Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 血液05
検査室へのAI導入に何が必要か——オートメーション化の歴史から考える


AI導入とオートメーション導入に共通すること
人工知能(AI)の発展が進むなか、「AIで検査室はどこまで効率化できるのか」が話題になる。
臨床検査の歴史を振り返ると、AI導入とオートメーション導入には共通する点がある。どちらも、新しい技術を置くだけでは十分に機能せず、その技術が働けるように工程や周辺の情報・条件を整える必要がある。
臨床検査では、自動分析装置や搬送システムの導入に伴い、検体の受付、前処理、搬送、測定、再検、結果報告までの流れを見直し、識別方法、測定条件、装置間の接続、異常時の対応を整理してきた。つまり、装置を導入する前に「装置が働ける環境」をつくったのである。
Khullarは、AIによる個々の業務の自動化と、職業そのものの消失は同じではないと論じている1)。臨床検査でも、AIが一部の定型業務を担っても、結果の解釈、例外処理、他職種との連携など、人が担う役割は残る。では、AIが働ける検査室には何が必要なのだろうか。
血液検査のエキスパートレビュー
1.オートメーション導入では、何を整えたのか
検査室のオートメーション化では、人によって異なっていた作業を工程に分け、共通の条件へ置き換えることが必要だった。Sasakiらは、日本で検査室のシステム化・自動化が1981年に始まり、その普及過程でラック形状・寸法などの標準化不足が課題であったことを報告している2)。現在のTotal Laboratory Automation(TLA)は、分析前・分析後を含む検査プロセス全体の統合へ広がっている3)。
AI導入でも、目的の明確化、現状の可視化、作業や条件の標準化という基本的な流れは共通している。一方、AIでは、作業工程に加えて、AIが利用する情報や、人がどの情報を見て何を根拠に判断し、どの条件で次の行動へ進むのかという判断のルール・プロセスまで整理する必要がある(表)。
| AI導入 |
オートメーション導入 |
共通する考え方 |
|
| 導入目的 | どの工程の何をAIに支援させるか |
どの作業・工程を装置化するか |
導入目的と対象を明確にする |
| 可視化 | 作業・情報の流れと判断する場面 |
検体・作業・装置の流れ |
現状の流れと人の役割を明らかにする |
| 標準化 | 作業・条件に加え、入力情報・判断条件・分岐 |
作業手順・測定条件・再検条件など |
技術が扱えるよう手順・条件をそろえる |
| 情報・システム | AIが利用できる形にデータを整理 |
装置・搬送・LISを接続 |
情報を整理し、連携できる形にする |
| 人が担う部分 | 不確実な出力や例外を確認・判断 |
検体・装置異常、測定不能への対応 |
技術に任せる範囲と、人が確認・判断する場面を明確にする |
| 品質保証 | 性能確認、データ品質、継続監視、更新後の再確認 |
精度管理、保守、工程の監視 |
継続して確認・改善する |
〔筆者作成〕
2.AI導入では「情報」と「判断プロセス」まで整える
AI導入では、現状の作業工程と情報の流れを可視化し、手順や条件を整理・標準化する。そのうえで、どの情報を使い、何を根拠に判断し、どの条件で対応を分け、どの行動につなげるのかを整理する。用語、入力項目、データ形式、判断に使う情報、優先順位、分岐条件などを可能な範囲で明確にする。
こうした作業工程や判断ルールを標準化するとき、すべてを同じ答えに固定する必要はない。臨床検査には境界例や例外がある。「通常はどうするか」だけでなく、「判断できないとき」「前提条件から外れたとき」「人が確認すべきとき」も整理しておく。どこまでをシステムやAIに任せ、どの場面で人が確認・判断するのかを明確にすることが重要である。
さらに、システムやAIで判断を支援するには、必要な情報自体も整理されている必要がある。紙の記録をPDF化したり、自由記載をそのまま電子化したりするだけでは、情報を検索・集計し、再利用することは難しい。定型化できる内容は項目や選択肢として整理し、必要な文脈や例外は自由記載として残す。
Padoanらは、検査値だけでなく、その生成や解釈に関わる属性情報や周辺情報の整理・標準化がAI活用にもつながると指摘している4)。システム化の前にExcelなどを利用して入力項目や選択肢をテスト的に運用し、必要な情報や例外を表現できるかを確認する方法も考えられる。
検査分野を超えて共通するAI導入の考え方
血液検査を例に、この考え方を当てはめてみる。①血球計数検査では、CBCの数値や装置フラグなどを手がかりに、再検するのか、②塗抹標本を作製して血液像を確認するのか、③どこまで結果を報告するのか——を判断している。
この一連の判断を「拾う→確かめる→分ける→選ぶ→つなぐ」の5工程として整理すると、定型化できる部分と人による判断が必要な場面を捉えやすくなる。AIが血球形態分類や異常細胞スクリーニングを支援する場合も、工程と役割の整理が重要になる。
さらに、この考え方は血液分野に限らない。生化学、微生物、輸血、病理、生理検査など分野が異なっても、作業工程を可視化し、必要な情報や判断ルールを整理し、自動化する部分と人が確認・判断する部分を明確にする考え方は共通する。臨床検査へのAI実装では、導入施設での性能確認、想定された使用目的に沿った運用、性能の継続的な監視、IT基盤の整備などが重要とされている5)。
マニュアル検査からオートメーションへ移行したとき、われわれは作業工程を可視化・標準化し、装置が働ける環境を整えてきた。AI導入でも、この基本的な考え方は変わらない。新しいAIを探す前に、①どの工程の何を支援させるのか、②必要な情報や判断ルールが整理されているか、③自動処理が適さない場合に人が確認・判断する仕組みがあるか——を見直す。そこが、AI活用の出発点になると考えられる。
引用文献
1)Khullar D : Artificial intelligence and the future of the clinical workforce. N Engl J Med, 395 : 1041-1043, 2026
2)Sasaki M, et al : Total laboratory automation in Japan. Past, present, and the future. Clin Chim Acta, 278 : 217-227, 1998
3)Plebani M : Total laboratory automation: fit for its intended purposes? Clin Chem Lab Med, 64 : 22-26, 2026
4)Padoan A, et al : Data flow in clinical laboratories: could metadata and peridata bridge the gap to new AI-based applications? Clin Chem Lab Med, 63 : 684-691, 2025
5)Yang HS, et al : Implementation of AI systems in the clinical laboratory: insights from an expert survey and recommendations for best practice. Clin Chem Lab Med, 64 : 1513-1526, 2026
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