Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 輸血02
CAR-T療法後のICANSをどう予測するか——検査値で捉えるバイオマーカーの動態


CAR-T療法後のICANSを検査値から考える
CAR-T(chimeric antigen receptor T-cell)療法は、再発・難治性血液悪性腫瘍に対して長期奏効が期待される革新的な細胞免疫療法であり、国内でもCD19標的製品、およびBCMA(B-cell maturation antigen、B細胞成熟抗原)標的製品が承認されている。BCMAは形質細胞に高発現する膜蛋白質であり、多発性骨髄腫に対するCAR-T療法の主要な標的分子として注目されている。
その一方で、投与後に生じる有害事象として免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome:ICANS)が臨床上の大きな課題となっている。ICANSは投与患者の約25%に発現するとされ、せん妄、失語、意識障害から重篤な脳浮腫まで多彩な神経症状を呈し、Grade 3以上では致死的転帰をとることもある。
本論文は、ICANSの発症機序、予測バイオマーカー、予防的介入の3点を包括的に整理することを目的とした統合レビューである。主要な知見として、投与前(pre-infusion)の臨床検査値や投与後早期のバイオマーカー動態がICANS発症リスクの評価に有用である可能性が示されている1)。
輸血検査のエキスパートレビュー
1.なぜ検査値がICANSの発症予測に役立つ可能性があるのか
ICANSの病態は、CAR-T細胞の急速な増殖と活性化に伴うサイトカインストームによる血管内皮傷害と血液脳関門(BBB)の破綻にある。本論文では、この過程を図1の4段階として整理している。
臨床検査値の変化はICANSの臨床症状が顕在化するよりも前に、病態の進行を示す客観的シグナルとして捉えることができる。
2.時系列でバイオマーカーを捉える概念「Temporal Biomarker Atlas」
本論文の特徴の一つは、ICANSに関連するバイオマーカーを「投与前」「投与後早期」「診断期」の時系列(Temporal Biomarker Atlas)として整理し、病態進行に応じた臨床的意義を体系的に示している点である。従来は、神経症状が出現してから対応する「事後的管理」が主流であったが、本論文はバイオマーカーを時系列で活用することにより、症状出現後の対応だけでなく、症状発現前からリスクを評価し、予防的介入の可能性を検討するという新たな視点を提示している。
3.各バイオマーカーの解釈と臨床的位置づけ
各バイオマーカーの意義を臨床検査技師の視点から整理したものを表1に示す。
| バイオマーカー | 検体 | 予測フェーズ | ICANS予測における意義 | 測定環境 |
| CRP (C反応性蛋白) |
血漿 | 投与前 | 投与前高値がICANSリスクとの関連を示した報告あり。 | 通常検査室 免疫比濁法 |
| フェリチン | 血漿 | 投与前〜早期 | 投与前高値が毒性・予後不良と相関。複数のコホート研究でICANSや重症毒性との関連が報告されている。 | 通常検査室 免疫比濁法 |
| LDH (乳酸脱水素酵素) |
血漿 | 投与前〜経過 | 腫瘍量・細胞傷害の代替指標。 | 通常検査室 比色法 |
| クレアチニン | 血漿 | 投与前 | 腎機能・内皮機能の間接指標。 | 通常検査室 酵素法 |
| 血小板数 | 血漿 | 投与前〜経過 | 内皮傷害・消費性変化の指標。 | 通常検査室 CBC |
| IL-6 | 血漿 |
早期 |
上昇速度・ピーク値がICANSの重症度と関連を示す代表的サイトカインの一つ。 | 電気化学発光法 (施設依存) |
| Angiopoietin-2 (Ang-2) |
血漿 | 投与前〜早期 | 血管内皮活性化・機能障害を反映する代表的マーカー。 | ELISA法 (専門施設) |
| von Willebrand因子 (vWF) |
血漿 | 投与前〜早期 | 血管内皮活性化・障害を反映するマーカー。 | 凝固検査室 免疫比濁法 |
〔Aziz F, et al : Front Neurol, 17 : 1739021, 2026をもとに筆者作成〕
4.バイオマーカーの限界と解釈上の注意点
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また、測定上の注意点として、CAR-T投与後はフェリチンが極めて高値に達することがあり、一部の免疫測定系ではフックエフェクト(高用量プロゾーン効果)により偽低値を示す場合があることを認識しておく必要がある(具体的な対応については、次項の「測定上の注意」を参照)。
検査値の経時的変化をICANSの発症予測に活かす
本論文が示すTemporal Biomarker Atlasの概念に基づけば、CAR-T投与前の時点がリスク評価の最初の「介入ポイント」となる。リンパ球除去化学療法前に、CRP、フェリチン、LDH、血小板数を測定し、ベースライン値として記録・保存することが出発点である。特にCRPおよびフェリチンの高値例は、投与後のICANS発症リスクが高い群として担当医・薬剤師と共有することで、モニタリング強化や早期介入の準備につなげることができる。
投与後早期のサイトカインおよび血管内皮マーカーの経時的変化は、ICANSリスク評価に有用な情報を提供する可能性がある。この「動的予測期」において特に重要なのが、IL-6、IL-1、GM-CSFなどのサイトカイン動態を経時的に評価することである。
また、血管内皮傷害マーカーもリスク予測に重要な情報を加える。▽Ang-2の高値、▽Ang-2/Ang-1比の上昇、▽可溶性トロンボモジュリンの増加——はいずれも内皮ストレスと微小血管の不安定化を反映し、BBB破綻のリスクを示す指標として位置づけられている。
なお、凝固系(PT、APTT、フィブリノゲン、D-ダイマー)の変化は血管内皮傷害の進行を反映するとされており、凝固検査との連動も有用である2,3)。
■ 測定上の注意
フックエフェクトとは、抗原(この場合フェリチン)が過剰に存在する場合に、サンドイッチ法の一部の測定系で抗体が飽和・ブロックされ、見かけ上の低値を示す現象である。CAR-T投与後にフェリチンが極めて高値、例えば数万ng/mL以上に達した場合には、このリスクが高まり、臨床側が値の急激な低下をICANSの改善と誤判断する恐れがある4)。
臨床検査技師として、以下の対応を事前に整備しておくことが重要である。
- 自施設の測定系におけるフックエフェクト発現上限値を製品仕様書またはメーカーへの確認で把握し、院内で共有する
- 前値からの急激な低下を認めた場合は希釈再測定を実施し、希釈直線性を確認する(10倍・100倍希釈の結果が一致するか)
- 報告書に「超高値のため希釈確認実施」などのコメントを付記し、臨床への情報提供を徹底する
- CAR-T療法担当の病棟やチームへの事前周知により、臨床側とも認識を共有しておく
CAR-T療法については、血液悪性腫瘍に加え、固形腫瘍や自己免疫疾患を対象とした臨床試験が進展しており、適応疾患が変わればモニタリングのプロトコルも変化する可能性がある。臨床検査技師として、文献情報の継続的なアップデートと自施設の測定環境の整備が求められる局面が増えていくであろう。
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