Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 微生物05
IDSA AMR Guidance 2026から考える薬剤耐性菌検査——菌名とS/I/Rの先に何を返すか


2026年版が示す「S/I/Rだけでは足りない」理由
2026年に改訂された米国感染症学会(IDSA)の抗菌薬耐性(AMR)グラム陰性菌感染症治療ガイダンスは、基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生腸内細菌目細菌(ESBL-E)、AmpC βラクタマーゼ産生腸内細菌目細菌(AmpC-E)、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)、治療困難耐性Pseudomonas aeruginosa(DTR P. aeruginosa)、カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii complex(CRAB)、Stenotrophomonas maltophiliaを対象としている。
本ガイダンスは米国の治療指針であり、日本の診療にそのまま当てはめるものではない。また、治療選択を示す文書であり、薬剤感受性判定基準そのものを定めるものではない。薬剤感受性カテゴリーであるS(感性)、I(中間)、R(耐性)の判定や検査法についてはClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)などの基準を参照し、本ガイダンスの治療提案とは区別して理解する必要がある。一方、検査室にとっては、耐性菌を検出したときに「どの情報を追加で確認すべきか」「どの結果を診療側に伝えるべきか」を考えるうえで有用である。
こうした位置づけを踏まえ、2026年版の主な変更点と、検査室が注目したいポイントを整理する。
2026年版の重要なメッセージは、耐性菌感染症を菌名とS/I/Rだけで判断しないという点である。本ガイダンスでは、原因菌の同定と薬剤感受性試験(AST)の結果を前提に、治療選択が整理されている。また、経験的治療では、過去12カ月の微生物検査結果、過去3カ月の抗菌薬曝露歴、地域や施設の累積感受性データを考慮することが示されている。
1.ESBL-EとAmpC-E——菌種ごとのリスクを捉える
検査室で特に意識したいのが、ESBL-EとAmpC-Eである。
ESBL-Eについて、2026年版では、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytocaのセフトリアキソン耐性、すなわち最小発育阻止濃度(MIC)4µg/mL以上がESBL産生の代替指標として扱われている。なお、2024年版で対象に含まれていたProteus mirabilisは2026年版ではこの記載から外れている。
AmpC-Eでは、従来の語呂合わせではなく、菌種ごとのリスクを理解することが重要である。特にEnterobacter cloacae complex、Klebsiella aerogenes、Citrobacter freundiiは、臨床的に問題となる誘導型AmpC産生のリスクが比較的高い菌種である。Hafnia alveiも臨床経験は限られるものの、in vitroデータから同様のリスクカテゴリーとして整理されている。
2.CRE——S/I/Rに加えて確認したい耐性機序
CREでは、単に「カルバペネム耐性」と報告するだけでは不十分な場面がある。カルバペネマーゼには、KPC、OXA-48-likeのほか、メタロβラクタマーゼ(MBL)に分類されるNDM、VIM、IMPなどがある。カルバペネマーゼのクラスや遺伝子型によって有効な抗菌薬が異なるため、2026年版でもカルバペネマーゼタイプの同定は治療判断を最適化するために重要とされている。
微生物検査のエキスパートレビュー
IDSA AMR Guidanceは治療ガイダンスであるが、検査室にとっても多くの有意義な情報がある。なぜなら、耐性菌治療の前提となるのは、正確な菌種同定、AST、耐性機序の把握だからである。
1.「S」の判定だけでは捉えきれないAmpC-E
