キャリア・学び

きらり臨床検査技師 [第31回]中倉 真之さん(京都第一赤十字病院検査部) 
脳波は“読んで、聞いて”身に付ける―判読積み重ね専門性磨く

2026.07.22 06:00 会員限定記事を示すアイコン



「脳波は、講演を聞いたり教科書を読んだりしただけでは、なかなか身に付かない」。そう語る京都第一赤十字病院(京都市)検査部の中倉真之さんは、脳波検査のスペシャリストだ。読めるようになったきっかけは神経内科医との“一対一の判読会”。以後、脳波を読んでは専門家に聞くことを繰り返し、理解を深めていった。判読会は院内外を問わず続けており、日常的に医師とも議論して正確な診断を支援する。その「限界を決めない」姿勢は趣味のマラソンに共通する地道な積み重ねだ。


 

幼少期の大けが経験から医療の道へ

―臨床検査技師を目指した理由を教えてください。

幼少期に頭に大けがをしました。自分では覚えていないのですが、今でも頭に傷痕が残っています。そんなこともあって、いつの間にか「将来は医療現場で貢献したい」という思いが芽生えました。

高校では理系科目、特に生物が得意でした。進学した金沢大学医学部保健学科(現在の医薬保健学域保健学類)には看護、放射線、リハビリなどの選択肢もあったのですが、自分の得意分野である「生物学」を生かせるのではと考えて臨床検査技師の道を選びました。

 

―どのようなキャリアをたどってこられたのですか。

大学卒業後、もう少し勉強したいなと思って名古屋大学大学院医学系研究科で2年間、生化学分野の基礎研究を行いました。修了後は京都第一赤十字病院に入職し、生理検査部門に配属されて一通り生理検査を学び、今年で14年目です。

総合病院を選んだのは、大学院で研究もしたので、そうしたことも生かせるところに行きたいと思ったからです。

現在は心臓超音波検査や脳波等検査の係長として、機器や試薬の管理、スタッフが働きやすい環境づくりなど、マネジメント業務も増えています。また、ISO 15189の品質管理者として検査精度の維持・向上にも関わっています。

日常の検査業務は超音波検査の比重が高いですが、特に脳波を専門分野として深めています。認定資格として、日本臨床神経生理学会の専門技術師(脳波分野)、日本超音波医学会の超音波検査士(循環器領域)、日本不整脈心電学会の心電図検定1級などを取得しています。

学外活動では、日本てんかん学会の若手グループ「YES-Japan」のSecretaryや、日本神経生理検査研究会近畿支部の支部長、日本臨床神経生理学会の代議員などを拝命し、次世代の技師育成や多職種連携の強化に努めています。

 

脳波「難しいからこそ面白い」

―これまでに転機となったことはありますか。

大きく2つあります。1つは大学時代の学生寮での生活です。今のような個室ではなく共同生活の自治寮で、医学部だけでなく他学部のいろんな価値観を持つ仲間と過ごした経験は、私の人間性を形成する土台になりました。

2つ目は、ある勉強会で、脳波で有名な神経内科の先生に積極的に質問したことです。それがきっかけとなり、「じゃあ一緒に読もうか」と声をかけてもらい、施設を超えた毎月の「脳波判読会」が始まりました。

最初は「一対一」だったのですが、その後参加者が少し増え、現在も続いています。脳神経疾患の臨床的な奥深さを学ぶ貴重な機会となり、現在の専門性につながっています。

 

―なぜ脳波検査に関心を持ったのですか。

脳波は簡単には読めず、専門的にやっている人も少なかったからです。超音波検査は比較的多くの検査技師が取り組んでいますが、脳波に取り組む人は少なく、“読める人”は医師でさえも限られています。そこに面白さを感じました。

先ほど話した脳波判読会で、先生から「こういう読み方をしなさい」と教わって、ちゃんとした読み方があることを初めて知りました。それで少しずつですが、分かるようになっていきました。

2020年からは、院内で小児科や神経内科の医師と脳波の勉強会を毎月開催しています。今では医師から「この脳波どう思う」と聞かれることも増えました。

 

