キャリア・学び

きらり臨床検査技師 [第33回]黒川 真悟さん(岡山市立市民病院臨床検査技術科)
心不全診療に臨床検査技師の力を——療養指導士として地域へ活動広げる

2026.09.16 06:00 会員限定記事を示すアイコン



岡山市立市民病院臨床検査技術科の臨床検査技師、黒川真悟さんは、心不全患者の療養を多職種で支える「心不全療養指導士」の資格を取得し、院内外で活動の幅を広げている。心不全療養指導士は2021年に日本循環器学会が創設した資格で、看護師や薬剤師、理学療法士など幅広い医療職が参加する一方、臨床検査技師の取得者は非常に少ないのが実情だ。そうした中で黒川さんは、心エコーなどで培った専門性を生かしながら、心不全に関する多職種連携や地域の勉強会に積極的に参加。療養指導への直接参画を見据え、臨床検査技師の新たな可能性を模索している。


 

資格をきっかけに多職種の輪へ

―心不全療養指導士の資格を取得されたきっかけは何ですか。

主に生理検査を担当し、心エコーなど循環器領域の検査に携わる中で、心不全治療の重要性は臨床検査技師としても感じていました。当院には心不全センターがあり、病院を挙げて心不全療養指導士の資格取得を推進しています。私自身も臨床検査技師として院内の心不全の「早期発見チーム」に参加していますが、日常診療や勉強会で多職種との連携を深める中で、臨床検査技師が積極的に関わっていく上でも、資格取得が一つのきっかけになると考えました。

院内の心不全早期発見チーム会議(中央が黒川氏)
院内の心不全早期発見チーム会議(中央が黒川氏)


―資格創設の背景には、心不全患者の急増で医療費の増大など「心不全パンデミック」が懸念されていることもあるようですね。

心不全は慢性疾患です。適切な管理が行われないと入院を繰り返すことが多く、患者さんのQOL低下や医療経済への負担増大を招く危険があります。

心不全療養指導士は、看護師や理学療法士など、さまざまな職種が同じ資格を持って活動できるところに大きな意味があると思っています。「臨床検査技師は臨床検査技師、看護師は看護師」というのではなく、心不全療養指導士という一つのコミュニティーの中で、多職種が一緒になって患者さんを支えていくことができます。

そういう場所に臨床検査技師も積極的に出ていかなければ、職域は広がりません。臨床検査技師の受験には循環器学会専門医の推薦が必要なので、相談できる環境があったことも大きいのですが、専門医の推薦をいただいて受験し、2025年に資格を取得しました。

 

勉強会で専門性を発揮

―実際、どのような活動をされているのですか。

療養指導の実践はまだこれからですが、院内活動と院外での勉強会を継続して行っています。院内の勉強会では心不全療養指導士が中心的な役割を担っています。

院内の心不全勉強会は職員を対象に定期的に実施しているもので、心不全療養指導士が中心となって講師を務め、心不全療養のレベルアップを図っています。また、心不全療養指導士取得を目指す職員向けに、試験対策講座も実施しています。

看護師やリハビリ職は意外と検査を学ぶ機会が少なく、検査データの解釈や心電図判読などを苦手とする人が多いので、検査の講義は好評です。講師としても臨床検査技師としての専門性を生かせていると感じています。

 

多職種連携が可能性を広げる

―院外では地域で活動されていますね。

2024年10月に発足した「みんなでつくるみんなのための心疾患勉強会」に企画段階から参画し、運営と講師の両面で携わっています。岡山県内の医療従事者が中心となって立ち上げた多職種の勉強会で、月1回、オンラインで勉強会を開催しています。

内容は専門医の講義の後、他の医療職も講師となって心疾患について勉強します。累計参加者は4000人を超え、私を含めた臨床検査技師も講師として、心電図や超音波検査(心臓・血管)などについて講義しています。

参加者は看護師やリハビリ職が多く、臨床検査技師の専門知識を他職種に直接還元できる場になっています。一方、臨床検査技師の参加も一定程度あり、技師自身の学習意欲の高まりも感じます。

他職種と学び合うことで、検査室にいるだけでは気付かなかった視点を得ることができます。臨床検査技師の仕事や専門性を知ってもらえる一方、私たちも他職種について理解を深められます。同じテーマでも演者が異なれば違った視点がありますし、そうした学びの繰り返しと蓄積が大切だと感じています。

誰でも無料で参加できますので、興味を持たれた方はぜひ一度参加してみてください。

第90回日本循環器学会学術集会(岡山県内の循環器内科医と心不全療養指導士で記念撮影)
第90回日本循環器学会学術集会(岡山県内の循環器内科医と心不全療養指導士で記念撮影)

 

―国も心不全管理の重要性を認め、2026年度の診療報酬改定では、心不全の療養指導に関して「心不全再入院予防継続管理料」が新設されました。これから心不全の療養指導に力を入れる施設が増えそうですね。

算定要件を見ると、心不全療養指導士の資格は直接必要ありませんが、多職種による心不全の再入院予防の取り組みを行った場合の評価ですので、心不全療養指導士としての活躍の場も広がると思います。

せっかく資格ができたのですから、臨床検査技師も動かないと取り残されます。心不全療養指導士の認定者は9000人を超えていますが、そのうち臨床検査技師はわずか三十数人です。

心不全の包括的ケアにチーム医療は必須の時代です。心不全療養指導士の取得はチーム医療に加わるきっかけになると思いますので、一人でも多くの臨床検査技師が資格を取得して将来、療養指導に加われるようになることを願っています。

―心不全領域でも臨床検査技師の活躍が期待されますね。今後の展望を教えてください。

院内外の活動を継続し、多職種との信頼関係をさらに深化させていきたいと考えています。その上で、そうした信頼関係を基盤に、心不全の療養指導にも直接参画することを目指しています。

臨床検査技師の専門性を患者さんに直接還元できることは、きっとあるはずです。なにより、心不全診療では再入院を防ぐことが重要です。そのためには、病院の中だけでなく、退院後も含めて地域全体で患者さんを支える必要があります。

これからも院内活動と地域の両面で、多職種連携の輪を広げていきたいと思います。

 

「がむしゃらさ」が未来を開く

―ご自身の経験を踏まえ、次代を担う若手技師にメッセージをお願いします。

私自身も若い頃、なかなか技術が身に付かず、歯がゆく感じた時期がありました。しかし、学びつづけることで技術を習得し、自分の手に残るものが増えていきました。だからこそ今があると感じています。

もちろんそれは先輩や周りのスタッフの支えがあってこそですが、なにより、自分自身に負荷をかけ、挑戦する強い意志が必要です。

いまの若手はスマートになんでもできる人が多いように感じますが、現状に満足せず、がむしゃらに、いろいろなことにチャレンジしてほしいですね。

そうでないと、もったいない。医療も変化し、臨床検査技師は検査だけという時代ではなくなっていますし、これからは一人の患者さんにさまざまな職種が関わる機会が増えていくでしょう。

そういう意味からも、失敗を恐れず、いろんなことに自分から飛び込んでいってほしい。きっと自分の手に残るものがあるはずです。

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