Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 病理・細胞03
4月1日付で肺がん検診から喀痰細胞診が除外 ――そのニュースを、どう受け止めるか


2026年4月1日付で肺がん検診から喀痰細胞診が除外1,2)
『有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン2025年度版』を踏まえ、喀痰細胞診は2026年4月1日付で肺がん検診の項目から削除される方針が示された。
喀痰細胞診の主な標的であった肺門部扁平上皮がんは、喫煙率低下や喫煙様式の変化により大幅に減少し、喀痰細胞診単独で発見される肺がんは40年前の1/10以下、近年は全国で年間20~30人程度にとどまる。胸部X線検査に喀痰細胞診を追加しても得られる死亡率の減少効果は極めて小さいと評価され、検診としての有効性は乏しい。
一方で、喀痰のある者は有症状者であり、医療機関の受診を促すことが重要とされている。今後は検診項目から喀痰細胞診を外す一方、問診で喀痰の有無を確認し、早期受診につなげる対応が想定されている。
病理・細胞検査のエキスパートレビュー
肺がん検診において喀痰細胞診が項目から外れるというニュースは、すでに多くの場で報じられた3)。「細胞診はもう不要なのか」「時代遅れの検査になってしまうのか」、そうした思いを抱くのも無理はない。
しかし、この変化を単なる“検査の縮小”として捉えるのは本質ではない。この出来事を、私たち検査技師はどう受け止めるべきだろうか。
1.なぜ、喀痰細胞診は肺がん検診から外れるのか?
前述した通り、喫煙者数の大幅な減少に伴い、喫煙と強く関連する扁平上皮がんなどの罹患者数は低下している。扁平上皮がんは肺門部(中枢側)で発生しやすく、喀痰内にがん細胞が含まれやすいため、かつては喀痰細胞診が有効に機能してきた(図1)。
一方、近年増えているのは、▽非喫煙者にも発生、▽肺の末梢(肺野部)に発生、▽小型で、初期症状が出にくい、▽画像での検出に優れる——といった特徴をもつ肺腺がんを中心とした肺がんである。つまり、喀痰細胞診検査の価値自体が失われたのではなく、社会構造と疾患構造の変化により、検診という枠組みの中で標的とすべき病変が変化した結果、喀痰細胞診が適合しなくなったのである。
2.低線量CTは細胞診の“代わり”なのか?2,4)
『有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン2025年度版』では、複数のランダム化比較試験の結果から重喫煙者(喫煙指数600以上)に対する低線量CT(LDCT)が推奨度Aと評価され、第45回がん検診のあり方に関する検討会においても肺がん検診に導入される方針が示された。
では、低線量CTは細胞診の“代わり”なのだろうか? 答えはNOだ。LDCTは、通常のCT検査よりも放射線量を抑えつつ、肺全体を詳細に観察でき、検診として繰り返し実施できる点が大きな特徴である。その特徴から、
・肺野部の小型病変に強い
・無症状の段階で拾い上げられる
・集団検診としての感度が高い
という点で、肺がんの“現在の姿”に適した検査である。しかし同時に、
・病変の「正体」はわからない
・良悪性・組織型は確定できない
・治療選択に直結する情報は得られない
という限界も明確である。つまり、「見つけるのがCT、決めるのが細胞診・組織診」であり、この役割分担は、今後さらに明確になっていく(図2)。
変わったのは制度、変わらないのは専門性
喀痰細胞診が肺がん検診の項目から外れることは、「細胞診が不要になった」ことを意味しない。今回の見直しは、検診という枠組みの中で追加的な効果が小さくなったという評価であり、細胞診そのものの価値が否定されたわけではない。
むしろ細胞診は、診療の現場で病変を疑われた患者に対し、治療選択を左右する情報を提供する“決める検査”として、これからも不可欠である。喀痰、気管支洗浄、穿刺吸引から得られる細胞の所見は、▽組織型の推定、▽分子標的治療への道筋、▽次に行う検査の判断——へとつながり、これらは画像検査では決して代替できない。
検査が、「どこで」「誰のために」「どんな価値を提供するのか」。今回、その問いを改めて突きつけられた。精度を保ち、技術を磨き、必要な場で最良の検査を届ける——その積み重ねこそが、臨床検査技師としての専門性を強め、患者と医療に確かな貢献をもたらすだろう。
引用文献
1)厚生労働省:令和7年10月9日 第45回がん検診のあり方に関する検討会資料;肺がん検診について.2025
2)国立がん研究センターがん対策研究所:有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン2025年度版.2025
3)肺がん検診の喀痰細胞診を廃止へ 来年4月に指針改正.MTJ ONE(2025年10月22日)
4)日本CT検診学会:肺がんCT検診ガイドライン(https://jscts.org/index.php?page=guideline_index,アクセス日:2026年1月20日)
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共著|濱田 誠(群馬パース大学医療技術学部検査技術学科)