例えばAmpC-Eでは、初回ASTでセフトリアキソンなどの第3世代セファロスポリン系薬が「S」に判定されることがある。しかし、E. cloacae complex、K. aerogenes、C. freundiiでは、治療中にAmpCが強く発現し、耐性化する可能性がある。H. alveiについても、臨床データは限られるものの、同様の誘導型AmpC産生リスクを考慮する菌種として位置づけられている。つまり、これらの菌種では「S」と判定されていても、そのまま安心してよいとは限らない。検査室は、菌種名とAST結果を組み合わせて解釈する必要がある。
一方で、Serratia marcescens、Morganella morganii、Providencia spp.などは、従来AmpC産生菌として一括りにされることがあった。しかし、2026年版では、これらの菌種で臨床的に問題となるAmpC過剰産生が生じる頻度は比較的低いと整理されている。したがって、昔から使われてきた「SPACE」「SPICE」といった語呂合わせだけで判断するのではなく、菌種ごとのリスクを理解することが重要である。
2.CREではカルバペネマーゼの型別までみる
CREでは、さらに一歩踏み込んだ対応が求められる。CREには、カルバペネマーゼを産生するものと、ESBLやAmpC産生に、外膜ポーリンの減少・欠損による外膜透過性低下などが加わってカルバペネム耐性を示すものがある。特にカルバペネマーゼ産生CREでは、KPC、NDM、IMP、VIM、OXA-48-likeなどの型別が治療薬選択に関わる。日本ではIMP型MBLの存在が特に重要であり、CREを検出した場合には、カルバペネマーゼ産生の有無と型別をどこまで確認できるかが実務上のポイントとなる。
ただし、耐性遺伝子の検出はASTを代替するものではない。特にP. aeruginosaでは複数の耐性機序が関与するため、カルバペネマーゼ遺伝子の結果のみから新規βラクタム系薬の感受性を推測せず、実測したAST結果とあわせて判断する必要がある。
3.感染か定着か、検出結果の意味を読む
すべての対象病原体について、感染と定着を区別することが重要であり、特にCRABやS. maltophiliaでは、その判断がしばしば難しい。S. maltophiliaは、呼吸器検体から検出されても定着の場合があり、治療対象とするかどうかは患者背景と臨床像をあわせて判断する必要がある。一方で、血液培養陽性例、特に血液悪性腫瘍患者における菌血症や出血性肺炎などでは真の病原体となりうる。
2026年版では、侵襲性S. maltophilia感染症に対してセフィデロコル単剤がpreferred therapyとされた。しかし、その根拠となる比較臨床データは依然限られており、ASTの測定法の再現性やMICと臨床転帰の関連にも課題が残る。
したがって、検査室の役割は、単に菌名とS/I/Rを返すことではない。耐性菌を検出したときに、その結果が治療選択や感染対策にどのような意味を持つのかを、臨床側に伝わる形で整理することである。主なポイントを表に示す。
| 対象 | 2026年版の要点 | 検査室で押さえるポイント |
| ESBL-E | E. coli、K. pneumoniae、K. oxytocaではセフトリアキソン MIC ≥4 µg/mLをESBL産生推定の代替指標とする(2024版に含まれたP. mirabilisは2026版では対象外)。 | セフトリアキソン耐性だけでESBL確定とはしない。必要に応じて確認試験・遺伝子検査を追加し、治療薬の選択には実測したAST結果を用いる。 |
| AmpC-E | E. cloacae complex、K. aerogenes、C. freundiiは、臨床的に問題となる誘導型AmpCの中等度リスク菌種である。H. alveiも試験管内データから同じカテゴリーに位置づけられる。侵襲性感染症では、第3世代セファロスポリン系薬がSでも原則として選択しない。 | 「SPACE」「SPICE」などで一括りにせず、菌種ごとのAmpC誘導リスクを踏まえて判断する。 |
| CRE | CREには、非カルバペネマーゼ産生菌とカルバペネマーゼ産生菌がある。KPC、MBL(NDM・VIM・IMPなど)、OXA-48-likeなど、カルバペネマーゼの型によって有効な薬剤が異なる。 | 可能であればカルバペネマーゼ産生の有無と型を確認する。ただし、遺伝子型だけで判断せず、AST結果と合わせて解釈する。日本ではIMP型MBLも重要である。 |
| DTR P. aeruginosa | セフィデロコル、セフタジジム・アビバクタム、セフトロザン・タゾバクタム、イミペネム・シラスタチン・レレバクタムは菌株ごとに活性が異なるため、4剤すべてのASTを行うよう検査室に促している。 | 他剤の結果から感受性を推測せず、4剤を個別に測定する。治療中の再分離や感染再燃時にはAST再検を検討し、必要に応じて外注検査や専門家相談につなぐ。 |
