検査室

変わり続ける検査の現場 #23 九州中央病院
若手技師が挑む組織改革 「ジェネラリスト育成」の8年

2025.11.03 06:00 会員限定記事を示すアイコン



業務拡大や働き方改革などを背景に、幅広い検査分野を担当できる「ジェネラリスト型」の臨床検査技師が注目されている。九州中央病院(福岡市、330床)の検査技術科は2017年ごろから、検体部門でジェネラリストの育成をいち早く開始した。その後の業務改善もあって、年休取得日数を大きく増やしながら検体担当技師の人数を1人削減する人員配置の適正化を実現した。現在、検体部門が軸となり、取り組みを生理検査や細菌検査部門に広げている。


 

九州中央病院は、救急医療とがん診療を柱とする急性期病院。病院のホームページによると、2次救急医療機関として年9000人近い救急患者を受け入れ、救急車の搬入患者数は年約5000人に上る。地域がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院の機能も持ち、がん患者数は年約1400例となっている。

1日平均の外来患者数は、2020年度に落ち込んだものの、2021年度から回復し、2023年度にはコロナ禍前の約3%増となる670.8人に増加した。検体数も年々増加傾向という。

検査技術科には臨床検査技師35人が在籍し、検体検査から細菌検査、病理検査、生理検査まで幅広い検査分野を網羅する。検体部門には、検体分注装置(1台)のほか、生化学(2台)や免疫(2台)、血算(2台)、凝固(1台)、輸血(1台)の各検査装置がワンフロアに配置されている。検体搬送システムは未導入で、受け付けや分注後、担当技師がそれぞれの装置に検体を投入している。検査は24時間365日体制だ。

 

2017年から取り組みを開始

佐谷氏
佐谷氏

主任臨床検査技師の佐谷純一氏によると、検体部門のジェネラリストの育成は2017年にさかのぼる。当時、検体部門は8人体制。一般、生化学・免疫、血液・輸血の3つの領域のルーチン検査をそれぞれ2人、3人、2人の臨床検査技師が担当していた。佐谷氏は、「各検査室が完全に分かれ、一部を除き臨床検査技師の連携がない。複数部門を担当できる一部の技師に仕事が偏っている状況だった」と当時を振り返る。

業務量のアンバランスは組織内にストレスと不満を生む。この状況を改善しようと佐谷氏が検体部門に異動となり、改革に着手する。「みんなが3つの部門を担当できるようになれば公平・平等になる」(佐谷氏)。そう考え、複数の検査領域を担当できる臨床検査技師の育成を開始した。8年後の現在も続く「ジェネラリスト改革」の始まりになった。

しかし佐谷氏は当時、技師5年目の若手の一人。担当の病理検査、一般検査以外の業務経験がほとんどない。佐谷氏がまず率先してジェネラリストを目指すことを決め、年間約50もの研修会に参加して検査知識を深め、他の検査室のやり方を学んだ。知り合いの検査技師を頼って近くの病院に見学に出向いた。

スペシャリストとして長く業務に向き合ってきた周囲にはもちろん賛成意見ばかりではない。このため、現状と折り合いをつけながら段階的に進めていく現実策へとかじを切る。まずは2部門のルーチン検査が担当できるようにすると目標を下げ、若手から研修を始めた。

 

検体部門の変遷(単位:人)
  2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025
主な改革   2部署の研修を開始 受付担当者の設置 夜勤明け定時退勤   臨地実習を工夫 病理派遣   微生物などと連携
部門人数 8 8 7 7 7 7 7 7 11
化学 3 4 2 2 2 2 2 2 2
血液 2 2 2 2 2 2 2 2 2
一般 2 1 1 1 1 1 1 1 1
受付 1 1 1 1 1 1 1
細菌
1日当たりの技師数 6.75 6.81 6 5.8 5.65

最少月4.9

5.6 5.6 5.6

 

部門間の連携が深化

一般検査の担当を1人に減らし、浮いた1人を生化学・免疫検査の担当に投入し、OJTを受ける。こうしたジョブローテーションを順に進め、2018年には8人全員が2部署以上のルーチン検査ができるようになった。これにより良い変化が起きる。

「お互いに業務内容を知ったことで、なぜ忙しいのかが分かるようになり、互いにカバーするようになった」。佐谷氏は、この頃から助け合いの精神が芽生えてきたと話す。

次に行ったのが、受付担当者1人の配置。全体の状況を見て臨機応変に応援に入るという業務支援の機能を持たせた。これにより生化学・免疫担当の人員を1人減らし、2019年には、1日実質6人でルーチン検査を回せるようになった。浮いた人員の1人を、繁忙だった病理検査室に異動させ、検体部門は7人体制となった。

その後の改革も矢継ぎ早だ。夜勤明け者の退勤時間は午前9時30分だったが、1時間の年休を取得し午前8時30分に帰宅していた。それをやめる代わりに1日の年休を取得する運用を2020年に取り入れる。午前8時30分の退勤時間を午前9時30分にすれば、外来検体が集中する朝の時間帯の業務をカバーできるためだ。部門全体に年休の取得を推奨し、「年10日以下だった年休が年17〜18日取得できるようになった」(佐谷氏)。今はさらに増え、平均年20日以上という。

2018年から臨地実習の受け入れを開始し、受け入れ校は現在、7校に広がった。2022年度からは臨地実習のやり方を変えた。学生は午前中、検体運びなどを経験し、午後からは、課題となった検査の内容をスライド3枚にまとめ、自ら発表するなどの実践的な実習を受ける。学生や新人向けの教育資材として、佐谷氏ら認定資格を持つ数人のコア人材が中心になり、計約50の検査マニュアルも整備した。

作成したマニュアルの一部
作成したマニュアルの一部

検査室のレイアウト変更にも踏み切った。パソコンと電話の設置台数を4台削減し、さらに壁を撤去するなどして検体の動線を意識した分析装置の配置に変更。他に、不規則抗体の酵素法の廃止、一般検査の検体ラベルの集約、血液製剤の保管庫の移設など、改善項目は2021年から3年間で60件以上に上ったという。

 

分析部門をハブに

現在、ジェネラリスト改革を他部門にも広げつつある。2023年、検体部門から病理検査部門への午後派遣を開始したのに続き、2025年には、微生物検査とも連携を始めた。将来的な組織統合も視野に、微生物検査技師2人が検体部門でトレーニング中で、代わりに検体部門から微生物検査に人材を送る。さらに生理検査とも毎年1人を入れ替える人事交流をしており、さらなる連携強化も計画している。各部門との人的連携を通じてジェネラリストの考え方や部門連携の意識が検査技術科全体へと浸透していく。

検査室の中での検体(分析)部門は、測定装置による効率化効果を見込みやすく、さらに「当直で何かしら関わる部門」(佐谷氏)のため、ハブとしての機能を持たせやすい。佐谷氏は、「分析(部門)と病理、分析と細菌、分析と生理との間でそれぞれつながり、業務をサポートしていく」と、検体部門のハブ化の構想を描く。臨床検査技師長の宇野大輔氏は「新人はまず検体部門に配属し、当直業務や心臓カテーテル検査などを学ばせ、ジェネラリストの意識を植え付ける」と説明する。

九州中央病院の改革は、人材育成と業務効率化を通じて、持続可能な検査部門の運営モデルを確立する試みとなった。限られた人的資源のもとで、持続可能な検査室を考える一つの事例となりそうだ。

 

検査技術科の宇野技師長(後列右端)とスタッフの皆さん
検査技術科の宇野技師長(後列右端)とスタッフの皆さん

 



MTJ本紙 2025年11月1日号に掲載したものです。

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