サクッと解説! 検査技師必見トピックス #10
「寝不足大国」日本、対策へ一歩

厚生労働省の専門部会が9月4日、医療機関が広告できる診療科名に「睡眠障害」を追加する議論を始めました。来年3月ごろまでに結論をまとめ、一般から意見を聞いた上で実施する計画で、認められれば2008年以来、18年ぶりの見直しとなります。
医療機関がホームページや看板などに出す広告は、医療法により規制され、診療科名や医療機関の名称などに限定されています。さらに、広告できる診療科名も政省令で定められています。いずれも患者などの利用者を保護するのが目的です。
2008年4月に規制が緩和され、診療科名に人体の部位や臓器の名称、疾患の名称などを組み合わせることが可能になりました。感染症内科や糖尿病内科などの診療科名が広告できるようになったわけです。以前は、内科や小児科など政令で定められた診療科名に限定されていました。この改正に合わせて、「臨床検査科」「病理診断科」の診療科名も広告可能となりました。
また、医師や歯科医師1人に対し「主たる診療科名は原則2つ以内」というルールもあります。
5人に1人が悩み、学会が後押し
「睡眠障害」についての議論の背景にあるのは、日本睡眠学会の要望です。同学会は、標榜できる用語に「睡眠障害」を追加し、「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」などの診療科を標榜できるよう求めています。睡眠障害の診療を行う医療機関に国民がかかりやすくなり、さらに、医療者の知識や技術の普及啓発が進むと訴えています。
OECDの2021年のまとめ(Gender data portal 2021)によると、日本人の睡眠時間は平均7時間22分。世界平均の8時間28分を1時間程度下回り、世界的に見て「寝不足の国」です。厚労省の国民健康・栄養調査(2019年)の結果では、5人に1人が「日中、眠気を感じた」「夜間、睡眠途中に目が覚めて困った」などの睡眠の問題を抱えていました。
〔厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査報告.p186,2020より〕
睡眠障害は、患者本人の健康問題にとどまらず、労働生産性を低下させ、社会的な損失につながるとも指摘されています。こうした状況に対応し、患者が受診しやすい環境を整え、睡眠医療にアクセスしやすくするべき、というのが学会の主張です。
睡眠障害の標榜が適当か否かについては、厚労省の医道審議会の部会で今後検討されます。その際、標榜診療科名については、以下の4つの点を踏まえて決めることになっています。
・独立した診療分野を形成していること
・国民の求めの高い診療分野であること
・診療科名が分かりやすく国民が適切に受診できること
・国民の受診機会が適切に確保できるよう、診療分野に関する知識・技術が医師に普及・定着していること
また、医学医術に関する学術団体の意見も聞くことになっています。
標榜診療科名の広告は、患者などの利用者が受診先の医療機関を選択する際の重要な情報となります。来年3月の意見の取りまとめに向けて部会では、利用者の利便性と保護の両面を考慮した議論となることが予想されます。
診療科追加にとどまらない変化も
日本睡眠学会は、会員数約4200人のうち、臨床検査技師が800人以上を占めます。学会認定の専門検査技師は600人以上に上ります。睡眠障害が標榜診療科名として認められ、睡眠医療が国民に身近な存在になっていくと、睡眠医療に欠かせない睡眠検査の担い手もこれまで以上に必要になります。病院としてどのように対応していくか、厚労省部会の議論の推移を見ながら、備えを検討していきたいところです。
もう1つ注目したいのは、公的医療保険の外で提供されるヘルスケアサービスとの接続です。睡眠は、食事や運動とともに、ヘルスケアサービスとして民間企業の取り組みが進む分野。睡眠時の脳波を計測して、より深く眠るためのアドバイスをしたり、スマートリングからPHR(Personal Health Record)を取得し睡眠をサポートするなどのサービスがすでに登場しています。
日々の睡眠をPHRを使って管理し、気になることがあれば専門の医療機関に診てもらう。睡眠分野は、ヘルスケアサービスとして提供される予防や健康づくりから、公的保険がカバーする医療(診断・治療)、介護・生活支援へとつなげていく政府のヘルスケア政策の好事例となるかもしれません。その意味で睡眠障害の広告の議論は、新たに診療科の標榜が認められるという以上の変化を健康や医療の分野にもたらす可能性を秘めています。(枇)
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