Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 臨床化学・免疫血清01
BNP/NT-proBNP検査の解釈と報告を再考する——ガイドライン改訂を踏まえて


心不全診療ガイドライン改訂の本質——発症前の“予防”に重点1, 2)
2025年3月、日本循環器学会・日本心不全学会は心不全診療ガイドラインを7年ぶりに全面改訂した。今回の改訂でまず注目すべきは、名称が「急性・慢性心不全診療ガイドライン」から「心不全診療ガイドライン」へ変更された点である。これは、心不全が病態として急性・慢性の区別が困難であり、切れ目のないシームレスな治療の重要性を鑑みたためである。
近年、心不全の患者数が急増しており、2030年には約130万人以上に達すると推計されている。さらに、その罹患者率は高齢になればなるほど高くなるとも報告されている3,4)。こうした状況は「心不全パンデミック」とも呼ばれ、心不全リスクあるいは前心不全といわれる、いわば心不全発症前の状態から介入し、発症を予防することが重要視されている。
このような背景から、今回の改訂では治療のみならず、発症前からの“予防”に重きを置いた構成へと見直された。これを踏まえて2026年2月、日本心不全学会は心不全発症前のステージA/Bにおける介入を念頭に置いた非専門医向けのステートメント『心不全予防に関するステートメント(ステージA/B診療フローチャート)』を公表した。
臨床化学・免疫血清検査のエキスパートレビュー
心不全の診断、予後予測、治療効果の判定において、最も重要なバイオマーカーとしてナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)の測定が推奨されており、心エコーと並ぶ中心的な診断ツールと位置づけられている。今回の改版では『血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版』に準拠し、次のカットオフ値が反映されている(図)5)。
- 心不全の可能性がある外来でのカットオフ値(精査または循環器専門医への紹介を推奨)
BNP ≧35 pg/mL、NT-proBNP ≧125 pg/mL - 入院/心不全増悪時のカットオフ値
BNP ≧100 pg/mL、NT-proBNP ≧300 pg/mL

(日本心不全学会:血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント 2023年改訂版.2023より)
また、心不全以外でナトリウム利尿ペプチドが変動する要因もわかりやすくまとめられている(表)1)。

(日本循環器学会/日本心不全学会.2025年改訂版心不全診療ガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf.2026年4月閲覧)
現在販売されている試薬の添付文書には、基準範囲(試薬によっては正常値)が記載されているものもある。しかし、基準範囲はあくまで目安であり、心不全の診断や循環器専門医への紹介判断に用いられるカットオフ値(臨床判断値)とは意味合いが異なる。そのため、結果を報告する際には、両者を混同させない工夫が必要である。この機会に、臨床側と協議し、結果の報告方法について再検討するのもいいかもしれない。
BNPとNT-proBNPの特性を踏まえた結果解釈のポイント
1.安定性
BNPは生理活性を有し半減期も短いことから、血漿での測定かつ冷蔵での保管・処理が推奨される。一方、NT-proBNPは比較的安定しており、血清での測定が可能なことから検体の取り扱いの面ではBNPよりも扱いやすいとされる6)。
2.腎機能の影響
BNP、NT-proBNPとも腎機能の影響を受けるが、NT-proBNPは腎クリアランスが主であり、その影響はより大きい6)。
今回の改定では、心不全ステージA(リスク段階)に慢性腎臓病(CKD)が新たに追加されている。心不全は多臓器にわたる影響を及ぼす病態であるため、患者の全身的な状態や心腎連関を評価するバイオマーカーへの関心も高まっている。
3.薬剤の影響
心不全治療薬の一つであるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)投与時は一時的にBNPが上昇するため、導入時の解釈には注意が必要である7)。今回の改訂ではARNIがより早期から、より幅広い患者に使うべき薬剤としての位置づけが強化されたこともあり、使用患者数が今後増加することも考えられる。
もし、「BNPとNT-proBNP、どちらが優れたバイオマーカーなのか?」との問いがあるならば、「どちらも優れたバイオマーカーである」というのが適切な答えである。両者は、心不全の診断、予後予測、治療効果判定に広く用いられるが、患者背景や検査のタイミング、治療状況によってその解釈が異なる。したがって、検査値を単独で評価するのではなく、臨床情報とあわせて読み解き、目的に応じて使い分けることが重要である。
引用文献
1)日本循環器学会,他:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.2025
2)日本心不全学会:心不全予防に関するステートメント(ステージA/B診療フローチャート).2026
3)Okura Y, et al : Impending epidemic: future projection of heart failure in Japan to the year 2055. Circ J, 72 : 489-491, 2008
4)Shimokawa H, et al : Heart failure as a general pandemic in Asia. Eur J Heart Fail, 17 : 884-892, 2015
5)日本心不全学会:血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント 2023年改訂版.2023
6)加藤公則:BNP,NT-proBNP研究の最前線.人間ドック,31:541-549,2016
7)Milton Packer, et al : Angiotensin receptor neprilysin inhibition compared with enalapril on the risk of clinical progression in surviving patients with heart failure. Circulation, 131 : 54-61, 2015
続きを見るには会員登録
(無料)が必要です
会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。
MTJメールニュースの会員のみなさまへ
MTJメールニュースは、WEBサイト「MTJ ONE」にリニューアルいたしました。
お手数ですが、下記より再度、新規会員登録をお願いします。








