Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 微生物04
真菌・抗酸菌検査は“検体選択”から始まる——スワブ検体と低収率検査を見直す


真菌・抗酸菌検査の利用実態と主な知見
Schraderらは、低結核罹患地域にある大規模アカデミック医療センターにおいて、5年間に実施された真菌および抗酸菌の塗抹・培養検査について、その利用状況と陽性率を後方視的に解析した。その結果、真菌・抗酸菌検査は、しばしば感染症の事前確率が低いと考えられる場面でも依頼されており、特に非呼吸器検体、手術室由来検体、スワブ検体で陽性率が低いことが示された。
真菌検査では、非呼吸器検体の培養陽性率は呼吸器検体より低く、スワブ検体では糸状菌の回収率が不良であった。また、真菌塗抹陽性となったスワブ検体のうち、臨床対応を実際に変えたものはごく少数であった。
抗酸菌検査でも、非呼吸器検体の塗抹陽性率は0.3%、培養陽性率は1.2%と低く、スワブ検体での培養陽性率は低かった。さらに、非呼吸器抗酸菌塗抹が臨床対応を変えた症例は極めて限られていた。
Schraderらは、真菌・抗酸菌検査を一律に減らすべきとは述べていない。むしろ、検査の価値を高めるために、下記のような対応を提案している。
- スワブ検体の使用を避けること
- リスク因子に基づいて依頼を絞ること
- 同一手技での重複検体を減らすこと
- 非呼吸器抗酸菌塗抹には承認制や電子カルテ上でリスク因子・依頼目的・重複検体の有無を確認する臨床意思決定支援ツール(clinical decision support tool)を導入すること
微生物検査のエキスパートレビュー
真菌培養や抗酸菌培養は、日常細菌培養では検出しにくい病原体を評価するうえで重要な検査である。一方で、専用の培地、染色、長期培養、熟練した判定を要するため、検査室の人的・時間的資源を大きく消費する検査でもある。
さらに令和8年度診療報酬改定では、一般培養とあわせて真菌培養を実施した場合に真菌培養加算が新設された。これは真菌培養の労力や意義が評価されたものと考えられるが、同時に「本当に真菌培養を行うべき検体か」を見極める視点がこれまで以上に重要になる。
1.真菌培養加算を「適正利用」を考える契機に
令和8年度診療報酬改定では、同一検体について一般培養と併せた真菌培養に対して真菌培養加算が新設された。真菌培養は、一般細菌培養とは異なる培地や培養条件、観察期間、同定プロセスを要するため、検査室にとって大きな負荷を伴う。加算の新設は、こうした専門的な検査業務が評価されたものといえる。
しかし、加算が設けられたからといって、すべての検体に真菌培養を追加すればよいわけではない。むしろ、真菌培養が正当に評価される時代だからこそ、検査室は「どの検体に真菌培養を実施すべきか」を診療側と共有する必要がある。検査件数を増やすのではなく、必要な検査を、適切な検体で、適切な患者に届けることが重要である。
2.スワブ検体を避け、「より良い検体」を選ぶ
本論文で最も現場に直結するメッセージは、スワブ検体の問題である。
スワブは採取が容易で提出しやすい一方、採取できる検体量が限られ、微生物を十分に回収できないことがある。特に糸状菌や抗酸菌を対象とする検査では、検体量や検体の質が結果に大きく影響する。
Schraderらの解析でも、非呼吸器スワブ検体からの糸状菌回収率は低く、抗酸菌培養でもスワブは非スワブ検体より劣っていた。さらに、スワブからの塗抹陽性の結果が実際に治療方針を変える頻度は極めて低かった。つまり、スワブ検体で提出された真菌・抗酸菌検査は、検査室の負担に比して臨床的有用性が限られることが多い。
この結果は、日本の検査室でも参考になる点が多い。手術室や外来で「念のため」にスワブで提出される真菌・抗酸菌培養に対し、検査室は単に受け身で処理するのではなく、組織、膿、体液など、より適切な検体を推奨する役割を担うべきである。
3.依頼を断るのではなく、検査の入口を設計する
Diagnostic Stewardshipとは、検査を減らすことではない。検査が最も診療に役立つように、依頼、検体採取、検査実施、結果報告の流れを設計することである。本論文でも、①非呼吸器抗酸菌塗抹の一律実施を見直すこと、②患者のリスク因子に基づいて培養依頼を絞ること、③同一患者からの過剰な重複検体を制限すること——が提案されている。
例えば、非呼吸器検体の抗酸菌塗抹は、陽性率が低く、臨床対応を変える頻度も限られるため、通常依頼ではなく、承認制とすることが考えられる。一方で、免疫不全、結核・非結核性抗酸菌症の既往、疫学的曝露、画像所見、肉芽腫性病変などのリスク因子がある場合には、積極的に実施すべきである。重要なのは、検査室が「不可」と返すことではなく、「この検査が有用となる条件」を明確に示すことである。
以上の考え方を実務に落とし込んだ依頼前チェックフローを図に示す。

検体選択から始める検査適正化
現場で実践すべきポイントは3つに整理できる。
第一に、真菌・抗酸菌検査の依頼時に、検体の質を確認することである。スワブではなく、可能な限り組織、膿、体液など十分量の検体を提出してもらう。特に手術室由来検体では、採取時点でどの容器に何を提出するかを外科系診療科と事前に共有しておくことが重要である。
第二に、リスク因子に基づく依頼ルールを整備することである。真菌症や抗酸菌症は、免疫不全、基礎疾患、疫学的曝露、感染部位などにより事前確率が大きく変わる。電子カルテ上の依頼時コメントやチェック項目を用いて、検査の必要性を確認する仕組みを作ることが望ましい。
第三に、重複依頼を減らすことである。同一手技で複数検体が提出される場合、すべてに真菌・抗酸菌塗抹培養を実施する必要があるとは限らない。施設ごとの陽性率や臨床的有用性を確認し、非呼吸器検体では検体数の上限や承認制を検討することができる。
真菌培養加算の新設は、真菌培養の専門性が評価された一方で、検査室に「適正な検査利用」を求める契機でもある。真菌・抗酸菌培養は、単に依頼されたら実施する検査ではない。どの患者に、どの検体で、どの目的で実施するかを診療側と共有して初めて、その価値が最大化される。これからの微生物検査室には、検査を実施する力だけでなく、検査の入口を設計する力が求められる。
引用文献
1)Schrader SM, et al : A myco-management problem: improving utilization of fungal and mycobacterial smear and culture. J Clin Microbiol, 64 : e0003026, 2026
2)厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第69号)
続きを見るには会員登録
(無料)が必要です
会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。
MTJメールニュースの会員のみなさまへ
MTJメールニュースは、WEBサイト「MTJ ONE」にリニューアルいたしました。
お手数ですが、下記より再度、新規会員登録をお願いします。








