査や個別PCRを検討する。臨床検査技師には、検査結果の整合性を確認し、重要な乖離を臨床側へ迅速に情報提供する役割が求められる。
今後の髄液検査では、「一般検査か分子検査か」ではなく、「両者をどのように組み合わせて診断情報を最大化するか」という視点が重要である(図)。髄液一般検査は、分子検査が普及した現在だからこそ、その病態情報としての価値を再評価すべき検査である。
引用文献
1)厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第69号)
2)日本臨床検査専門医会:医療技術評価提案書(保険既収載技術用);髄液一般検査(整理番号:735202).2025
3)Broadhurst MJ, et al : Utilization, yield, and accuracy of the FilmArray Meningitis/Encephalitis panel with diagnostic stewardship and testing algorithm. J Clin Microbiol, 58 : e00311-20, 2020
4)Boudet A, et al : A review of a 13-month period of FilmArray Meningitis/Encephalitis panel implementation as a first-line diagnosis tool at a university hospital. PLoS One. 14 : e0223887, 2019
5)Huy NT, et al : Cerebrospinal fluid lactate concentration to distinguish bacterial from aseptic meningitis: a systematic review and meta-analysis. Crit Care, 14 : R240, 2010
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