サクッと解説! 検査技師必見トピックス #21
日本成長戦略と検査室——医療DX、人材養成に波及


- 電子カルテ情報の共有化や、医療関係職種の養成維持などは、検査室に関係する足元の課題。
- いずれも、7月に政府が決定した日本成長戦略に位置付けられており、政府全体で取り組む施策となっている。
- 施策の確実な進展が見込まれるため、検査室として備えを固めたい。
臨床検査などのデータ共有化、サイバーセキュリティーの強化、医療関係職種の養成の維持―。いずれも、臨床検査室や臨床検査技師に関わる足元の政策課題です。厚生労働省は、それぞれの検討会で具体的な議論を進めたり、関連する予算措置を講じたりしています。一見、別々のように見えるこれらの施策には共通点があります。それは、政府が進める成長戦略に位置付けられていることです。
政府は7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」と、「日本成長戦略」を閣議決定しました。骨太方針は高市早苗政権として初の策定で、政権が掲げる「責任ある積極財政」を盛り込んだ内容となりました。
日本成長戦略では、戦略17分野を定め、計62製品・技術に対し2040年度までに官民で370兆円規模の投資を実現させることを打ち出しました。戦略17分野には、「デジタル・サイバーセキュリティー」や「創薬・先端医療」が含まれ、さらに62製品・技術の中には、「クラウドネーティブに最適化された医療DX基盤」「感染症対応製品」などが盛り込まれています。
62製品・技術についてはそれぞれ、「官民投資ロードマップ」が策定されています。ロードマップには、民間投資を加速させるための「勝ち筋」、その実現のための政策パッケージが記載されています。
医療DX基盤も投資対象に
「クラウドネーティブに最適化された医療DX基盤」では、全国データ連携基盤を構築した上で、高品質のデータを生かし、AI等の医療デジタルサービスの拡大や創薬、医療機器の開発等を進める「勝ち筋」を描きました。その上で、「講じるべき政策」として下記の3点を挙げています。
- クラウドネーティブ型の情報システムへの転換
- サイバーセキュリティー対策の強化
- 全国的なデータ連携基盤の整備
このうち「クラウドネーティブ型の情報システムへの転換」では、認証されたクラウドネーティブ型電子カルテ製品の普及を支援します。電子カルテは、院内にデータサーバーを置くオンプレミス型が主流でしたが、導入・運用費や情報共有が課題とされてきました。このため、データ連携がしやすいクラウド型への転換を促します。さらに、電子カルテと部門システムの標準インターフェースも構築する方針です。
電カル共有、検査も対象
厚労省は、医療DXの一環として、診療情報提供書などの3文書、臨床検査などの6情報を医療機関の間で共有するための「電子カルテ情報共有サービス」を2026年度冬ごろから本格始動させる計画です。臨床検査関係では生活習慣病関連などの43項目、感染症情報の5項目が共有対象で、検査室は標準コード「JLAC11」への対応が実務上の課題となります。
厚労省はさらに、2030年にほぼ全ての医療機関に電子カルテが導入されることを目標に掲げています(図1)。その実現に向け、医科無床診療所向けの標準型電子カルテを開発中です。あわせて、医科診療所向け、中小病院向けのそれぞれの標準仕様を策定し、準拠した製品を厚労省が認証する仕組みを2026年度に設けます。
これらは「官民投資ロードマップ」の政策パッケージに盛り込まれている内容です。
〔厚生労働省:第28回健康・医療・介護情報利活用検討会 資料1;電子カルテの普及について(令和8年3月12日).2026より一部改変〕
人材育成が横断課題に
一方、日本成長戦略では戦略17分野を横断する課題として、8つの分野横断的課題も設定しました。そのうちの1つが「人材育成」です。2040年にかけて現場人材の不足などが見込まれる中、医療や介護などの「現場」を支える人材を戦略的に育成していく方針を示しました。
対応の方向性として次の点を挙げています。
- 専門学校の教育の質向上を図り、遠隔授業などを柔軟に行うための制度改正に取り組む
- 地域の医療・介護・福祉などインフラの維持に不可欠な、質の高い人材の安定的な養成体制等を確保する
厚労省では、2040年ごろに向けて地域の医療関係12職種の養成をどのように維持していくか、検討会を設けて議論を進めています(図2)。
〔厚生労働省:第129回社会保障審議会医療部会;医療関係職種の安定的な養成・確保に関する検討会における議論の状況について(令和8年7月24日).2026より一部改変〕
少子化により、15〜19歳の若年人口は2040年に2020年比で29%減少するとの推計があります。医療関係職種は、地元の専門学校を出た若者が地域の医療機関で働く例も多く、養成基盤の弱体化は地域の医療提供体制に影響する恐れがあります。このため検討会では、養成学校の再編を促したり遠隔授業を活用したりする対策を検討中です。こうした施策が成長戦略に盛り込まれているわけです。
検査室も備えの段階へ
臨床検査室や臨床検査技師に関わる政策が政府の成長戦略に位置付けられているー。この事実から読み取れるのは、これらの施策が厚労省単独ではなく、政府全体の施策として進められているという点です。
政府は、来年度予算で、シーリングを設けず必要額を要求できる予算枠の「強く豊かな日本投資枠」を新設します。政策の具体化に向け、各省庁がこの予算枠をどう活用するかが、直近の注目点の一つとなります。
日常業務からは遠く見える政府の成長戦略も、実は、病院や臨床検査技師にとって身近な課題につながっています。電子カルテ情報の標準化・共有化、サイバーセキュリティーの強化、地域の人材養成体制の維持。成長戦略が示すこれらの論点は、検査室の将来像を形づくる政策課題でもあります。その具体化を待つだけでなく、検査室自らが次の変化を見据え、備えを進める段階に入っています。(枇)
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MTJ編集部
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