AI×循環器検査 AI 解析の臨床応用とマネジメント #3
AIによる心房細動リスクの可視化

はじめに——心房細動の早期発見における課題
心電図は日常診療において不可欠な診断ツールであり、不整脈から虚血性心疾患まで、幅広い疾患の診断において極めて重要な役割を果たしています。
なかでも、心房細動(AF)は臨床で遭遇する最も一般的な不整脈であり、心不全、脳卒中、さらには心臓突然死のリスクを増大させると報告されています1)。AFの有病率は年齢とともに増加する2)ことが知られているため、高齢化の進展に伴い、今後さらに患者数が増加することが予測されます。
AFの発症初期は持続期間が7日以内の発作性心房細動(PAF)を呈しますが、発作を繰り返すうちに心臓に電気的・構造的リモデリングが引き起こされ、持続性AFへと移行していきます。つまり、AFの持続そのものが、さらなるAFが発生・持続しやすい病態を作り出すことになります。したがって、AFの適切な管理治療を行うためにも早期発見と介入が必須となります。
しかし、PAFもしくは無症候性AFの場合では、12誘導心電図はもちろん携帯型心電計を用いても発作を記録できないことはしばしば経験されます。当然ながら臨床において発作時の心電図を記録できなければ確定診断することはできません。いくつかの報告から、AFによる電気的・構造的リモデリングは洞調律時の心電図にも微細な変化として反映されることが示唆されていますが、不整脈のプロフェッショナルであってもこれを目視で捉えることは困難です。
一方で、AIは人間の目には感知できない波形情報を検出する可能性を秘めています。本稿では、AIを用いて洞調律から隠れたAFリスクを検出・可視化する最新技術について概説します。
AIによる心房細動リスクの推定機能とは?
2024年、フクダ電子よりAI解析機能を搭載した12誘導心電計がリリースされました。この解析機能は、洞調律時の12誘導心電図を入力して学習済みのAIモデルによって隠れAFリスクを推定するものです。有症候・無症候にかかわらず、発作時心電図の記録がなく診断がついていない患者であっても、洞調律心電図からAFリスクを推定することが可能です。本機能はリスクを可視化し、携帯型心電計などを用いた精査へとつなげることで、AFの早期発見を目指す機能になります。
洞調律心電図から心房細動リスクを検出する仕組み
AFは引き金となるトリガーにより発生し、心臓の電気的・構造的リモデリングにより形成される不整脈基質により持続します。AF患者の心電図には洞調律時であっても、この不整脈基質の特徴が潜在的に反映されていると考えられています。
AI解析機能は、膨大なPAF患者と非PAF患者の洞調律心電図を学習データとした深層学習により構築されました。人間では判別不能な心電図波形の潜在的特徴を自動的に抽出し、AFのリスク分類を行います。AFを過去に発症していたリスクを「L(Low)< ML(Middle Low)< MH(Middle High)< H(High)」の4段階に評価されます。Lでは過去にAFを発症した可能性が非常に低い、Hでは過去にAFを発症した可能性が高いとされます。その診断精度は、感度72.3%、特異度77.7%と良好な成績が報告されており、スクリーニングツールとしての有効性が示されています。
なお、本機能には適切な解析を行うための除外基準(図1)が設けられており、すべての波形に適用できるわけではない点に留意する必要があります。

〔フクダ電子株式会社:CardiMax9 with AI technology;隠れ心房細動リスク推定機能.p4より〕
症例からみるAI解析機能の有用性
市立四日市病院(以下、当院)において、AI解析機能を用いた2症例をお示しします。
症例 1 心電図所見からも心房細動リスクが推測された症例(図2)
75歳男性、AFリスク推定結果:H
〔筆者作成〕
心電図所見としては、左房負荷、心房間伝導ブロック(Baye’s症候群)、右脚ブロック、左室肥大が挙げられます。
詳細は割愛しますが、Baye’s症候群はAF発症の強力な予測因子であり3)、心臓超音波検査でも左房容積係数が87.9 mL/m2と高度の左房拡大を認めました。実際過去にAFを発症しており、人間の目でも洞調律時の心電図からAFリスクが高いことを推定可能な症例に対し、AIが正当に「隠れ心房細動リスク推定結果:H」と評価した例になります。
症例 2 AIのみが心房細動リスクを検出した症例(図3)
52歳女性、AFリスク推定結果:H
〔筆者作成〕
心電図所見としては特記すべき異常はなく、心臓超音波検査でも左房容積係数は30.0と正常です。
しかし、AI解析機能は「隠れ心房細動リスク推定結果:H」を示しており、実際に過去にAF診断歴が確認されました。本症例の洞調律時の心電図からは心房拡大や、心房の伝導障害など、目視レベルでのAFリスクを示唆する所見は見られませんでした。このような症例の場合では人間の目でAFリスクを見抜くこと困難です。これこそがAI解析機能の有用性を示した症例であると考えます。
おわりに——AI心電図解析の可能性と今後の課題
AFの早期発見・介入が求められる現代医療において、洞調律心電図から一歩進んでAFリスクを可視化するAI技術は非常に有用なものになります。
一方で、AIの医療応用を考える際には考慮すべき点も多々あり、実際に院内で広く活用するようになるまで時間がかかります。本機能はあくまでも精査の必要性を示唆するスクリーニングツールであり、それ単体で確定診断を下すものではありません。リスク推定結果がHやMHと示された際、どのような頻度・内容の検査を行うかという臨床応用については、当院においても慎重に検討を重ねている段階にあります。
しかしながら、今後もさらに増加が予想されるAF患者のリスクを事前に予測することは、早期介入のためにも極めて意義深く、今後のさらなるAI技術の発展と普及が期待されます。
引用文献
1)Van Gelder IC, et al:2024 ESC Guidelines for the management of atrial fibrillation developed in collaboration with the European Association for Cardio-Thoracic Surgery (EACTS). Eur Heart J, 45:3314-3414, 2024
2)Tan S, et al:Burden and age-specific trends of atrial fibrillation/atrial flutter from 1990 to 2023: a growing challenge among younger and middle-aged adults. Europace, 28:euag036, 2026
3)Martínez-Sellés M, et al:Advanced interatrial block and P-wave duration are associated with atrial fibrillation and stroke in older adults with heart disease: the BAYES registry. Europace, 22:1001-1008, 2020
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編集|松林 正人(三重ハートセンター臨床検査科 技師長)

松本 悠真
三重県の市立四日市病院に勤務し、9年目。不整脈治療や超音波検査などの生理検査業務に従事する傍ら、日常業務を通して心電図の奥深さに魅了される。現在は「心電図の沼」にハマり、難解な心電図波形に悩まされる日々を送る。心電図検定マイスターを2度取得。JAMT技術教本の執筆にも携わり、講演会や学会活動にも力を入れている。





