きらり臨床検査技師 [第26回]山下 計太さん(浜松医科大学医学部附属病院 臨床検査技師長)
免疫能や精度管理の研究に尽力、出会いがキャリアをつくる

大学病院の臨床検査技師長として検査室のマネジメントや人材育成に携わる一方、標準化や精度管理に関する学会活動にも力を注ぐ山下計太さん。新型コロナウイルスワクチンの免疫能調査に携わり、AI技術を活用した新たな精度管理手法の可能性にも目を向けている。
検査の実務、研究、マネジメント、そして学会活動。さまざまなフィールドで仕事をしてきた背景には、常に「人との出会い」があった。これまで歩んできた道のり、その中で得た気付きについて話を聞いた。
幼少期の入退院が、医療職への原点
―臨床検査技師を志したきっかけを教えてください。
小学校に入る前、右手薬指の腱が動かなくなり、腱移植の手術を受けました。入退院を繰り返す中で、整形外科の主治医や看護師の方々がとても親身に接してくださり、病院が身近な存在になったことを覚えています。その経験から自然と「医療に関係する仕事がしたい」と思うようになりました。
当初は医師に憧れていましたが、顕微鏡で細胞を観察することが好きで、臨床検査技師を選びました。地元の北海道を出てみたいという思いもあり、筑波大学医療技術短期大学部に進学しました。
―最初の職場では、どのような業務を経験されたのですか。
2001年は就職氷河期でしたが、縁あって筑波メディカルセンター病院に入職しました。最初は生理検査に配属され、心電図やMRIを担当しました。他職種と連携する機会も多くて毎日が新鮮でしたね。2年目からは検体検査にも携わり、幅広い検査業務を経験しました。
疑問に思ったことをそのままにできない性格もあって、心電図を一つとっても「なぜこの波形になるのか」「電位差はどのような仕組みなのか」などと先輩によく尋ねていました。今思うと、扱いにくい後輩だったかもしれません。当時、真正面から向き合ってくれた臨床検査科長の存在は大きかったと思います。また、院外においても、元筑波大学の桑克彦先生はじめ、筑波臨床化学セミナーの先輩方に大変お世話になり、ご迷惑ばかりおかけしていましたが、今の私の臨床化学の研究や業務の礎となったと思っています。
研究と業務の両立に苦労、博士課程修了まで9年も
―キャリアの転機となった出来事はありますか。
30代で大学院に進学し、筑波大学で人類遺伝学の基礎研究に挑戦しました。今となってはゲノム医療の基礎を作ることができたと思っています。その頃、臨床検査科の係長となり、検査室のマネジメントも任されるようになりました。病院自体も転換期で、微生物検査室の立ち上げや、検査室運営をFMSから自施設に戻すなど、大きな変化が続きました。
収支計算や機器のリース契約など、これまで経験のなかった業務にも対応する必要があって、研究と業務の両立は想像以上に大変でした。博士課程修了まで9年かかってしまいましたが、諦めずに続けられたのは、指導教官の元筑波大学教授の土屋尚之先生や川崎先生、上司、同僚、そして家族の支えがあったから。「業務も研究も、一人ではできない」と強く実感しました。
出会いが縁となり、新たな研究手がける
―研究に注力するため、大学附属病院へ転職したのですか。
日本臨床化学会の前理事長で、当時浜松医科大学医学部附属病院の検査部長だった前川真人先生との出会いが、大きな転機になりました。お会いした当初から私のことを非常に気にかけていただき、それが縁で2019年に浜松医大病院に副技師長として着任しました。
その後、コロナ禍に突入し、2021年から新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まったことを受けて免疫能の調査研究に携わることになりました。当時は、ワクチン接種後の免疫能の挙動や個人差に関するデータがほとんどありませんでした。そこで本学職員のワクチン接種者50人を対象に1年間の追跡調査を実施し、免疫能の推移や性差・年齢差を調べることになりました。この研究で、高年齢はワクチン接種による抗体価上昇が少ない一方、細胞傷害性リンパ球などを中心とする免疫(細胞性免疫)は高めで推移していたことなどが示唆されました。この研究成果は、国際的な学術誌に掲載されました。
学会活動にも深く関わるようになり、日本臨床化学会の標準化委員会や精度管理委員会などに参加してきました。私が最近注目しているのは、AI技術を活用して患者集団データから検査異常を検出する精度管理手法です。海外では研究開発が進んでおり、CLSIやISOなどのドキュメントでも今後議論されることが予想されますが、日本ではその存在すら認知されていません。国内でも新たな精度管理手法の研究開発を進め、少しでもその発展に寄与できる活動ができればと思っています。日本の底力を世界に示したいですね。
失敗を恐れず、挑戦を
―若手の臨床検査技師へメッセージをお願いします。
今では臨床検査技師長として人材育成にも携わるようになり、改めて、人との出会いがキャリアに大きな影響をもたらすと感じています。若い時期はとにかく成長の伸び代があります。興味がある研究テーマや検査業務があれば、失敗を恐れず、しがらみを気にせずに挑戦してほしいですね。その経験が、きっと次の出会いや新しい道につながっていくと思います。
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