“脳の機能”を読み解く検査

―習得は大変なようですが、脳波検査の必要性は増えているのでしょうか。

一般的な勉強会では、典型的な異常波形を提示されることが多いのですが、実際の臨床では分かりやすい波形ばかりではありません。連続した流れの中で判断する必要がありますので、一筋縄ではいかない。自分で読んで、「こう解釈しました」と専門家に確認してもらう。その繰り返しがとても重要です。本を読むだけではなかなか身に付きません。

脳波検査は昔から小児てんかんでは知られた検査ですが、高齢者のてんかんも増えています。当院の場合、小児科や神経内科のほか、最近では救急での意識障害などにも多く施行されています。脳梗塞患者さんも多く、意識障害が続く場合、脳が今どのような状態かを評価するために使われています。

MRIやCTだと脳の構造は分かりますが、「今どういう働きをしているか」は画像を見るだけでは分かりません。脳の機能は脳波でないと分かりませんので、今後も必要性は高いと思います。

 

日頃のチームワークが結実(2014年の全国赤十字スポーツ大会、駅伝の部で優勝)
日頃のチームワークが結実(2014年の全国赤十字スポーツ大会、駅伝の部で優勝)

 

マラソンで培った「タイムマネジメント」

―趣味はマラソンだそうですが、それも日々の生活や業務の土台になっているようですね。

中学、高校、大学と陸上部で、主に中距離を走っていたのですが、社会人になってフルマラソンを始めました。自己ベストは2時間56分台。マラソン人口は多いんですが、「サブスリー」(3時間未満で完走すること)って、なかなかいないんですよ。

マラソンの出場に備える時は月でトータル200キロメートル、それ以外も月100キロメートルから150キロメートルは走っています。それが、生活の良いリズムになっています。

子供が小さかった頃は、家族がまだ寝ている早朝に練習時間を捻出するなど、限られた時間の中でいかに効率よく目標を達成するかを追求してきました。この「タイムマネジメント」の習慣が、仕事の効率化にも生きていると思います。

院内にも陸上チームがあり、日赤の全国大会の駅伝で優勝したこともあります。医師も含め、いろんな職種が参加しています。そういう活動もあって、日常的にいろんな医療職種と話し合える関係になっていることも大きいですね。

 

「タイムを刻む」ことが業務の潤滑油にも(2026年2月の京都マラソン、院内の医師と)
「タイムを刻む」ことが業務の潤滑油にも(2026年2月の京都マラソン、院内の医師と)

 

「自分の限界を決めない」

―若手技師へのメッセージをお願いします。

「自分の限界を決めないこと」を大切にしてほしいと思います。今の自分よりも、ほんの少しだけ背伸びした目標を設定し、そこに向かって一歩踏み出してみてください。

偉そうなことを言いますが、自分自身も「完璧にできた」と思うことは少なく、後で「こうすれば良かった」と思うことの方が多いのが実際です。でもそれを次の課題として、挑戦を続ける。そのプロセスが人を成長させると感じています。

脳波の習得と同じで、少しずつでも学び続け、問い続けることが大切です。すぐに結果が出ず苦しい時期もあるかもしれませんが、その挑戦の積み重ねこそが、あなたを唯一無二の技師へと成長させてくれるはずです。




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中倉さんは、ひと目でランナーと分かる締まった体つきだった。聞けばフルマラソンの自己ベストは3時間を切るという。趣味の域を超えたタイムだ。

もちろん、その記録は一朝一夕で生まれたものではない。日々の練習や体調管理、目標に向けた地道な積み重ねがあってこそだろう。

取材を通じて感じたのは、その姿勢が仕事にも通じていることだ。脳波検査は経験や知識だけでなく、日々の鍛錬や観察力の積み重ねがものをいう世界である。

中倉さんの落ち着いた語り口からは、特別な才能よりも、毎日を大切に積み上げてきた人ならではの確かさが伝わってきた。

今度は、その経験を次世代へつなぐ番だ。脳波検査のスペシャリストを育てる先導者としての活躍にも期待したい。(中)

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