検査室

変わり続ける検査の現場 #30 岡山旭東病院
「共育」の理念が支える教育改革 チェックリストで教育・評価を標準化

2026.06.01 06:00 会員限定記事を示すアイコン



脳・神経・運動器疾患の専門病院である岡山旭東病院(岡山市中区、214床)。同病院の臨床検査課は、全技師が検体検査から生理検査、外来採血までを担う「オールローテーション」体制を敷いている。広範な業務習得が求められる中、同課では教育の属人化を防ぎ、実地能力を客観的に評価するため、ISO 15189の枠組みを活用した新人教育と力量評価の再構築に取り組んでいる。


 

オールローテで広範な検査に対応

臨床検査課にはパート1人を含む臨床検査技師17人が所属する。2009年3月という先駆的な時期に岡山県内で2番目にISO 15189の認定を取得した。

最大の特徴は、検体検査と生理検査の間に部門の壁を設けず、全技師がローテーションで全業務に当たる点だ。加賀山久明主任は、「入職から10年かけて全領域の業務を習得し、その後に専門領域を深める教育プランを一人一人に作成している」と説明する。

院内実施の検体検査は約120項目に上り、生化学・免疫から血液・凝固、一般、輸血、さらに微生物検査やPCR検査も行う。生理検査も多岐にわたる。心電図や超音波検査、脳波・筋電図などに加え、術中モニタリングも担当する。さらに市内の500床規模の病院と連携し、遠隔での術中迅速病理診断にも対応している。24時間365日の当直体制を敷き、新人技師も早ければ入職3カ月で夜勤業務に入る。

「全ての領域の検査をこなせて初めて、臨床検査技師」と語る藤岡克徳課長は、同病院の検査室を新卒1人で立ち上げた経歴を持つ。以前の診療所から病院に移行する1年前に臨床検査技師1年目で入職し、他病院で研修を積みながら検査室を一から設計した。30年以上かけて顕微鏡から検査機器を一つずつそろえ、新卒者を採用し、院内検査項目を広げた。その過程で「固定観念のない、ゼロからつくり上げる組織文化」が醸成されてきたと話す。

業務の幅広さは教育上の課題にもなる。従来の新人教育では、教育担当者(プリセプター)1人が指導を担う体制だったが、業務が多岐にわたるため担当者1人でカバーすることが難しく、結果として複数のスタッフが新人教育に関与せざるを得なかった。教育の進捗を確認するツールが不十分で、教育内容の重複や抜けが生じていたという。

また、一般要員の力量評価も筆記と口頭試問が中心で、実際の検査手技や機器操作といった実務面を十分に評価しきれていない懸念があった。KYT(危険予知トレーニング)活動を全員参加型で不定期に実施していたが、スケジュール調整の難しさから次第に形骸化し、ヒューマンエラーの低減に十分つながっていなかった。このため、ISOの技術管理主体を務める寺阪賢人氏らが中心になり、教育の再構築に着手した。

前列右から藤岡氏、寺阪氏。後列左が加賀山氏
前列右から藤岡氏、寺阪氏。後列左が加賀山氏

3つの柱で「教育」を再構築

その第1の柱が、新人教育用チェックリストの作成だ。従来の大枠のみの計画を廃止し、各装置の操作手順、精度管理、メンテナンスなど、夜勤に必要な項目を徹底的に細分化した。チェック項目は全17カテゴリ、144項目に及ぶ。全項目の力量を担当者が確認した後、技術管理主体、品質管理者、検査室管理主体の3人が最終承認する。

新たに作成した新人教育用のチェックリスト。140項目以上に細分化した
新たに作成した新人教育用のチェックリスト。140項目以上に細分化した

「あえて細分化した」と寺阪氏は説明する。項目が粗いと、評価する側もされる側も「できる」の基準があいまいになる。細かくハードルを設定し、一つずつクリアしていく形にすることで、新人が安心感と自信を持って夜勤に臨める仕組みを目指した。プリセプターには「全部自分で教えようとせず、各機器の担当者に割り振り、進捗管理に徹してほしい」と伝え、属人的な教育からの脱却を図った。

2025年度の新人に導入した結果、入職3カ月後の7月には夜勤を開始できた。本人からも「一目で進捗が分かりやすく、苦手なところも具体的に確認できた」と好評だったという。

第2の柱は、一般要員の力量評価の刷新だ。筆記・口頭試問を廃止し、102項目のチェックリストを作成した。リストには、SOP(標準作業手順書)に沿った測定や精度管理、トラブル対応、さらには技術管理主体による「力量評価(管理業務面)」までを含む。

17年にわたるISO 15189運用の中で蓄積された不適合事例や是正処置報告書を分析し、機器の取り扱いに起因するインシデントが散見されたことが、実務重視への転換の背景にある。「長年やっていると自己流が出てくる。実際に手技を見ることで手順の統一化を図った」と加賀山氏は語る。

実施の結果、不慣れな装置での課題が浮き彫りになる一方で、「装置担当者からの直接指導で知識がアップデートされた」といった前向きな反応が得られている。

 

「朝礼ブリーフィング」で意識を底上げ

3つ目の柱が、朝礼ブリーフィングの導入だ。医療安全文化を醸成する手法の「TeamSTEPPS」のコミュニケーション手法を参考にした。是正処置や対応リストから抽出した注意事項を曜日別にリスト化し、毎朝の申し送りで共有する。

ブリーフィングの項目の作成は若手・中堅・ベテランの3人一組が月替わりで担当し、多角的な視点から問題を抽出できるようにした。朝礼では当直者がスタッフをランダムに指名し、スタッフが項目を読み上げる。リストはあえて簡潔に記し、指名された人が付加情報を添えて説明する運用とすることで、形骸化を防ぐ。定着したと判断した項目は外し、新たな項目を追加する。中には4カ月以上継続する項目もある。若手がリスト作成に参画することで当事者意識が芽生え、組織全体の安全意識向上に寄与している。

これらの取り組みの土台には、独自の組織文化がある。岡山旭東病院では「教育」を「共育」と表記する。「共に育つ」という創設者の理念の下、教える側も学ぶ側も共に成長するという考え方が根付いているという。

藤岡課長は「先輩がいない検査室だったからこそ、固定観念がない。全員新卒で入り、ゼロから検査室をつくり上げてきた」と振り返る。定例のスタッフ会議は月2回開催され、タウンミーティング形式で本音を交わす場を確保。こうした風通しの良さが、ベテランが若手から指導を受けることへの抵抗感をなくし、チェックリスト方式の力量評価を自然に受け入れる土壌を形成している。

 

さらなる業務拡大を見据えて

今後の課題として寺阪氏は、▽チェックの合否だけでなく、段階的な評価を導入する▽救急対応や生理検査領域にチェック項目を拡張する―の大きく2点を挙げる。

同病院では経営マネジメントの一つとして院内各部署が毎年度、経営指針書を作成する。臨床検査課は2026年度、救急事業や病棟業務へのより積極的な介入を新規事業として掲げた。静脈確保や喀痰吸引といったタスクシフト・シェア項目に対応し、検査技師の活躍の場をさらに広げる。それに合わせて、教育システムもさらなるブラッシュアップが求められる。実務に根差した教育改革が、多様な力量を持つ次世代の検査技師育成という、新たなステージへと進んでいる。

臨床検査課の皆さん
臨床検査課の皆さん


MTJ本紙 2026年5月1日号に掲載したものです。

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