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Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 臨床化学・免疫血清05
「報告して終わり」から脱却するクリティカルバリュー運用

2026.09.23 06:00 会員限定記事を示すアイコン

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「パニック値」から「クリティカルバリュー」へ

パニック値(クリティカルバリュー)とは、「生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値」と定義されている1)。2024年には日本臨床検査医学会の提言書が改定され、運用基準とともに「呼称の見直し」が明記された。国内では「緊急異常値」「緊急報告検査値」など多様な呼称が用いられているが、国際的には「critical value」が一般的であり、今後は「critical value」「クリティカルバリュー」、あるいは「クリティカルバリュー(通称:パニック値)」を用いることが推奨されている2)

さらに、2026年度診療報酬改定では検体検査管理加算Ⅱ〜Ⅳの施設基準が見直され、下記のような体制を整備することが望ましいとされた3)

  • 少なくともグルコース(Glu)、カリウム(K)、血小板数(PLT)についてパニック値の閾値を設定する
  • 発生時には速やかに診療にあたる医師へ連絡する
  • 医師は対応内容を診療録に記載するよう努める
  • 検査結果報告書などでパニック値とわかる表示を行うよう努める


なお、こうした緊急報告の考え方は検体検査以外にも広がっており、日本超音波医学会も2026年、超音波検査で緊急に対応すべき異常所見を「パニック所見」として体系化している4)

 

臨床化学・免疫血清検査のエキスパートレビュー

では、検査現場では何を変えていく必要があるのだろうか。

背景として押さえておきたいのが医療安全上の問題である。2024年、日本医療安全調査機構は、医療事故の再発防止に向けた提言として「血液検査パニック値に係る死亡事例の分析」を公表した5)。同提言では、クリティカルバリューを確実に医師へ伝えるだけでなく、医師による対応、診療録への記載、検査結果の視認性など、検査室から診療側までを含めた一連の運用体制の重要性が示されている。

一方、2025年の全国アンケート調査では、回答した103施設すべてでクリティカルバリューが運用され、GluとKは全施設、PLTは97%の施設で対象項目に設定されていた6)。運用自体は大規模病院を中心に広く定着しているものの、対象項目や閾値、報告方法、その後の管理には施設間差が残されている6, 7)

提言書や診療報酬改定の内容を踏まえると、クリティカルバリュー対応は、従来の「異常値を電話で伝える」という単純な情報伝達から、「誰に、いつ、どのように伝え、その後どう対応されたか」までを確実に管理する運用へ移行しつつある。

 

1.「何を、いつ、誰に伝えるか」を標準化する

実効性の高い院内マニュアルの整備が第一歩となる。クリティカルバリューの対象項目や閾値には、すべての医療機関に共通する絶対的な基準はなく、全国調査でも設定項目数は中央値18項目で、4〜66項目と大きな差があった6)

項目や閾値は、自施設の診療機能や患者背景を踏まえ、診療科や医療安全部門と協議して設定する必要がある。さらに、前回値もクリティカルバリューだった場合や、透析患者など特定の臨床状況における報告の要否や判断基準についても、個々の技師の判断に任せず、あらかじめ院内で基準を共有しておくことが重要である。

実際、全国調査では、前回値と同程度なら報告しない施設が67%を占めた一方、前回値との比較期間や差について「特に決まりがない」とした施設も57%に上った6)。連絡過剰を避ける工夫は必要だが、判断基準が曖昧なまま報告を省略すれば、必要な情報が診療側に届かないおそれがある。

報告のタイミングにも課題がある。「第一報としてすぐに報告する」施設は22%にとどまり、「再検査して値が確定してから報告する」が69%を占めていた6, 7)。これに対し、提言書では緊急報告を重視し、原則として再検査前の「初回値」を報告することが望ましいとしている2)。測定異常が疑われる場合などには再検査が必要だが、臨床検査技師には検体性状、測定状況、過去データ(デルタチェック)などから結果の妥当性を迅速に評価する力が求められる。

 

2.「伝えた後」までを管理する

今後は「伝えた後」の管理がより重要になる。


全国調査では、報告履歴はほぼすべての施設で保存されていたものの、記録方法は紙媒体が59%を占めた6)。また、電話報告後にカルテ記載をしていない施設は49%、臨床検査部門が報告後の臨床対応を「いつも確認」している施設は23%、「事例によって確認」は50%であった6)。情報が確実に受領され、その後の診療行動につながったことまで確認する仕組みには、なお改善の余地がある。

その解決策の一つがDXである。2025年、日本臨床検査医学会と日本臨床衛生検査技師会は「パニック値報告の視認性向上に関する要望書」を公表し、通常の異常値とは異なる強調表示、自動ポップアップやメッセージ送信、LISと電子カルテ間の表示連携などを求めた8)。電子カルテや院内モバイル端末への自動通知と受領確認を組み合わせれば、伝達漏れを防ぎながら負担軽減につながる可能性がある。重要なのは、院内マニュアルの整備後、「異常値の発生&判定確認―第一報―受領&エスカレーション―臨床対応―記録&振り返り」を切れ目なくつなぐ仕組みを設計することである()。

図 クリティカルバリュー(パニック値)運用フロー 〔各提言などを参考に作図〕
図 クリティカルバリュー(パニック値)運用フロー
〔各提言などを参考に作図〕

 

クリティカルバリュー対応を支える検査室の役割

患者と医療従事者の双方を守るには、自施設の運用ルールを継続的に見直し、対象項目・閾値、第一報のタイミング、連絡先、前回値の扱い、記録方法などを検査部門と診療側で共有する必要がある。

そのうえで、臨床検査技師には、診療科、医療安全管理部門、医療情報部門などと協働し、安全で効率的な運用設計に関与する役割が期待される。報告到達率や報告TAT、未達・再連絡件数、報告後の臨床対応状況などを継続的に評価し、QI(quality improvement)につなげることも重要である。

「パニック値」から「クリティカルバリュー」へ。変わるのは呼称だけではない。単なる異常値の連絡から、確実な伝達と臨床対応までを支える医療安全の仕組みへと、運用そのものが変わろうとしている。

 

 

引用文献

1)Lundberg GD:When to panic over abnormal values. Med Lab Obs, 4:47-54, 1972

2)日本臨床検査医学会:臨床検査「パニック値」運用に関する提言書(2024年改定版).2024

3)厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日保医発0305第8号)

4)松尾汎,他:超音波検査の「パニック所見:緊急に対応すべき異常所見」:総論.超音波医学,53:95-107,2026

5)日本医療安全調査機構:医療事故の再発防止に向けた提言第20号;血液検査パニック値に係る死亡事例の分析.2024

6)楠木啓史,他;日本臨床検査医学会チーム医療委員会:病院におけるクリティカルバリューの運用実態;全国アンケート調査.日本臨床検査医学会誌,73:877-888,2025

7)楠木啓史,他:パニック値に関する現状と課題;全国調査(病院)からみた検討.日本臨床検査医学会誌,73:895-898,2025

8)日本臨床検査医学会,他:パニック値報告の視認性向上に関する要望書.2025

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