検査室

変わり続ける検査の現場 #32 山形済生病院
生理検査のパニック値、報告体制を再構築 “伝えた後”まで確認

2026.08.03 06:00 会員限定記事を示すアイコン



パニック値(Critical Value)への対応が検査室の共通課題になる中で、生理検査領域でも報告体制の見直しを進める施設が増えている。山形済生病院(山形市、411床)では2024年9月、生理検査でのパニック値報告フローを刷新。電話連絡だけで終わらせず、電子カルテへの記録、責任者による確認、未記載時の再連絡までを徹底する仕組みを導入した。その結果、全症例で対応状況を確認できる体制を実現し、報告から対応確認までの時間短縮にもつながった。


 

生理検査でのパニック値報告は、検体検査に比べて基準や運用が十分に整理されていなかった。特に、パニック値の設定や主治医(依頼医)不在時の報告先などが課題となっていた。カルテへの報告記録が不十分な事例のほか、報告後のチェック体制も十分ではなかったという。

運用を見直す以前の2023年4月~2024年8月までの集計を見ると、生理検査室の検査技師によって報告されたパニック値件数は94件。そのうち、医師によるカルテ記録がなく、その後の対応状況が確認できない事例が6件あった。

報告からカルテ記録までの平均時間は6時間58分だった。パニック値報告を受けて「追加治療あり」のケースでは、カルテ記録までの時間が51分と短い一方で、「追加治療なし」の場合はカルテ記録が後回しになる傾向が続いていた。

臨床検査部では、こうした課題を解決するため、臨床検査部長(医師)を中心に改善策の検討を開始。2024年9月から、パニック値報告での新たな運用をスタートさせた。改善策の柱となったのは、▽パニック値の見直し▽報告先の明確化▽パニック値連絡フローの作成―の3つだ。

パニック値の見直しでは、臨床サイドの意見や関係ガイドラインを参考にしながら、「生理検査パニック値一覧」()を作成し、院内の臨床検査委員会の承認を得た。パニック報告の再構築に携わった臨床検査部の斉藤久美子氏は、「検査部が設定したパニック値の周知が十分でなかったが、今回、専門医の意見をしっかり聞き、臨床での遭遇頻度も考慮しながら見直した」と説明する。

表 生理検査パニック値一覧 (平日日勤帯)
検査項目 パニック値

心電図
マスター負荷心電図
ホルター心電図

 心室頻拍(VT)
 心室細動(VF)
 ST上昇・低下
 高度房室ブロック
 洞停止 3.0秒以上
 徐脈・頻脈
血圧脈波  高血圧(180mmHg≦ / 110mmHg≦)
呼吸機能  上気道閉塞疑い
脳波  けいれん発作

下肢静脈エコー
下肢静脈瘤(Varix)

 中枢型血栓(EHIT/EGIT Class 3 or 4を含む)
 ※ EHIT:endovenous heat-induced thrombus
 ※ EGIT:endovenous glue-induced thrombus

頸動脈エコー  総頸動脈(CCA)閉塞
 内頸動脈(ICA)閉塞
 可動性プラーク
 動脈解離疑い
腹部エコー(技師)  腹部大動脈瘤(嚢状、紡錘状 55mm≦)
心臓エコー(技師)  可動性心腔内腫瘤(血栓・腫瘍・疣贅)
 心タンポナーデ
 壁運動異常

【パニック値の定義】生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値
 ※ 新患で上記のパニック値が出た場合、依頼医に電話連絡する
 ※ 旧患で上記のパニック値が出ても前回値・時系列と比較し連絡しない場合がある
 ※ パニック値を連絡した際は、パニック値報告記録を作成する
 ※ 上記の内容以外でも、処置が必要と思われる場合は適宜対応する

〔取材先提供資料をもとに編集部作成〕

 

報告フローを再構築

パニック値の報告では、臨床検査技師が依頼医に電話するが、依頼医不在時の報告先も明確化した。以前は依頼元の看護師へ連絡することもあったが、医療安全管理委員会での協議を経て、(1)主治医(2)診療科長(3)同一診療科医師(4)臨床検査部長(医師)―の順に報告するルールを定めた。こうした見直しにより、パニック値の基準と報告先を病院全体で共有し、医師へ確実に伝達する体制を整えた。

また、パニック値報告のフローも再整備した()。従来、パニック値報告は検査部内での記録は残していたが、2024年9月以降は、電話連絡後に臨床検査技師が電子カルテへ「異常所見報告」を記載する仕組みを導入した。それを確認した医師がカルテに記録するルールを徹底している。

パニック値  連絡フロー
図 パニック値 連絡フロー〔取材先提供資料をもとに編集部作成〕

パニック値報告後、一定時間経過した段階で、各部門の責任者が医師によるカルテ記録があるかを確認し、記載を確認した日時を記入するルールも定めた。数時間たってもカルテ記録がない場合は、部門責任者が再度、医師に連絡を入れ対応を促すという二重、三重のチェック体制を敷く。斉藤氏は、「検査部ではなく、病院全体のルールとして明確に周知したことで、医師の理解も進み、カルテに確実に記載されるようになった」と印象を語る。

 

全症例で対応確認を実現

パニック値報告の見直し後、2024年9月~2025年3月までのデータを見ると、報告件数は58件で、依頼医以外の代行医への報告は4件。全58件の内訳は、カルテ記録55件、カルテ記録がなくても看護記録等で確認できた症例が3件で、全症例で対応状況は把握できた。

パニック値報告からカルテ記録までの時間も大幅に短縮した。以前から迅速にカルテ記録されていた「追加治療あり」の症例は51分から43分まで短縮。特に、パニック値であっても「追加治療なし」と判断された症例では、カルテ記録までの時間が見直し前の43時間から4時間20分まで大幅に短縮した。斉藤氏は、「パニック値であっても『追加治療なし』となった症例は、カルテ記録が遅い傾向があった。今では報告・対応・確認のサイクルを徹底することで、こうした症例もしっかりカルテで確認できるようになった」と変化を語る。

 

標準化と効率化が次の課題

運用見直しによる成果が得られた一方で、課題も残されている。生理検査でのパニック値は、検体検査のように運用基準が十分に整備されているわけではなく、施設ごとの運用に委ねられている部分も少なくない。加えて、エコー検査では数値だけでなく、画像による判断も必要になるため、個々のスキルが報告の要否に大きく関わってくる。

斉藤氏は、「下肢静脈エコーでの中枢型血栓であっても、実際の症状の有無や、初見か経過観察中かどうかによって臨床的な重要度は変わってくる」と指摘。「報告に悩んだ症例については、その都度、相談したり勉強会で共有したりしている。若手を含め、検査技師によって判断に差が出ないような標準化は今後の大きな課題だ」と話す。

また、現在は部門責任者らが電子カルテを繰り返し確認するルールになっており、この作業軽減も課題の一つだ。検査技師による目視確認も不可欠だが、将来的には入力方法や形式の簡便化、RPA(Robotic Process Automation)を活用したチェック体制の強化など、検査技師と医師双方の負担軽減策も検討課題となっている。

同院の取り組みは、パニック値を確実に伝えるだけでなく、その後の対応状況まで確認する仕組みを整備した点が特徴だ。「報告から確認まで」を一連の業務として捉え直した運用を基盤に、今後は標準化の推進に加え、確認作業の効率化も進めていく。

臨床検査部長(松尾医師)と臨床検査部の皆さん
臨床検査部長(松尾医師)と臨床検査部の皆さん

 


※『THE MEDICAL & TEST JOURNAL』2026年7月1日号に掲載された記事の再掲です。

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