Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 病理・細胞08
エキスパートパネルは変わるのか? 成熟するがんゲノム医療


がんゲノム医療におけるエキスパートパネルの運用見直し
令和8年度診療報酬改定では、がんゲノム医療の活用促進を目的に、D006-19「がんゲノムプロファイリング検査」の施設基準と、B011-5「がんゲノムプロファイリング評価提供料」の算定要件が見直された1)。
従来は、がんゲノムプロファイリング(CGP)検査結果の提供にあたり原則としてエキスパートパネル(EP)での検討が求められていたが、改定後はB011-5の留意事項に基づき、一定条件を満たす症例ではEPを省略してもCGP検査およびCGP評価提供料の算定が可能になった。対象は、D006-19の「1」固形腫瘍で、C-CAT(Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics)調査結果で二次的所見を疑う病的変異がなく、遺伝子変異に基づく投与可能な医薬品が存在する場合、または臨床試験・治験などを含めても投与可能な医薬品が存在しない場合とされた。
これにより、治療選択に直結するケースや治療候補がないケースでは手続きの効率化を図り、患者への迅速な結果提供と医療機関の負担軽減を進める方針が示された。
病理・細胞検査のエキスパートレビュー
CGP検査が保険収載されてから数年が経過し、がんゲノム医療は「特別な医療」から「日常診療の一部」へと移行しつつある。その中で重要な役割を担ってきたのが、EPである。
EPとは、CGP検査で得られた結果について、腫瘍内科医、病理医、遺伝医学の専門家、臨床検査技師、遺伝カウンセラーなどの多職種が集まり、治療選択や臨床試験の適応、遺伝性腫瘍の可能性などを総合的に検討するための会議体である2)。
1.症例数増加と運用上の課題
CGP検査が導入された当初は、検出される遺伝子異常の解釈や治療薬との関連付けに高度な専門性が求められたため、CGP検査の実施症例は原則EPで議論する体制が構築された。
しかし、CGP検査件数の増加や、C-CATへの症例蓄積が進み、診療現場では豊富な知見が共有されるようになった一方、症例数の増加に伴い、EP開催にかかる人的・時間的負担も課題として指摘されるようになった2)。
2.専門性を活かすための運用見直し
症例数の増加や知見の蓄積を背景として、持ち回り協議※やオンライン活用など施設の実情に応じた柔軟な運用が認められるようになり、令和8年度診療報酬改定ではEP運用の効率化が図られた1,2)。また、日本臨床腫瘍学会など関連3学会のブリーフィングレポートでは、EP省略可能な症例の要件や治療選択に必要なバイオマーカーの考え方が整理されている3)。
このような変化は、EPの重要性を否定するものではない。むしろ、十分なエビデンスが蓄積された症例については、整理された要件やバイオマーカーに基づいて運用し、複雑な解釈や専門的検討を要する症例へ限られた人的資源を重点的に投入することを目的としている(図)。
がんゲノム医療が成熟期を迎えつつある現在、求められているのは「すべてを同じように議論すること」ではなく、「必要な症例に適切な専門性を投入すること」といえる。
がんゲノム医療の成熟と病理検査技師の役割
EP運用の効率化や一部症例でのEP省略は、がんゲノム医療が実装・最適化の段階へ移行していることを示している。病理検査に携わる臨床検査技師にとって重要なのは、こうした制度や運用の変化を踏まえつつも、CGP検査の出発点が病理検体であることを改めて認識することである。
CGP検査では、多数の遺伝子異常が同時に検出され、その結果は治療選択や臨床試験の適格性判断に用いられる。その信頼性は、腫瘍細胞含有率、固定条件、FFPE品質など、検体の状態に大きく左右される。したがって、EPが省略される症例が整理されたとしても、日常業務における検体の確認や取り扱いの重要性は変わらない。病理検査専門の臨床検査技師には、前分析工程を通じて、がんゲノム医療の信頼性を支える役割が今後ますます求められている。
※:医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに準拠したファイル共有サービス等を介してそれぞれ評価する方法
引用文献
1)厚生労働省:令和8年度診療報酬改定;12.重点的な対応が求められる分野(がん・難病・感染症)(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681130.pdf)
2)厚生労働省:今後のがんゲノム医療の方向性について(https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001503806.pdf)
3)日本臨床腫瘍学会,他:次世代シークエンサー等を⽤いた遺伝⼦パネル検査に基づく固形がん診療に関するブリーフィングレポート(https://www.jsmo.or.jp/post-8218/,アクセス日:2026年6月12日)
続きを見るには会員登録
(無料)が必要です
会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。
MTJメールニュースの会員のみなさまへ
MTJメールニュースは、WEBサイト「MTJ ONE」にリニューアルいたしました。
お手数ですが、下記より再度、新規会員登録をお願いします。
共著|濱田 誠(群馬パース大学医療技術学部検査技術学科)








