検査室

変わり続ける検査の現場 #19 熊本県心血管エコー検査標準化プロジェクト
心エコー人材を県全体で育成

2025.07.04 00:00 会員限定記事を示すアイコン


熊本大学病院の中央検査部や循環器内科などが中心になり、県内の心エコー検査の標準化を目指す取り組みが開始から7年目を迎えている。熊本県臨床検査技師会や県内の主要な病院が連携し、年2回のハンズオンセミナーや毎月のウェブ研修会を開く。時には他県の循環器内科医らがボランティアで参加し、臨床検査技師にアドバイスを送る。今後活動範囲を九州全域に広げていきたい考えで、全国からの参加も歓迎している。



どのトレースラインを選びますか―。心内膜の輪郭を線でなぞった4つの画像から最も適切な回答を選ぶ。ウェブ研修会で実際に出題された症例問題の一つだ。輪郭から肉柱を除外するルールだが、実際には微妙な判断を求められることが少なくない。この問題でも最も回答が多かった画像は肉柱が十分に除外されておらず、専門医とのディスカッションを通じてトレースラインが内側すぎることを参加施設間で確認した。

 

 

技師にプラスになることを

ウェブ研修会を開いたのは、「熊本県心血管エコー検査標準化プロジェクト」。英語表記の頭文字をとり、通称「K-CHAP」。ケチャップと読む。会長を熊本大学大学院循環器内科学の辻田賢一教授、副会長を県臨床検査技師会の田中信次会長らが務め、済生会熊本病院や熊本赤十字病院などの中核病院を含む主要な病院が協力する。長く県内の心エコー検査を牽引してきた医師が顧問を務めており、県内医療機関を挙げてのプロジェクトとなっている。

K-CHAP代表幹事の宇宿氏(左)とミーティング係の神力氏
K-CHAP代表幹事の宇宿氏(左)とミーティング係の神力氏

発足は2018年11月。熊本県や宮崎県の10以上の病院に勤務し心エコーレポートの違いを実感していた超音波専門医の宇宿弘輝氏(代表幹事、熊本大学病院中央検査部門・熊本大学大学院循環器内科学)が、情報共有のための「顔の見える関係づくり」を構想したのがきっかけとなった。呼びかけは、中央検査部の技師から県臨床検査技師会へとつながり、さらに循環器内科の専門医のネットワークにも広がった。宇宿氏は、「さまざまな病院に勤務し多くの検査技師の皆さんにサポートしてもらった。大学に戻り、何かプラスになることがしたかった」と話す。

 

地域全体で人材を育成

始動に当たり県内の循環器科に行ったアンケート調査(2018年)の結果では、心エコー検査を行っている医療機関は187に上り、施設や地域の差が極めて大きい実態が分かった。

例えば心血管エコーの検査数は、熊本市を中心とする熊本・上益城の地域が人口100人当たり11.9件なのに対し、最少の阿蘇地域は2.7件。疾患の兆候が見逃されている恐れがあった。また、主要な10の医療機関に56%の検査が集中し、この主要な医療機関において超音波専門医が在籍しているのは3施設のみ。アンケート結果から、地域全体で人材育成に取り組む必要性が浮かび上がった。

活動は、心エコー件数の実績が少ない阿蘇地域から始めた。2018年11月に初のハンズオンセミナーを開催したのを皮切りに、コロナ禍の休止期間を経て、天草や球磨などでも開催し、今年5月で8回目となった。座学の講義と、装置を使った実技を交互に受講するプログラムが特徴で、参加者が効果的に学べるよう、見学だけの時間をできるだけ短くしているという。

 

阿蘇で初めてハンズオンセミナーを開いた(提供写真)
阿蘇で初めてハンズオンセミナーを開いた(提供写真)

 

コロナ禍でハンズオンセミナーが開けない時期に、オンライン会議システムを使ったウェブ研修会も始めた。現在、毎月第3週月曜日の午後5時から1時間の開催とし、時には他県の小児循環器内科医や心臓血管外科医も参加する。参加費は無料で、毎回、県内を中心に50程度の施設が参加するという。

ウェブ研修会は、超音波専門医によるミニレクチャーの後、参加者が投票機能を使って回答する症例問題を行う流れ。回答の集計結果を見ながら全員でディスカッションする。

前述のトレースラインの問題は、ミーティング係を務める中央検査部の神力るみ氏(超音波検査士)が出題した。神力氏は、「わずかな違いに皆さん、悩むと思う」と出題の意図を説明する。あえて正答を設けず、わずかな違いの画像を選択肢にすることで議論を促すようにしたという。

最近は、壁運動評価のほかに、弁膜症の評価や先天性心疾患の評価、心アミロイドーシスの評価の症例問題を出題している。

ケチャップはまた、新人教育などに活用してもらえるよう、「熊本県統一心エコーマニュアル」2冊(基礎編、応用編)を手作りでまとめた。写真をふんだんに使い、エコーの撮り方や評価の仕方などを分かりやすく解説した内容となっている。県内40以上の施設に無料で配布した。

 

K-CHAPが作成したマニュアル2冊
K-CHAPが作成したマニュアル2冊

 

正答率向上に手応え

活動開始から7年目になり、症例問題の正答率の向上にケチャップの成果を感じているという。心エコー動画と心電図波形から心アミロイドーシスを選択する症例問題を出題したところ、正答率は96%と高く、エキスパートの医師らと同等の回答率となった。神力氏は「研修の繰り返しによって正答率が高まったのではないか」と手応えを語る。「毎回の研修会に50程度の施設が参加し、熱意のある検査技師が多い。県内の心エコーがレベルアップしていくことが私のモチベーションになっている」と話す。

「熊本県心血管エコー検査標準化プロジェクト」のHPはこちら(https://k-chop.jimdofree.com)
「熊本県心血管エコー検査標準化プロジェクト」のHPはこちら(https://k-chop.jimdofree.com)

宇宿氏は今後、「活動を九州全体に広げていきたい」としている。心エコーの人材育成については、専門医を中心にしたグループが全国規模で活動するが、ケチャップは地域版として活動していく考えだ。

オンライン診療が全国で広がる中、ウェブを使った研修会はその素地になり得るものだ。ケチャップで顔見知りになった医師や検査技師がネットワークでつながれば、心エコーの評価やアドバイスが今よりも容易にできる。そんな将来を思い描きながら、ケチャップの活動を続けていくことにしている。

 

 



MTJ本紙 2025年7月1日号に掲載したものです.。

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