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Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 病理・細胞01
HER2“超低発現”への適応拡大で現場が変わる——技師が知っておくべき定義

2025.12.05 06:00 会員限定記事を示すアイコン

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エンハーツ®に関わる厚生労働省通知と保険算定の動き

2025年8月、エンハーツ®(トラスツズマブ デルクステカン、以下T-DXd)の適応がHER2超低発現まで拡大され、診療報酬ではHER2低/超低発現を確認した検査の実施年月日をレセプトの摘要欄に記載する運用が明記された。これに伴い、コンパニオン診断薬として2025年9月1日付で新たに保険適用されたベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)での確認が必要となる。

HER2免疫染色標本による低発現または超低発現の診断目的に関しては、

  • ホルモン受容体陽性の手術不能又は再発乳癌患者に対して、HER2低発現又は超低発現の確認により当該抗悪性腫瘍剤の投与の適応を判断する目的
  • 過去にHER2低発現を確認する目的で本標本作製を実施しHER2陰性が確認されている、化学療法歴がありホルモン受容体陽性の手術不能又は再発乳癌患者に対してHER2超低発現の確認により当該抗悪性腫瘍剤の投与の適応を判断する目的


などの場合に保険算定されることになった1)。なお、関連する注意として「HER2低発現又は超低発現を確認した検査の実施年月日を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。なお、当該検査を実施した月のみ実施年月日を記載すること。ただし、本剤の初回投与に当たっては、必ず当該検査の実施年月日を記載すること」が挙げられている2)

 

病理・細胞検査のエキスパートレビュー

T-DXdとは、HER2を標的とするモノクローナル抗体に、強力な細胞傷害性薬を切断可能なリンカーで結合した抗体薬物複合体(antibody drug conjugate:ADC)であり、抗HER2抗体薬物複合体とも呼ばれる。トラスツズマブにトポイソメラーゼI阻害作用を有するデルクステカン(DXd)を結合しており、切断可能なリンカーとバイスタンダー効果によってHER2低~超低発現の腫瘍にも作用が届く仕組みである。つまり、HER2を“目印”に薬をピンポイントに投下し、ほどけた薬が染み出して周囲の細胞にも広がるため、HER2がわずかしかない腫瘍(低~超低発現)にも薬の効果が届きやすい3)図1)。

Fig 1 : エンハーツの作用機序 模式図
図1 エンハーツ®の作用機序(模式図)

 

1.何が新しい?

従来は、免疫組織化学(IHC)スコア0を一律に「0(陰性)」として記載し、治療的含意をもたせない運用だった。現在はIHCスコア0を二分し、完全に膜染色を認めない場合は「HER2 IHC:0(膜染色なし)」と明示して治療対象外であることを示す。一方、ごく一部でも膜染色を認める場合は「HER2 IHC:0(ultralow)」と表記し、所見内で「腫瘍細胞の≤10%に極微弱な膜染色」などの実数、強度を添える。

さらに、所見のコメント欄には、ホルモン受容体陽性かつ切除不能/再発の条件下でT-DXdの適応検討に関与する旨を明記し、コンパニオン診断薬〔=ベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)〕での判定に基づくこと、プレアナリシス工程や標本の条件(固定条件、ブロック差)への留意点も追記する。つまり、以前の「0=陰性の一括処理」から、現在は「膜染色なしの0(null)」と「膜染色ありの0(ultralow)」を像と言葉で仕分け、治療への橋渡し情報を書き込むスタイルへと変わった。

 

2.HER2低発現および超低発現の定義

HER2低発現(low)の定義は、「IHC 1+」または「IHC 2+かつISH陰性」。HER2超低発現(ultralow)の定義は、「IHC 0の中で膜染色あり(臨床試験では腫瘍細胞≤10%の膜染色)」となる。HER2超低発現(ultralow)と無発現(null)の染色像例を図2、3に示す。

図2 無発現(null)の染色像例
図2 無発現(null)の染色像例

図3 超低発現(ultralow)の染色像例
図3 超低発現(ultralow)の染色像例

 

今日から変える“超低発現”への即応チェックリスト

下記6項目を徹底し、“膜染色ありの0”を取りこぼさない検査体制にアップデートする。

  •  染色とプレアナリシスでは、固定条件とブロック差を所見に明記する。
  •  0 / 1+の境界例は、ダブルチェックを標準化する。
  •  病理検査システム(LIS)は0(null)/ 0(ultralow)/ 1+ / 2+ / 3+ へ分類を即時更新する。
  •  レセプトの摘要欄に検査実施年月日を必ず記載する。
  •  各バッチでは同時にコントロール(特に低発現コントロール)で感度を確認する。
  •  判定時は、非腫瘍上皮の膜染色、壊死縁、厚切りの縁染まりを除外する。

 

 

引用文献

1)日本病理学会:乳癌患者におけるHER2超低発現の保険収載に関しての運用とお願い.2025(https://pathology.or.jp/news/statement.pdf,アクセス日:2025年10月28日)

2)厚生労働省「医薬品医療機器等法上の効能・効果等の変更に伴う留意事項の一部改正について」(令和7年8月25日保医発0825第3号)

3)柳田絵美衣,他:コンパニオン診断薬・免疫組織化学.臨床検査,69:1040-1044,2025

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共著|濱田 誠(群馬パース大学医療技術学部検査技術学科)