| CRAB | 感染と定着の区別が重要である。侵襲性CRABでは、sulbactam-durlobactam+イミペネムまたはメロペネムが優先される治療選択肢である。 | 呼吸器・創部検体では定着の可能性を考え、検体情報や患者背景と合わせて解釈する。AST法や使用可能な薬剤には地域・施設差がある。 |
| S. maltophilia | 侵襲性感染症ではセフィデロコル単剤が優先される治療選択肢である。ただし、根拠は主に感受性データと好中球減少動物モデルで、臨床データは限定的である。 | まず感染か定着かを判断する。ASTの再現性やMICと臨床転帰の関連には限界があるため、S/I/Rだけで単純に判断しない。 |
〔Tamma PD, et al : Clinical Infectious Diseases, ciag481, 2026を基に筆者作成〕
検査室で確認したい5つのポイント
本ガイダンスを日常業務に活かすには、すべての治療薬を覚える必要はない。まず重要なのは、耐性菌を検出したときに、検査室としてどこで立ち止まるかを決めておくことである。
第一に、AmpC-Eでは菌種名を確認する。E. cloacae complex、K. aerogenes、C. freundii、H. alveiが検出された場合、第3世代セファロスポリン系薬の「S」という結果をそのまま治療上安全と考えてよいか、慎重に解釈する必要がある。
第二に、CREではカルバペネマーゼの有無と型別を意識する。院内で検査を実施できない場合でも、どのような症例を外注検査や専門家相談につなぐか、あらかじめ決めておくことが重要である。
第三に、DTR P. aeruginosa、CRAB、S. maltophiliaでは、追加ASTや再検査の必要性を考える。特にDTR P. aeruginosaでは、セフィデロコル、セフタジジム・アビバクタム、セフトロザン・タゾバクタム、イミペネム・シラスタチン・レレバクタムの4剤について、他剤の結果から活性を推測せず、個別にASTを実施することが重要である。また、P. aeruginosaでは、治療中に再分離された場合や感染の再燃が疑われる場合にはrepeat ASTを検討する。
第四に、定着と感染の鑑別を意識する。CRABやS. maltophiliaは、呼吸器検体や創部検体から検出されても、必ずしも治療対象とは限らない。一方で、血液培養陽性例や免疫不全患者では重要な病原体となりうる。検査室は、菌名とS/I/Rだけでなく、検体背景や混合菌の有無を踏まえ、必要に応じて「臨床像と合わせて感染症としての意義を判断する」ことを促すコメントを活用したい。
第五に、測定可能な抗菌薬をすべて一律に報告するのではなく、施設の抗菌薬適正使用支援チームやICTと連携し、必要な薬剤を選択的に報告するselective reportingもdiagnostic stewardshipの観点から検討したい。
IDSA AMR Guidance 2026は、米国の治療ガイダンスである。しかし、日本の検査室にとっても、耐性菌検査を診療にどうつなげるかを考えるための有用な資料である。これからの検査室には、菌名とS/I/Rを返すだけでなく、菌種、耐性機序、感染部位、患者背景を踏まえて、結果の意味を伝える力が求められる。
引用文献
1)Tamma PD, et al : Infectious Diseases Society of America 2026 guidance on the treatment of antimicrobial-resistant gram-negative infections. Clinical Infectious Diseases, ciag481, 2026
2)Tamma PD, et al : Infectious Diseases Society of America 2024 Guidance on the Treatment of Antimicrobial-Resistant Gram-Negative Infections. Clinical Infectious Diseases, ciae403, 2024
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