ベテラン技師長が指南、組織・育成の要点 広島大病院研修会レポート
東京女子医大・三浦氏、国際医療福祉大成田病院・堀田氏

広島大学病院の臨床検査研修会は11月22日、広島市の同病院で開かれ、東京女子医科大学病院の三浦ひとみ氏、国際医療福祉大学成田病院の堀田多恵子氏の2人の技師長が検査室運営の在り方について講演した。この中で両氏は、事前に寄せられた現場の具体的な質問に回答し、それぞれの経験を基に組織運営のコツや工夫をアドバイスした。要点を質問ごとにまとめた。
縦割りの壁を越える、柔軟な組織連携の作り方
Q:各部署の縦割りから横のつながりを意識した検査室運用を目指している。アドバイスを。
三浦氏は「縦、横、斜めに柔軟な組織が大事」だとし、特に部署や上下の枠を超えた「斜めの連携」の重要性を指摘した。尊敬できる他部署の先輩を見つけたり、検査部全体の活動で後輩を推薦したりする動きがあると、組織のつながりが強まるとの考えを示した。
東京女子医科大学病院の中央検査部では、検体検査、生理検査が各領域に分かれ、さらに病理検査室や婦人科検査室、移植関連検査室などがある。新人は半年間の初期ローテーションで全部署を担当する。加えて配属後も、他の検査室に半日業務する業務連携の仕組みがある。異なる部署の担当者2人をくじ引きでペアにし、症例報告や若手育成のアイデアなどを発表する会も開催したという。
また、各部門から若手を含む育成委員を選出し、研修会を企画したり、医療職に相応しい身だしなみを話し合って決めたりしている。
検査室全体を導く「目標達成」の秘訣
Q:検査室全体が同じ方向を目指していくための秘訣は?
三浦氏は、目指す方向性が明確かどうか、組織内で目標を意識させる頻度が十分かの2つが重要だと指摘した。「今年、上位資格が取れる人は頑張りましょう」ではなく、「今年は30%上げるなどと数値であれば分かりやすい」。さらに、会議のたびに目標や課題の進捗を確認していくことも大事だとした。
堀田氏が指摘したのは、「インクルーシブリーダー」の重要性。インクルーシブリーダーとは、「多様な価値観を大切にしながら、組織の方針や目標を明確に伝え、スタッフを巻き込んでいく存在」を指す。主任や部署責任者、ISO委員長がこうした役割を果たすことに期待を示し、彼らが心理的安全性を確保し、公平な意思決定を行うことでチームの結束が高まり、目標達成に向けた推進力となると述べた。
インクルーシブリーダーが組織にいることの効果として、革新的なアイデアの創出や、組織への帰属意識の高まりによる離職率の低下などを語った。
世代間ギャップを超えた「若手への接し方」
Q: 若い世代は、係長や主任の自分たちとは仕事への考え方が違うように感じる。どう接するべきか?
三浦氏は、自らも若手の時代に先輩たちから「新人類」と呼ばれていた経験を振り返り、世代の違いをことさらに意識することはなかったと語った。「私は検査をするために検査室に入り先輩に教えてもらおうと思っていた。そのまま教えていただければいいと思っていた」。その上で、世代の違いを意識するのではなく、検査技師として教えるべきことを後輩に伝えていくことが重要だと指摘した。必要なことは「若い人に一生懸命に教えることではないか」と述べた。
中央検査部では、さまざまな会議の最後の5分間を使い、各部署のスタッフが「後輩に伝えたいこと」を順に発表している。そのうちの一人は、最近、若手からの報告に気付かされることが多く、聞く側の姿勢が大事だと気付いたエピソードを述べ、「どんな小さなことでも気軽に話して」と呼びかけた。
一方、堀田氏は、主任職に対し「一番やってほしいのは心理的安全性の確保」だと期待を込めた。価値観や考え方が多様化している今は、「さまざまな意見を言いやすい雰囲気をつくることが大事」だとした。また、「管理」から「育成」へ視点を変えるように促し、コーチングの手法が有用であることを述べた。さらに、主任には「検査部全体の業務フローや課題を俯瞰してほしい」と求め、検査室全体に視野を広げるように促した。
仕事の「質」と「意欲」を高める指導とは
Q:検査の内容や質よりも、早く仕事が終わることを優先するスタッフをどう指導すべきか?
両氏が一致して強調したのは、目標とする先輩の姿を共有し、仕事への意欲を高めること。
三浦氏は、自分が担当した検査の結果が臨床や患者に役立っていると知ること、そして尊敬し目標とする先輩がいることが仕事の意欲につながると強調した。また、本当にやりたいと思っている検査に従事することが意欲や能力を伸ばす側面があることにも言及した。
堀田氏は、「数値で説明することが大事」とし、エラー率や再検率などのデータを使い、検査の質を軽視した場合のリスクを分かりやすく示すことを提案した。さらに、検査の質と業務効率を両立している先輩技師の事例を共有して身近な目標とすることを挙げた。
研修の中止・中断と「適性」の見極め
Q:1人で業務をさせられないなどと判断して研修を中止したり転属させたりしたことはあるか?
三浦氏、堀田氏ともに、人によって検査分野の向き、不向きがあると一致して指摘した。本人と面談するなど慎重に検討した上で、最終的に「向かない」と判断し研修を中止した経験があるという。
三浦氏が挙げたのは、現在の担当とは異なる検査分野を強く希望したケース。こうした目的意識の高い検査技師の多くは有能なため、上司は手放したくないと考えがちで、本人の思いとの間にギャップが広がっていく。三浦氏が本人と面談を重ね、転属させたという。「単に今の仕事から離れたいのではなく、本当に自分のやりたいことのために配置転換を望む技師は確かにいる」。見極めの難しさを述べながらも、向き・不向きや適性はあるとし「本人と話しながら適性を見ていくことが重要」と述べた。
堀田氏は、「医療安全や検査品質の問題、本人の適性を総合的に判断し、心身の不調がなければ、研修の中止ではなく中断としている」と述べた。判断する時期については「検査の内容による。長い時間を要する研修では早めの判断が大事」との考えを示した。
研修への「モチベーション」の高め方
Q:研修のモチベーションを上げるには?
両氏ともに、今困っていることなど身近で具体的な事例を活用することを挙げた。
三浦氏は、認知症の患者応対で困った検査技師の経験を基に、患者接遇の勉強会を開いた事例を紹介。「その時に旬であるもの」を題材にした研修は受講意欲を高めるとの考えを示した。さらに、参加して楽しい、勉強になったなど「少しプラスアルファの心の動きが得られるものだといい」と述べた。
堀田氏は、「できるだけ具体的な事例を活用することが有効」とし、実際の事例や失敗例を活用することを提案した。さらに、簡単なタスクや確認テストなどの「短い成功体験」を研修に組み込む、質疑応答やディスカッションを設けるなど双方向性を確保することも有用だとした。
第7回は「組織運営」がテーマ
広島大学病院臨床検査研修会は同日が第7回の開催となった。組織運営分野がテーマで、三浦氏が「管理者と指導者が活きる組織」、堀田氏が「なりたい自分になれる組織づくり」と題してそれぞれ講演した。全国の国立大学病院の技師長らも参加した。
同研修会は、同病院診療支援部の山崎真一部長が中心となって企画したシリーズで、2024年3月から血液や生理、輸血などの分野ごとに開催してきた。各分野のエキスパートの検査技師が講師を務め、人材育成や指導者の人材育成などについて自らの経験などを語った。
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