キャリア・学び

きらり臨床検査技師 [第30回] 野田 菜央さん(神奈川県警察科学捜査研究所法医科 主任研究員) 
科捜研の検査技師、科学的見地から警察の捜査を支える

2026.06.24 06:00 会員限定記事を示すアイコン



事故や事件現場に残されたわずかな資料から、科学的手法を用いて捜査の進展につながる検査結果を導き出す―。テレビドラマを通じて一般に広く知られるようになった「科学捜査研究所」(科捜研)は、都道府県警察の捜査を支える専門の研究機関だ。

神奈川県警察科学捜査研究所法医科主任研究員の野田菜央さんは、臨床検査技師の資格を持つ研究員だ。大学卒業後、科捜研でのキャリアをスタートし、今年で10年目。現場で採取された資料を特定し、さらにDNA型鑑定で事件・事故の関係者とのつながりを調べている。医療機関とは異なる場で、検査の知識や技術を生かして活躍する野田さんに、仕事のやりがいや思いを聞いた。


 

現場採取された資料を分析

―科捜研と聞くとテレビドラマで描かれたイメージを思い浮かべる人が多いように思います。実際には、どのような業務をされているのでしょうか。

私が所属している神奈川県警科捜研の法医科では、事件や事故現場に残されていた生体由来の資料を分析しています。まず、皮膚片、血液、唾液など、その資料が「何」であるかを特定し、その後、事件・事故の関係者など「誰」に由来するものかをDNA型鑑定で調べます。

現場で採取した資料は科捜研に持ち込まれて検査をすることが多いですが、必要に応じて研究員が現場に赴き、その場で検査することもあります。神奈川県内の事故・事件に関わる資料は全て、県警の科捜研で対応しています。

研究員の勤務形態は当直もあるのですが、私は現在、育児中のため、日勤の時短勤務で働いています。子育てをしながら仕事を続けられる職場環境を整えていただいています。

 

微量、時間経過、資料の取り扱いの難しさ

―医療機関で行われる臨床検査の業務とは大きく異なるように思います。科捜研で行う検査は、どのような特徴がありますか。

医療機関では患者から採取した検体を使用して検査するのが一般的だと思いますが、事件や事故の現場で採取する資料は、時間経過しているために状態が悪かったり、量もごくわずかだったりというケースが少なくありません。

限られた資料では、「ある検査法でうまく結果を出せなかったから、別の検査法で測定し直す」ということができません。資料を追加で採取してくることも難しいです。微量な資料から捜査に役立つ結果を出せるように、検査法の選択や資料の取り扱いにはとても神経を使っています。

検査法は染色法や吸光度分析、PCRなどさまざまですが、病院の検査室のように大型の装置を使うのではなく、手作業で行うものが多いです。検査結果は鑑定書にして捜査に還元しています。

 

事件事故の解決に喜び、経験が引き出しに

―仕事のやりがいは、どのような時に感じるのでしょうか。逆に、仕事の難しさやご自身の課題だと考えていることはありますか。

やはり、わずかな資料から捜査に還元できる鑑定結果を出せた時は、手応えがあります。ニュースなどを見ていて無事に事件が解決したことが分かった時は、自分の仕事が役に立っているという実感が湧いて、すごく達成感があります。捜査側の方からお礼の言葉をかけていただくこともあり、それは本当にうれしいです。

一方で、私自身はまだまだ知識や技術の不足を感じることが多いです。経験が豊富な研究員は検査法や資料の取り扱い方の引き出しが多く、「この状態の資料は、こういう取り扱い方をすると効果的」「この検査法は、この程度の量があれば結果を出せる」などの判断ができます。アドバイスをいただくたびに、本当にすごいと思います。

研究員それぞれ経験を蓄積していますので、先輩だけでなく、後輩からも学ぶことが多くありますね。私自身も経験を積み重ねて、引き出しを増やしていきたいです。


分注やPCR検査の模様 (写真:神奈川県警察科学捜査研究所提供)
分注やPCR検査の模様 (写真:神奈川県警察科学捜査研究所提供)



―新たな検査法の研究にも取り組まれているそうですね。

さまざまな検査法を駆使していますが、それぞれ限界がありますので、科捜研ではより精度の高い検査法の研究も行っています。私は、唾液を同定するための検査法の研究に取り組み、先輩と共に論文にまとめたところです。唾液の同定は、唾液中のアミラーゼを指標にした検査法が一般的ですが、酵素のため劣化して検出しにくくなるという課題があります。そこで、唾液中に存在する細菌に着目した新たな検査法を研究しました。実務で使うにはさらに検証が必要ですが、より精度の高い検査法の開発につながればと思っています。

 

卒業後の進路選択は幅広く

―現在は科捜研の研究員として活躍されていますが、臨床検査技師を目指すきっかけは、何だったのですか。

高校生の頃、生物科目の生理学や生化学が好きだったので、進路を検討する中で臨床検査技師が選択肢に挙がりました。母が看護師なので、医療職を比較的身近に感じていたと思います。

ただ、「絶対に臨床検査技師になる」と決めていたわけではなく、大学で学んでいる間に気持ちが変わる可能性があるかもしれないとも思いました。臨床検査技師の資格が取れる大学はいろいろありますが、卒業後の進路は医療機関だけでなく、企業や大学の研究職など幅広い選択肢から選べるところが良いと思い、大阪大学医学部保健学科の検査技術科学専攻に進学しました。

 

知識を生かし、社会に貢献できることが魅力

―多様な就職の選択肢があった中で、なぜ、科捜研を選んだのですか。

大学の講義で、さまざまな分野で活躍している卒業生の話を聞く機会がありました。病院検査部の方、企業の開発職の方のほか、科捜研の方からも話を聞いたんです。その講義で初めて、科捜研の業務について知り、大学で特に興味を持って学んでいた分子生物学の知識を生かせることや社会に貢献できる点に魅力を感じました。

大学院進学とどちらにしようか迷ったのですが、ちょうど神奈川県警の科捜研で人材募集が出ていたので応募し、2017年に入職しました。1年目は、血液や唾液など資料それぞれの特性や検査法について原理から学ぶのですが、大学で学んでいた検査の基礎知識は役に立ったと思います。

 

視野を広げ、自分に合った道を

―臨床検査技師を目指す学生や若手の検査技師へのメッセージをお願いします。

臨床検査技師というと病院勤務をイメージする方が多いと思いますが、実際には企業や大学の研究職など、さまざまな分野で活躍している人がいます。もちろん医療機関の検査も素晴らしい仕事ですが、それ以外にも多様な選択肢があり、活躍できる可能性もあると思います。

若い方には、興味があることに積極的に挑戦してほしいです。今はインターネットなどで情報を得られる時代ですので、視野を広く持って、多様な職種の中から自分に合った道を探してほしいです。


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医療機関では、患者から採取する時点で検体種が特定されている。一方で、事故、事件現場で採取された資料は、それが何か分からない。人のものとは限らず、動物由来のものが混じっている可能性もある。まず、資料が何かを明らかにすることからスタートする点は、医療機関の臨床検査とは大きく異なる。

野田さんのお話からは、捜査に還元できる結果を出すために、「限られた資料をどう使うか」という課題に日々向き合っている様子がうかがえた。資料の状態や量に応じて検査法を選択し、より良い結果につなげようと経験を積み重ねていることも印象的だった。

「事件が解決したことが分かると、自分の仕事が役立っているんだなって実感が湧きます」と話した時だけ、少し声が弾んだのが印象に残った。科学的な分析を積み重ねながら、捜査を支える仕事への誇りが感じられた。(河)

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