わかりやすい! 医療政策から読み解く技師の未来 [第28回]
健康経営・くるみんマーク編

今回のキーワード
健康経営優良法人認定制度
くるみん認定制度
設備投資から人材投資へ
少子高齢化が進み、労働人口の減少が避けられない日本社会において、医療現場を支える人材の「健康」と「働きやすさ」は、かつてないほど重要なテーマとなっています。特に臨床検査技師をはじめとする医療技術職は手技の正確さと集中力を要し、かつ夜勤や突発対応も多く、疲労やストレス、家庭との両立の難しさは、離職や人材不足の要因ともなり得ます。こうした背景を踏まえ、政府は近年「健康経営優良法人認定制度」や「くるみん認定制度」といった枠組みを整備してきました。これらは単なる企業表彰ではなく、「職員が心身ともに健康で働ける組織を、経営の中核に据える」という社会的メッセージでもあります。病院や医療法人にとっても、もはや“ひとごと”ではありません。医療の質を支えるのは人であり、技師がいきいきと働ける環境を整えることは、本質的な医療政策対応の一つといえます。
健康と子育て、仕事の両立を支援
まず「健康経営優良法人認定制度」は、経済産業省と日本健康会議が運営する制度で、従業員の健康を“経営資源”と位置付け、戦略的に取り組む法人を認定するものです。特に大規模法人部門で上位500法人に選ばれた企業には「ホワイト500」の称号が与えられます。健康診断受診率やストレスチェック実施、長時間労働対策、メンタルヘルス支援、仕事と治療の両立、喫煙対策などの評価項目が設けられているのが特徴です。医療機関がこの認定を得ることは、職員の健康管理を病院経営の柱に据えている証明といえ、2025年の大規模法人部門では、約150の医療法人などが認定されています。

一方の「くるみん認定制度」は、厚生労働省が次世代育成支援対策推進法に基づき、子育てと仕事の両立を支援する企業・法人を認定するものです。認定のためには、男性職員の育児休業取得数、ノー残業デーの導入、短時間勤務や柔軟な勤務制度の導入状況などが評価されます。医療現場においては、夜勤・交代制などの勤務形態の中でどのように子育て支援を実現するかが課題であり、制度的・文化的な両面での工夫が求められます。この2つの認定は性質こそ異なりますが、共通しているのは「人を大切にする経営」を可視化する点にあります。健康経営が“身体”の支援、くるみんが“暮らし”の支援だとすれば、両者は表裏一体であり、医療現場で働く全ての職員を支える両輪となり得ます。
認定取得は「働きやすい職場」づくりに
では、病院や医療法人がこの2つの認定を同時に取得することには、どのような意義があるのでしょうか。第一に、人材確保・定着力の向上が挙げられます。健康経営と子育て支援を明確に打ち出すことは、求職者や学生に対して「働きやすい病院」という強いメッセージになります。医療人材の採用競争が激化するなか、こうした認定を得ていることがブランディングや信頼性向上につながるのです。
第二に、職場文化の変化が挙げられます。健康経営の実践には、労務管理やメンタルヘルス対策、勤務時間の可視化が不可欠であり、組織全体に“予防志向”の文化が生まれます。一方、くるみん取得を通じて子育て世代の働き方を見直すことは、結果的に全ての職員にとって柔軟で公正な勤務環境の設計につながります。
第三に、経営の持続可能性という視点もあります。職員の健康悪化や離職は、医療の質の低下やコスト増加を引き起こします。健康経営を制度化することで、データに基づいた労務・健康管理の改善サイクルが確立され、結果的に医療安全や業務効率にも波及します。さらに、子育て支援制度を整備することで、出産・育児による離職を減らし、経験ある技師や看護師が戻れる職場をつくることができます。つまり、これらの認定は単なる称号ではなく、病院経営を持続可能にする“仕組み”とも考えられるのです。
ヘルスケアデータ分析で新たな貢献を
臨床検査の現場では、この2つの制度がどのような意味を持ち得るでしょうか。一つは、健康経営の視点から見れば、検査室は長時間の集中作業や夜間対応が少なくなく、身体的・精神的な負担がある職場と考えることができます。そうした意味でも、ストレスチェックや定期健康診断に加え、姿勢・視力・筋骨格系への負荷を考慮した労働環境整備が求められます。また、感染症対応や災害時検査など、緊張を伴う業務が続く中で、メンタルヘルス支援を組織的に行うことは、職員の安全とパフォーマンスを守る基盤となります。
二つ目にくるみんの視点から、子育て中の技師が働き続けられる柔軟な制度設計が重要で、短時間勤務、夜勤免除、リモートでのカンファレンス参加、キャリア再開支援プログラムなど、職場復帰を支える工夫が求められます。特に臨床検査の場合は専門分業とチーム連携体制の確立が重要で、デジタル化も進んでいくため、勤務の柔軟化を進める必要性も問われています。
最後に、これらの取り組みを通じて、「データで健康を管理し、エビデンスで職場を変える」という検査技師ならではの貢献が期待されます。健康診断データや勤務データを基にした組織分析、ストレス指標の可視化、検査室内の作業負荷評価など、検査技師の分析力を生かした「ヘルスデータ経営」の実践は、まさに健康経営の核心を担う領域で、検査技師の新たな価値創造につながります。そして、こうした環境改善の実践は、若手や学生にとって「この職場で長く働きたい」という意欲にもなります。働く人が健康で、子育てしながらキャリアを積める病院こそが、次世代に選ばれる医療機関といえます。
健康経営優良法人とくるみんの認定取得は、制度対応というよりも、医療の持続性を支える「人への投資」の意味合いが強いです。臨床検査技師が専門性を発揮し続けるためには、身体的・精神的な健康と、ライフステージを通じて働ける職場環境が不可欠です。今、病院経営のキーワードは“設備投資”から“人材投資”へと移りつつあります。健康を支える医療職自身が健康に働ける仕組みをつくる―。その先にこそ、臨床検査技師の未来と、医療の信頼が続く社会があるのではないでしょうか。
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