Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 輸血03
緊急輸血をどう最適化するか——検査モニタリングに基づく目標指向型管理


外傷性大量出血管理の基本戦略
本ガイドは、欧州の麻酔科、集中治療、救急、外傷外科など6学会からなるTask Force for Advanced Bleeding Care in Trauma(ABC-T)によって作成された1)。本ガイドの特徴は、外傷患者の管理を受傷直後から退院後の血栓予防まで、時系列に沿った一連のプロセスとして捉えている点にある。
基本理念は、受傷から止血までの時間を最小限に短縮し、迅速な止血(damage control resuscitation)と凝固障害の早期診断・補正を行うことにある。初期評価ではFAST(focused assessment with sonography in trauma)/POCUS(point-of-care ultrasonography)や造影全身CTを用いた出血源の検索を推奨するとともに、Hb、乳酸、base deficit(base excessのマイナス方向)、PT/INR、フィブリノゲン、血小板数などを繰り返し評価することを求めている。循環管理では、頭部外傷を伴わない患者に対し、過剰輸液を避けた許容的低血圧(収縮期血圧80〜90mmHg)を基本戦略とし、赤血球輸血はHb 70〜90g/L(7.0g/dL〜9.0g/dL)を目標とした制限的輸血戦略を採る。凝固管理では、ROTEM(rotational thromboelastometry)やトロンボエラストグラフィ(TEG)などの粘弾性検査やフィブリノゲン値を用いた目標指向型凝固管理(goal-directed coagulation therapy)を重視し、フィブリノゲン低下に対する早期補充を推奨するほか、トラネキサム酸の受傷3時間以内投与を求めている。
これらの推奨に共通するのは、あらかじめ定めた固定比率での輸血〔例:赤血球液(pRBC):新鮮凍結血漿(FFP):血小板(PC)=1:1:1〕に頼るのではなく、患者ごとの凝固異常を検査値に基づいて評価し、必要な血液製剤・凝固因子製剤を個別に選択する治療への転換である。この点は、現在の欧州における外傷性大量出血管理の標準的な考え方を示すものといえる。
輸血検査のエキスパートレビュー
1.出血の"見えにくさ"を検査値で補う——Hb/Hctと乳酸/base deficit
従来、急性出血初期ではHb/Hctは、患者が全血を失うことや、体液シフト(transcapillary refill)および輸液による血液希釈がまだ十分起こっていないため、出血評価には有用性が低いと考えられてきた。
しかし、最近では病院前のPOC-Hbも限定的ながら有意出血の予測に寄与し、病院到着後の検査室Hbはさらに高い予測能を示すことが報告されている2)。本ガイドでは、単回値ではなく経時的な変化を追うことの重要性が強調されている。
乳酸値は出血性ショックの重症度を反映する感度の高い指標であり、測定できない場合はbase deficitが代替となる。ただし、飲酒歴がある患者では乳酸の信頼性が低下する点も注意が必要である。
2.凝固モニタリングの選択肢——従来検査、POC、粘弾性検査
PT/INR、フィブリノゲン、血小板数といった従来検査に加え、POC-PT/INRやROTEM/TEGなどの粘弾性検査(VEM)を組み合わせたモニタリングが推奨されている。
VEMは、凝固時間、血栓強度、線溶を含めた凝固状態をリアルタイムに評価でき、従来型凝固検査では捉えられない凝固障害を検出でき、特に線溶の評価が可能である3)。一方で、VEMには複数の解析プラットフォームが存在するため、機器間の測定値の一致性や標準化について検証が進められている4)。
血小板機能検査(POC platelet function test:POC-PFT)については、ルーチンでの使用は推奨されない。抗血小板薬服用の検出には一定の有用性が報告されているものの、外傷後の転帰予測や治療方針決定への活用は、現時点でエビデンスが十分に確立していない。
3.見落とされがちな検査項目——イオン化カルシウム
大量輸血時ではクエン酸によるキレート作用で低カルシウム血症を来すことがあり、イオン化カルシウムを個別に評価する必要がある。
来院時のイオン化カルシウム低値は、死亡率ならびに24時間以内の複数回輸血および大量輸血の増加と関連し、多変量解析では赤血球5単位以上の輸血を必要とすることの独立予測因子とされた5)。
4.抗血栓薬服用患者への対応——DOAC/VKAの検査室での評価
PT、抗Xa活性、トロンビン時間の3種の検査で、ビタミンK拮抗薬(VKA)、Xa阻害薬、トロンビン阻害薬のいずれの薬剤による抗凝固かを鑑別できる。
Xa阻害薬の拮抗薬(中和薬)であるアンデキサネットアルファ投与後は、希釈の影響で通常の抗Xaアッセイが過大評価となるため、希釈を抑えた専用アッセイが必要である6)。
目標指向型管理を支える検査体制
