キャリア・学び

AI×循環器検査 AI 解析の臨床応用とマネジメント #4
AIは心エコー検査室をどう変えるか——運用設計と新人教育への活用

2026.09.28 06:00 会員限定記事を示すアイコン

はじめに——心エコー検査室を取り巻く課題とAIへの期待

心エコー検査は、循環器診療における中心的な画像診断法として、心不全、弁膜症、虚血性心疾患、先天性心疾患など幅広い病態の診断と経過観察に欠かせない検査です。非侵襲的で繰り返し施行できることから検査需要は増加を続け、多くの施設で検査件数も年々増加しています。

その一方で、心エコー検査は検査者の技術や経験への依存度が高く、標準断面の描出、病態に応じた観察、定量評価、さらに臨床情報を踏まえた総合的な判断など、多様な知識と技能が求められます。近年は検査内容の高度化や専門化に伴い、経験豊富な技師への業務集中や教育担当者の負担増加、人材育成などが検査室共通の課題となっています。

このような背景のもと、自動計測や画像認識技術を中心としたAIの実用化が進んでいます。AI技術は診断を代替するものではなく、検査品質の向上と検査室運営を支える新たな基盤として期待されています。

 

AIが変える心エコーの運用設計

1.自動計測がもたらす標準化と効率化

AI導入による大きな利点の一つは、検査品質の標準化と業務効率化です。近年の超音波診断装置にはAIによる自動解析機能が搭載され、左室駆出率、左室・左房容積、ストレイン解析などの自動計測が可能となっています。これにより検査者間のばらつき低減や再現性向上が期待され、解析時間も短縮されることで、検査者は病態評価や追加観察など、より付加価値の高い業務へ時間を配分できるようになります。

Shiokawaらは、AI自動計測が主要計測項目において熟練検査者と高い一致率を示し、検査者間のばらつきを減らしながら高い再現性を確保できることを報告しています1)。これは施設全体で均質な検査品質を維持するだけでなく、経時的評価や多施設間でのデータの信頼性向上にも寄与する重要な成果といえます。

さらにOlaisenらは、ディープラーニングを用いたリアルタイム解析により左室容積および左室駆出率解析時間を大幅に短縮できることを報告しています2)。撮像中に解析結果を確認できるため、その場で画像品質を評価し、必要に応じて再撮像できることは、再解析や再検査の減少につながり、検査室全体のワークフロー改善にも寄与します。

実際に筆者が同じ画像を用いて左室駆出率を計測したところ、手動計測では85秒を要したのに対し、自動解析では7秒で解析が完了し、解析時間は約90%短縮されました(動画)。

 

2.AIの限界を踏まえた品質保証

一方で、AI解析には限界も存在します。画質不良例や複雑な病態では解析精度が低下する場合があり、最終的な妥当性の確認は検査者が担う必要があります。AI解析は診断を代替するものではなく、品質保証(Quality Assurance:QA)を支援するツールとして活用することが重要です。

 

新人教育におけるAI活用

AIは新人教育のあり方にも大きな変化をもたらしています。従来はOJT(On-the-Job Training)を中心とした教育が行われてきましたが、検査件数の増加や人員不足により、十分な教育時間を確保することが難しくなっています。

AIを活用することで、検査者による手動計測結果をAI解析結果と比較し、課題を客観的に把握できます。指導者の経験や感覚だけに依存することなく、データに基づいた指導が可能となるため、教育内容の標準化にもつながります。例えば、経験の浅い検査者では、左室内膜トレース時に肉柱を心筋として認識し、左室内腔から除外してしまうことで、左室容積を過小評価することがあります(図1)。

図1 手動による左室内膜トレース〔筆者作成〕
図1 手動による左室内膜トレース〔筆者作成〕
一方、リアルタイムAI解析では撮像中に画像品質やトレースを確認でき、その場で修正しながら学習を進められることから、技能習得の効率化も期待できます(図2)。
しかし、AIは「教える存在」ではなく、「客観的な教材」として機能するものです。患者背景や病態生理を理解し、「なぜこの断面が必要なのか」「何を追加で観察すべきか」を考える臨床的判断は、人が担うべき役割です。AIにも解析困難例や誤認識は存在するため、その結果を適切に評価する能力は、今後ますます重要になります。教育現場では、まず標準断面の描出技術と手動計測を十分に習得し、そのうえでAIを活用する教育が望ましいと考えます。
図2 AIによる左室内膜自動トレース〔筆者作成〕
図2 AIによる左室内膜自動トレース〔筆者作成〕

 

おわりに——AIを使いこなせる技師を育てる

これからの心エコー検査室に求められるのは、AIを導入することではなく、AIを適切に活用できる運用体制と教育体制を構築することです。AIは反復的な計測や画像解析を担い、検査者は病態理解や臨床判断、患者対応など、より高度な業務に注力する。その役割分担が実現することで、検査の質と教育の質、さらには検査室全体の生産性向上につながります。

近年の報告が示すように、AIは心エコー検査の標準化や教育支援において有用性を示しつつあります。しかし、その価値を最大限に引き出す鍵は、AIそのものではなく、それを適切に活用できる検査者の存在です。AIが進歩する時代だからこそ求められるのは、AIに依存する技師ではなく、AIの利点と限界を理解し、臨床判断に結び付けられる技師です。こうした人材育成こそが、これからの心エコー検査室の質を高める基盤になると考えます。

 

 

引用文献

1)Shiokawa N, et al : Accuracy and efficacy of artificial intelligence-derived automatic measurements of transthoracic echocardiography in routine clinical practice. J Clin Med, 13 : 1861, 2024

2)Olaisen S, et al : Automatic measurements of left ventricular volumes and ejection fraction by artificial intelligence:clinical validation in real time and large databases. Eur Heart J Cardiovasc Imaging, 25 : 383-395, 2024

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編集|松林 正人(三重ハートセンター臨床検査科 技師長)

花井 甲太郎

花井 甲太郎

臨床検査技師。新卒時より生理機能検査に従事し、現在は超音波検査を中心に臨床経験を積んでいる。臨床検査技師会や専門学会で活動するほか、技師会では生理検査全般の精度管理事業に携わり、県内施設における検査精度の標準化と施設間差の是正に取り組んでいる。近年はAIの医療応用や教育への活用に関心を持ち、臨床現場における実践的な活用方法や業務改善、人材育成に関する情報発信にも力を注いでいる。