検査室

変わり続ける検査の現場 #33 長崎大学病院
検査値の表示統一へ基盤を整備 生化・血液など66項目、JLACに名寄せ

2026.09.07 06:00 会員限定記事を示すアイコン



長崎大学病院(長崎市、776床)の検査部が、地域医療情報連携ネットワーク(地連NW)の「あじさいネット」で検査結果の表示の統一化に取り組んでいる。地域の検査センターと組み、別の医療機関であっても医師が時系列で検査値を追えるよう、生化学や血液など66項目の表示統一の基盤を数年かけて整備した。国による電子カルテ情報の共有化サービスの本格運用が近づく中、医療機関を横断した検査情報の共有という先駆的な取り組みとなっている。


 

あじさいネットは、患者のカルテ情報を拠点病院やクリニック、薬局の間で共有する地域のネットワークシステム。患者同意の下、情報提供病院で受けた治療内容や検査結果などの医療情報を参加施設の間で閲覧できる。地連NWの先駆けとして2004年11月に運用が始まり、20年以上の長い運用実績を持つ。参加施設は長崎県内外に広がり、現在、情報提供病院は31、情報閲覧施設は317にまでになった。長崎大学病院は基幹の情報提供病院の一つで、同病院医療情報部の松本武浩部長(あじさいネット理事)が立ち上げ時から中心的な役割を担ってきた。

あじさいネットの機能の一つが、5つの検査センターや一部の情報提供病院が参加する「検査データ共有サービス」。クリニックの外注検査や情報提供病院の検査の結果などを会員施設が閲覧・共有(他施設情報の閲覧・共有には患者の同意が必要)でき、あじさいネット上で稼動する地域連携パスなどに検査データを自動で取り込むこともできる。

 

「時系列で見られないか」

「時系列で検査結果が見られるようにJLAC10を使えないだろうか」。当時の標準規格であるJLAC10コードを用い、各施設の検査結果を時系列に並べて医師が患者の経過を追えるようにする―。そんな松本氏からの提案を受け、同病院検査部の主任臨床検査技師・臼井哲也氏は、2016年ごろから、ルーティンの検査業務の合間に基盤作りを進めてきた。

検査データは多くの場合、施設によって基準値やシステム上の名称、単位設定が異なる。例えば白血球は、システム上の表記を「WBC」としていたり、結果単位を「103/μL」や「104/μL」、あるいは「109/L」としていたりと検査室によって異なる。また、施設で用いる検査コードが電子カルテと臨床検査システム(LIS)で違うこともある。そもそも検査値が標準化されていない項目も少なくない。それをどうしたら時系列で表示できるのか。

臼井氏がまず取り組んだのは、JLAC10コードと施設コードとのひも付け(名寄せ)の作業だ。基準値や結果単位が異なることをひとまず横に置き、参加各施設から使用する検査コードを聞き取り、検査項目ごとにJLAC10コードとひも付けた。それぞれの基準値や結果単位を記載し、表計算ソフトに整理した。

ひも付けは、日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の共用基準範囲が設定されている40項目から順次始め、設定がない項目は長崎大学病院が使う基準範囲を用いた。一方、血算は単位を変換して共用基準範囲に統一した。その後、地域連携パスで必要な検査項目を追加し、現在、ひも付けした項目は66項目にまで広がった。この表計算ファイルが、検査データの時系列表示や単位統一の基盤となった。

臼井氏
臼井氏

作業担当者は臼井氏1人。ルーティン業務の合間に、各参加施設から届いた施設コードを手作業でJLAC10コードとひも付けていく作業を続けた。問い合わせをしても先方の検査室に担当者がいなかったり、JLAC10コードを知らなかったりして作業はスムーズに進まない。電子カルテの検査コードとLISのコードが違うことに気付かず、コードをひも付けても検査データがつながらない事態も発生した。臼井氏は、さまざまな苦労があったと振り返る。

苦労の末に作り上げた情報基盤をエスアールエル(H.U.グループ)の担当者が発展させ、より診療に使えるような画面にしたのが、検査データ共有サービスの検査結果参照画面だという。

同サービスでは、生化学や血算、免疫の一部項目について各医療機関の検査結果を時系列で表示した(図1)。「見慣れたデータを見たい」という医師の要望に応えるため、それぞれの検査結果にアスタリスク(*)マークを付け、クリックすると自施設の元データがポップアップで表示されるように工夫した(図2)。免疫項目など基準値が異なる場合は無理に統一せず、それぞれの検査データの背景に基準値の上下限の範囲を帯状に表示することで分かるようにしている。

図1 各項目の検査結果が時系列で並ぶ
図1 各項目の検査結果が時系列で並ぶ
〔14回チェリーブロッサムシンポジウムポスターver3より〕
図2 ポップアップ表示のイメージ
図2 ポップアップ表示のイメージ
〔14回チェリーブロッサムシンポジウムポスターver3より〕


現在、JLAC10と検査コードがひも付いているのは10病院、検査会社5社の計15施設。コロナ禍以降は運用が落ち着き、参加施設や対象項目の拡大は進んでいないという。

 

電カル共有へ対応必要に

厚生労働省は2026年冬ごろから電子カルテ情報共有サービスの全国運用を開始する方針で、臨床検査43項目、感染症5項目の情報共有を開始する計画だ。計48項目でも測定法や結果単位が異なるが、厚労省は4月の関連のワーキンググループで「検査値を患者さん側に見せるマイナポータルでの表示については、単位を統一できるように進めていく」と述べた。その後、厚生労働科学研究班が単位表示の統一が可能かどうか項目ごとの調査を開始している。

電子カルテ情報共有サービスの制度設計は着実に進み、医療機関を横断した診療情報の共有は、「あるかないか」ではなく「どう実装するか」の段階に入っている。その際に工程として必要になるのが、検査項目の名称やコード、単位の違いを埋める作業だ。別の医療機関の検査値を時系列で読み、診療に使える形にそろえるには、データをつなぎ合わせるための「ひも付け」が要る。長崎大学病院が地連NW「あじさいネット」で積み上げてきた作業は、その工程を先回りして経験した例と言える。

あじさいネットでの経験を振り返り、臼井氏は「情報システムに一定の理解のある検査技師が各病院に1人は必要。そうでなければ取り組みは進まないのではないか」と話す。電子カルテ情報共有サービス開始前夜の今、全国の検査室に今後の情報共有にどう対応していくかが問われている。

 


※『THE MEDICAL & TEST JOURNAL』2026年8月1日号に掲載された記事の再掲です。

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