Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 血液02
知っておきたい心血管疾患に伴う出血性疾患——後天性フォンウィルブランド症候群(aVWS)


後天的なフォンウィルブランド因子(VWF)異常に関する認識
止血に重要なフォンウィルブランド因子(VWF)の量的欠乏・質的異常では、出血症状を来す。VWF異常が遺伝子変異による場合(先天性)をフォンウィルブランド病(VWD)と呼ぶ。『von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版』は、VWDの診断推進と適切な治療による患者QOL向上と予後延長を目的とし、疾患概要、診断、治療について詳細に示されている。
一方、VWFが基礎疾患により二次的に異常を示す場合(後天性)は、後天性フォンウィルブランド症候群(acquired von Willebrand syndrome : aVWS)と呼ばれ、同様にガイドラインに示されている1)。基礎疾患には大動脈弁狭窄症などの心血管疾患もあり、aVWSの出血リスクを認識しておく必要がある。
1.ずり応力依存的に切断されるフォンウィルブランド因子(VWF)
VWFは出血時に壊れた血管壁への血小板の粘着と凝集に関わっており、主に一次止血の役割を担っている。また、VWFは凝固第VIII因子(FVIII)のキャリア蛋白であるため、その欠損はFVIIIの活性低下にも繋がる。VWFの多くは血管内皮で形成されるが、巨大なマルチマーとして形成された後、ずり応力依存的に特異的切断酵素ADAMTS13によって切断され、さまざまなサイズとなって血液中を循環している2-4)(図1)。
2.後天性von Willebrand 症候群(aVWS)とは
aVWSは種々の基礎疾患や病態によってVWF活性が低下し、VWDに類似した出血症状を呈する疾患の総称である。産生低下型、インヒビター型、高分子マルチマー吸着型、ずり応力による高分子マルチマー分解型に分類される1)。VWFマルチマーは折り畳まれた状態で循環しているが、高ずり応力がかかることで伸長し切断される5)。
大動脈弁狭窄症(AS)や僧帽弁閉鎖不全症(MR)、肺高血圧症(PH)などでは、弁を通過する際の高ずり応力により高分子マルチマーが分解されることで発症し、植込型左室補助人工心臓(LVAD)や体外式膜型人工肺(ECMO)などの機械的補助循環、人工透析でもaVWSを生じることが報告されている6,7)。しかし、すべてで出血傾向を呈するわけではなく、症状に乏しい症例も多い。一般的なスクリーニング検査であるPTやAPTTなどでは異常値とならない症例もあるため、見逃されている可能性もある。
血液検査のエキスパートレビュー
aVWSの診断では、ウエスタンブロッティングによるVWFマルチマー解析で高分子マルチマーの減少を確認する必要がある。
しかし、一般的な解析は定性評価であり、高分子マルチマーの減少を客観的に数値評価できない。近年、正常コントロールの高分子マルチマー比率を分母とし、患者の高分子マルチマー比率から算出したVWF large multimer INDEX(VWF LMI)が開発され、世界的に用いられてきている8)(図2)。
〔Tamura T, et al : J Atheroscler Thromb, 22 : 1115-1123, 2015を参考に作成〕
aVWSの診断にVWF LMIは有用だが、病院検査室で実施するには敷居が高く、課題も多い。『von Willebrand病診療ガイドライン 2021年版』では、VWF活性が高分子マルチマーの分解をある程度反映することから、VWF活性/VWF抗原量比(VWF%/VWFAg比)0.7以下を診断の参考としている1)。
では、VWDと同じくVWF抗原量も低下するかというと、そうとも言い切れない。VWFは高齢者で高値傾向を示すことが知られており9)、ASやMR、PHなどの心血管疾患は割に高齢者が多いため、高分子マルチマーが分解されてもVWF抗原量は基準値以上で出血症状を示す場合もある。
日常業務において出血傾向からaVWSを拾い上げるキッカケ
出血傾向のスクリーニングには一般的にPTとAPTTが使用されるが、主に凝固カスケードに関連する凝固因子異常を反映する。VWF量の著減があれば、FVIII活性の低下からAPTTが延長することもあるが、aVWSではVWF量が著減することは少ない。出血傾向を認め、PTとAPTTが正常である場合は、両検査に反映されない凝固第XIII因子異常、血小板数減少、血小板機能異常を除外し、aVWSの可能性も考える。
aVWSを拾い上げるためには、その病態の存在を認識し、それを引き起こす可能性がある疾患で出血傾向がみられた場合にVWFの検査を行う。VWF抗原量とVWF活性の値だけではなく、VWF%/VWFAg比の低下にも注意することが重要である。
引用文献
1)日笠聡,他:von Willebrand病の診療ガイドライン 2021年版.日本血栓止血学会誌,32:413-481,2021
2)Ruggeri ZM : Von Willebrand factor, platelets and endothelial cell interactions. J Thromb Haemost, 1 : 1335-1342, 2003
3)Sadler JE : von Willebrand factor: two sides of a coin. J Thromb Haemost, 3 : 1702-1709, 2005
4)Hassan MI, et al : Structure and function of von Willebrand factor. Blood Coagul Fibrinolysis, 23 : 11–22, 2012
5)Crawley JT, et al : Unraveling the scissile bond: how ADAMTS13 recognizes and cleaves von Willebrand factor. Blood, 118 : 3212-3221, 2011
6)Horiuchi H, et al : Acquired von Willebrand syndrome associated with cardiovascular diseases. J Atheroscler Thromb, 26 : 303–314, 2019
7)Fujii Y, et al : Loss of von Willebrand factor large multimers in patients undergoing hemodialysis: a single-center, retrospective study.Thromb Res, 249 : 109316, 2025
8)Tamura T, et al : Unexpectedly high prevalaence of acquired von Willebrand syndrome in patients with severe aortic stenosis as evaluated with a novel large multimer index. J Atheroscler Thromb, 22 : 1115-1123, 2015
9)Konkle BA : Von Willebrand factor and aging. Semin Thromb Hemost, 40 : 640-644, 2014
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