本ガイドが一貫して示しているのは、あらかじめ定めた固定比率(例:pRBC:FFP:PC=1:1:1)で機械的に輸血を進める管理から、検査値に基づいて患者ごとの凝固異常を評価し、必要な血液製剤・凝固因子製剤を都度選択する目標指向型の管理への転換である。固定比率輸血は、初期の判断が遅れがちな超急性期を乗り切るための一時的な戦略として位置づけられており、それ自体を最終目標とすべきではない。検査部門に求められているのは、この目標指向型システムを臨床側とともに機能させるための土台づくりである。
1.検査結果が出るまでの時間を、システムの一部として管理する
目標指向型管理は、検査値が迅速かつ継続的に提供されて初めて成立する。本ガイドが示す質の管理指標(表)1)には「病院到着から、血算、PT、フィブリノゲン、カルシウム、粘弾性検査(可能な施設)一式が揃うまでの時間」が明記されており、これは単なる検査室内部の効率指標ではなく、目標指向型管理そのものが機能しているかを測る診療の質指標として位置づけられている。自施設の緊急検査の所要時間(turnaround time:TAT)を定期的に把握し、遅延が生じている場合はどの工程がボトルネックになっているかを臨床側と共有する視点が求められる。
〔Rossaint R, et al : Crit Care, 27 : 80, 2023より一部改変/© The Author(s)2023, CC BY 4.0.〕
2.「固定比率」から「トリガー値」への意識転換を、院内プロトコルに落とし込む
初期の凝固支持療法としては、フィブリノゲン濃縮製剤またはクリオプレシピテートとpRBCを組み合わせる戦略、あるいはFFPをpRBCに対し少なくとも1:2の比率(pRBC 2単位につきFFP 1単位以上)で投与する戦略のいずれかが示されている。さらに、大量出血にフィブリノゲン値150mg/dL以下の低フィブリノゲン血症(または粘弾性検査での機能的フィブリノゲン欠乏所見)を伴う場合には、フィブリノゲン濃縮製剤またはクリオプレシピテートによる補充が推奨されている。
検査部門としては、この「固定比率から個別化へ」の切り替えポイントとなる迅速検査、POCの導入について検討していく必要がある。漫然とした固定比率輸血の継続は、不要な血液製剤の消費や個々の患者の凝固異常を見逃すリスクにつながりかねないことも輸血管理部門としては認識しておきたい。
3.「見えない出血」「見えない凝固障害」を検査項目として意識的に拾い上げる
Hb/Hct値が正常範囲であっても早期の出血をマスクしうる点、通常の凝固検査ではイオン化カルシウムの低下が反映されない点は、いずれも「検査値が正常=問題なし」という誤った安心につながりやすい落とし穴である。大量輸血が想定される症例では、血液ガス分析にイオン化カルシウムをあらかじめ組み込むなど、目標指向型管理の網から漏れやすい項目を意識的に運用に組み込む工夫が有効である。
引用文献
1)Rossaint R, et al : The European guideline on management of major bleeding and coagulopathy following trauma: sixth edition. Crit Care, 27 : 80, 2023
2)Figueiredo S, et al ; Traumabase group : How useful are haemoglobin concentration and its variations to predict significant haemorrhage in the early phase of trauma? A multicentric cohort study. Ann Intensive Care, 8 : 76, 2018
3)Gratz J, et al : Protocolised thromboelastometric-guided haemostatic management in patients with traumatic brain injury: a pilot study. Anaesthesia, 74 : 883-890, 2019
4)Neal MD, et al : A comparison between the TEG 6s and TEG 5000 analyzers to assess coagulation in trauma patients. J Trauma Acute Care Surg, 88 : 279-285, 2020
5)Magnotti LJ, et al : Admission ionized calcium levels predict the need for multiple transfusions: a prospective study of 591 critically ill trauma patients. J Trauma, 70 : 391-397, 2011
6)Bourdin M, et al : Measuring residual anti-Xa activity of direct factor Xa inhibitors after reversal with andexanet alfa. Int J Lab Hematol, 43 : 795-801, 2021
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