Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 微生物01
令和8年度診療報酬改定が微生物検査室に求めるもの——検査を“行う”から“活かす”へ


令和8年度診療報酬改定とdiagnostic stewardship1, 2)
尿培養陽性が、そのまま尿路感染症診断や抗菌薬投与へ結びついてしまう――。こうした過剰診断・過剰治療の構造は、AMR(薬剤耐性)対策が重視される現在、改めて見直しが求められている。
Goebelらは、尿路感染症診療における抗菌薬適正使用を、right diagnosis、right drug、right dose、right duration、de-escalationのFive Dsという概念で整理している。特に重要なのはright diagnosisであり、尿培養は症候を規定するものではなく、あくまで診断を補助する検査である。したがって、無症候性細菌尿と真の尿路感染症を区別することが不可欠であり、診断の適正化こそが抗菌薬適正使用の出発点となる。さらに同論文では、診断の適正化、すなわちdiagnostic stewardshipの具体策として、分析前(preanalytical)、分析中(analytical)、分析後(postanalytical)の各段階における介入が提示されている(図)。その中でも、尿一般検査の結果を踏まえて尿培養の実施を判断するリフレックス尿培養は、検査室が主体的に関与できる重要な戦略の一つである。
——reflexive(反射的)ではなく、reflective(熟考的)なアプローチの必要性
令和8年度診療報酬改定では、感染対策向上加算1の注3として「微生物学的検査体制加算(30点)」が新設され、微生物検査室を有する医療機関の体制が新たに評価対象となった。本加算は、単なる検査実施ではなく、微生物検査を適切に運用し、診療に結びつける体制整備を評価するものと考えられる。
微生物検査のエキスパートレビュー
1.微生物検査室に求められる検査を“活かす”機能
今回の診療報酬改定の意義は、微生物検査室の「存在」ではなく「機能」が評価対象となった点にある。この機能とは、検査を増やすことではなく、検査を適切に選択・運用し、診断と治療に結びつける能力である。
尿路感染症診療では、尿培養が過剰に実施され、その結果が過剰診断・過剰治療につながる構造が長年指摘されてきた。実際、日常業務において尿培養が陽性となった場合、深く考えずに同定および薬剤感受性試験へと進み、そのまま報告しているケースは少なくないのではないだろうか。しかしながら、尿培養陽性は必ずしも感染症の存在を意味するものではない。無症候性細菌尿を尿路感染症として扱い、治療することは、抗菌薬の不適切使用を助長し、AMR対策の観点からも看過できない問題である。
2.尿培養の適正化とリフレックス検査の意義
この課題に対して、検査室が主体的に介入できる代表的手段がリフレックス検査である。すなわち、尿一般検査における白血球反応、亜硝酸塩反応、尿沈渣所見などをスクリーニングとして用い、一定の基準を満たした場合にのみ尿培養へ進む仕組みである。これにより、臨床的意義の低い培養検査を抑制し、検査資源を真に必要な症例へ集中させることが可能となる。
ただし、リフレックス検査は単なる効率化手段ではない。Five Dsでも強調されているように、リフレックス尿培養は「尿路感染症を疑う症候を有する患者」に適用してこそ有効である。尿一般検査異常のみを根拠に自動的に培養へ進める運用では、無症候性細菌尿の検出を増やし、かえって過剰診断を招く可能性がある。近年のUTI診療アルゴリズムでは、尿混濁や尿臭の変化のみでは尿検査や抗菌薬投与を推奨しない一方、女性の典型的な単純性膀胱炎では症候のみでの経験的治療を許容し、男性症例や耐性菌リスク症例では尿培養(特にリフレックス検査)の重要性が強調されている3)。また、尿定性単独での判断は偽陽性の問題から慎重であるべきとされている3)。したがって、検査室は臨床情報との連携を前提に、尿培養の適応そのものに関与する役割を担う必要がある。
微生物検査室が実践すべき3つのポイント
微生物検査室の現場で実践すべきポイントは3つに整理できる。
第一に、検査適応の明確化である。尿路症状を有する患者に限定して検査を行う原則を、院内で他職種に共有する必要がある。
第二に、リフレックス検査の導入である。尿一般検査をトリガーとして培養検査を選択的に実施することで、不要な検査と過剰診断を抑制できる。
第三に、結果解釈の支援である。培養陽性であっても臨床症状と乖離する場合には、無症候性細菌尿の可能性を含めて報告・コメントを付記し、抗菌薬使用の再考を促すことが重要である。
令和8年度診療報酬改定は、微生物検査室に対し「検査を行う部門」から「診断を支援し、検査を活かす部門」への転換を求めている。検査を増やすことではなく、必要な検査を適切に選択し、過剰診断を防ぎながら臨床に貢献することこそが、これからの微生物検査室に求められる本質的な役割と考える。
引用文献
1)厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部を改正する件」(令和8年厚生労働省告示第69号)
2)Goebel MC, et al : The Five Ds of outpatient antibiotic stewardship for urinary tract infections. Clin Microbiol Rev, 34 : e00003-20, 2021
3)Meddings J, et al : Ann arbor guide to triaging adults with suspected urinary tract infection for in-person and telehealth settings. JAMA Netw Open, 9 : e2556135, 2026
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