AI×循環器検査 AI 解析の臨床応用とマネジメント #2
心電図におけるAI診断の精度管理と医療安全

はじめに——AI診断への期待と普及に向けた課題
心電図検査は循環器領域における最も基本的な生理機能検査であり、救急医療から在宅医療まで幅広く利用されています。しかし、12誘導心電図の読影には専門的知識が求められ、医師間および臨床検査技師間において解釈にばらつきが生じることも少なくありません。
近年、深層学習(deep learning)を中心とした人工知能(AI)技術の急速な発展により、心電図波形の自動解析が大きく進展しています。AIは大量の波形データから特徴量を自動抽出できる点で心電図解析との親和性が高く、診断支援ツールとしての実用化が期待されています。一方で、AI診断機能を搭載した心電計の臨床実装は依然として限定的であり、一般への普及には至っていません。
本稿では、AIによる心電図診断の精度とその限界、さらに臨床導入に向けた課題を精度管理の観点も含めて検討します。
心電図におけるAI診断の精度と限界
AI診断の精度については、疾患により得意・不得意が明確に存在します。
心房細動(AF)についてはAUC(area under the curve)0.95以上の高い精度を示すとの報告がみられ1)、期外収縮やST変化の検出においても良好な成績が示されています。これらは波形の特徴が比較的明瞭であり、AIがパターン認識しやすいことが理由として挙げられます。
一方で、軽度のST-T変化、非典型的脚ブロック、低電位差、ペースメーカー心電図など、波形の多様性が大きい領域では精度が安定しないとの報告もあります2)。また、ノイズなどのアーチファクトや電極接触不良といった入力データの品質に強く依存する点も重要です。
現状、一般的な心電計においてAIはほとんど用いられておらず、波形から計測値を算出し、あらかじめ設定された基準値と対照することによって自動解析が行われています(図1)。
計測時のノイズなどのアーチファクトについては加算平均処理によって軽減が図られていますが、完全な除去は不可能であり、計測区間に誤差が生じることは避けられません。そのため計測には本質的な限界があり、波形パターンや計測値を入力とするAIモデルにおいては、入力データの品質に診断精度が左右されるという課題があります。また、心電図波形から直接AI診断支援を行う研究も行われていますが、この場合もノイズなどのアーチファクトの影響は避けられません(図2)。
AI搭載心電計に求められる精度管理
次に、AI診断の限界を精度管理(quality control:QC)の観点から考察します。
AIモデルは学習データの偏りに影響を受けやすく、特に欧米人データを中心に構築されたモデルは、体格や疾患分布が異なる日本人集団において必ずしも適合しない可能性があります。また、AIモデルは時間経過とともに予測性能が変化する「モデルドリフト」を起こすことが知られており、医療機器としての安定性を担保するためには定期的なバリデーションが不可欠です。
従来の心電計では、管理物質としてジェネレータを用いた機器の精度管理が実施されていますが、AI搭載機器においてはAI出力の妥当性評価を含めた、新たなQC体制の構築が求められます。AI出力の妥当性確認は、メーカー単独で完結するものではなく、AIの判定結果と医療従事者による診断結果、さらに患者背景情報を照合することで初めて実現可能です。さまざまな使用環境における妥当性確認を実現するためには、医療機関とメーカーとの連携が重要です。
2026年4月、IMDRF(国際医療機器規制当局フォーラム)が公開した「AIライフサイクル管理のための技術フレームワーク」の草案には、AIライフサイクルのすべてのステップに適用される普遍的な概念として、品質管理システム(QMS)、リスクマネジメント、ヒューマンオーバーサイト(人間による監督)、サイバーセキュリティの4点が挙げられています3)。
AI活用に伴う医療安全と責任の所在
AIの臨床的価値は「診断の自動化」ではなく「診断支援」にあります。AIは一次スクリーニングや見落とし防止に強みを持ち、救急外来、在宅医療、ウェアラブル心電図など、迅速性や連続性が求められる場面で特に有用性が高いと考えられます。また教育的観点からも、AIが提示する異常波形のパターンは読影学習の教材として活用できる可能性があります。
一方で、AIの判断をそのまま確定診断として扱うことには慎重であるべきであり、最終的な臨床判断は医師・臨床検査技師が担う必要があります。この考え方は現状の心電図自動解析機能における位置づけと同様であり4)、医療安全の観点からもAI診断はあくまで診断支援として明確に位置づけることが重要です。
さらに現在、医療機器へのAI普及が技術的課題にとどまらず限定的である背景には、法規制および責任の所在に関する問題もあります。AI診断に起因する誤診が発生した場合、その責任が医師・メーカー・AIシステムのいずれに帰属するのかが不明確であり、医療機器としての承認プロセスも十分に整備されていません。日本においてAIはあくまで「医師の補助」と位置づけられており、AI単独による診断の確定は認められていません5)。
おわり——日本人データ、QC体制、法整備の必要性
以上より、AIによる心電図診断は特定の疾患において高い精度を示す一方、データ品質、学習データの偏り、モデルドリフト、法規制など多くの課題を内包しています。
今後の臨床導入に向けては、日本人データを用いたモデル構築、AI出力を含む新たなQC体制の確立、そして責任の明確化を含む法整備が不可欠です。また、施設横断的な精度検証や多施設共同研究を通じたエビデンスの蓄積も、社会的信頼の獲得において重要な役割を担います。
AIは心電図診断の代替ではなく、臨床判断の質を高めるための強力な補助手段として位置づけるべきであり、医療従事者との協働のもとでその適切な活用が推進されることが、今後の医療の質向上に寄与すると考えられます。
[謝辞]本稿執筆にあたり、取材のご協力およびご助言をいただいた日本光電工業株式会社の皆さまに深謝いたします。
引用文献
1)Gupta U, et al : A comprehensive review on efficient artificial intelligence models for classification of abnormal cardiac rhythms using electrocardiograms. Heliyon, 10 : e26787, 2024
2)Xiong Z, et al : ECG signal classification for the detection of cardiac arrhythmias using a convolutional recurrent neural network. Physiol Meas, 39 : 094006, 2018
3)Artificial Intelligence/Machine Learning-enabled Working Group : IMDRF/AIML WG/N93 DRAFT: Technical Framework for Artificial Intelligence Life Cycle Management. International Medical Device Regulators Forum, 2026
4)日本循環器学会,他:2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン.2025
5)厚生労働省「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」(2018年12月19日医政医発1219第1号)
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編集|松林 正人(三重ハートセンター臨床検査科 技師長)

植松 明和
臨床検査技師として約30年にわたり国立病院機構に勤務。生理機能検査を中心に臨床経験を積み、臨床検査科の管理者も務める。東洋公衆衛生学院を卒業後、放送大学を経て、信州大学大学院医学系研究科保健学専攻博士前期・後期課程を修了。神経伝導検査を専門に、超音波検査、呼吸機能検査、睡眠ポリグラフ検査(PSG)、精度管理に関する研究に取り組む。現在は臨床現場で培った生理検査全般の知識と経験を活かし、大学教員として次世代の臨床検査技師育成に力を注ぐ。2023年より現職。






