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Up to Date! 臨床検査エキスパートレビュー # 病理・細胞06
AI時代の病理診断を支えるのは誰か——2030年問題とデジタルパソロジー

2026.06.12 06:00 会員限定記事を示すアイコン

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統計データでみる病理医不足の現実

診断の最終確定を担う病理診断。その中心にいる病理医は「Doctor of Doctors」とも呼ばれ、あらゆる診療科の診断基盤を支えている。しかし現在、日本では病理医不足が深刻化し、「病理医がいないため診断が遅れる」という事態が地方を中心に現実化しつつある(図1)。

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図1 統計データでみる病理医不足の現実
〔厚生労働省:令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2025/日本病理学会:病理専門医一覧(https://pathology.or.jp/senmoni/board-certified.html)を参考に作成〕

『令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計』によると、主たる診療科を「病理診断科」とする医師は2,249名にとどまり、全医師数に占める割合は約0.7%に過ぎない1)。さらに2021年時点では、常勤病理医が勤務する病院のうち、約35%にあたる345病院が常勤病理医1名のみの“1人病理医病院”であり、400床以上の急性期病院においても、常勤病理医が不在で、非常勤病理医が病理診断を担っている病院が224施設存在している2)

加えて問題となるのが、病理医の地域偏在だ。病理医は都市部へ集中する傾向が強く、日本病理学会の公表資料によると3)、東京都には全国の病理専門医の約18%が集積している。一方、地方では病理医が常勤していない病院も少なくなく、地域によって病理診断体制に大きな格差が生じている。

 

病理・細胞検査のエキスパートレビュー

1.2030年問題——病理診断需要の増加が懸念

今後さらに懸念されるのが、超高齢社会による病理診断需要の増加だ(図2)。

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図2 2030年問題——病理診断需要の増加が懸念
〔厚生労働省:令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2025/がん情報サービス:年次推移(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html)を参考に作成〕

日本では現在、毎年およそ100万人が新たにがんと診断されている4)。単純計算では、病理医1人あたり年間300〜400例規模の新規がん症例に関与している計算となる。さらに、団塊の世代が80歳代後半へ到達する2030年前後にかけてがん診療の需要は一層増加すると考えられ、それに伴い病理診断需要の増加も懸念される。

一方で、病理医数が急増する兆しは乏しい。この背景には、病理診断が高度な専門性を要するものの、診療報酬上は十分評価されにくいという構造的な問題もある。

 

2.注目されるデジタルパソロジーと遠隔病理診断

病理医が不足する一方で、がん患者数や病理診断件数は年々増加しており、病理医1人あたりの業務負担はさらに大きくなっている。こうした状況の中、急速に注目を集めているのが、デジタルパソロジーである。

病理標本をWSI(whole slide image)としてデジタル化することで、病理医は物理的にガラス標本を受け取らなくても、遠隔地から診断を行えるようになる。病理医不在の地域と専門施設を結ぶ「遠隔病理診断」は、地域医療格差の解消策としても期待されている。

特に地方では「病理医がいないため診断が遅れる」という問題が現実化しつつあり、デジタルパソロジーは単なる業務効率化のツールではなく、“診断体制そのものを維持するための基盤技術”として位置づけられつつある。

 

3.AIは病理医不足を補えるのか?

近年はAI画像解析技術の進歩も著しい。腫瘍マーカー評価では、AIアルゴリズムを活用した解析システムが海外で実用化され始めていることが報告されている5)。異常細胞の検出、細胞カウント、領域抽出などをAIが支援することで病理医の負担軽減や診断補助への期待が高まっており、世界のデジタル病理市場も2031年に32億ドルを超えると予測されている6)

ただし、現時点でAI単独で病理診断を完結できるレベルには到達していない。病理診断では、臨床情報、標本全体の構造、炎症や壊死の背景、アーチファクトの影響など、多層的な情報を総合して判断する必要がある。AIは強力な支援ツールになりうる一方、診断責任は依然として病理医が担う。むしろ重要なのは、「限られた病理医資源をどう支えるか」という視点であり、AIは病理医不足時代における“診断支援インフラ”としての役割が期待されている。

一方、日本では病理診断支援AI(病理AI)の本格普及には、なお多くの課題が残されている。病理AIを実臨床で利用するには、薬機法上の承認や保険収載など制度面の整備が必要となる7)。放射線AIや内視鏡AIと比較すると、病理AIは実装段階がまだ限定的であり、導入施設数も十分とはいえない。

また、WSI導入には高額なスキャナー、画像サーバー、通信環境、運用体制整備などが必要となるため、施設間格差も生じやすい。技術そのものだけでなく、制度、コスト、人材育成、運用体制を含めた“社会実装”が今後の大きな課題となる。

 

AI時代に再認識される「病理技術」の価値

AIやデジタル病理への期待が高まる一方で、その土台となるのは日常の標本作製技術である。病理AIは、入力される画像品質に大きく依存する。固定、切り出し、薄切、染色といった工程の精度が不安定であれば、AI解析やデジタル診断の精度も低下する。

「AIに仕事を奪われる」という不安の声もあるが、実際には検査技師の技術なくしてAIは機能しない。AI時代における検査技師の役割は、縮小するどころか、むしろ重みを増していく8)。つまり、デジタル化が進む時代だからこそ、検査技師や細胞検査士が担う病理技術の重要性は、むしろ増していく。

AI時代の病理診断を支えるのは、テクノロジーだけではない。最終的に診断品質を支えるのは、現場で積み重ねられる「人の技術」である。



引用文献

1)厚生労働省:令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2025

2)日本病理学会:国民のためのよりよい病理診断に向けた行動指針2025(https://pathology.or.jp/jigyou/guideline2025-20250422.pdf)

3)日本病理学会:病理専門医一覧(https://pathology.or.jp/senmoni/board-certified.html)

4)がん情報サービス:年次推移(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html)

5)前田一郎:デジタルパソロジーとデジタルサイトロジー、病理機械学習、病理人工知能;現代病理学におけるデジタル技術の応用.内分泌外会誌,41:152-156,2024

6)Mordor Intelligence:デジタル病理市場規模・シェア分析;成長動向と予測(2026年~2031年)(https://www.mordorintelligence.com/industry-reports/digital-pathology-market)

7)日本病理学会:病理診断支援AIの手引き(初版改訂版).2023

8)柳田絵美衣,他:デジタル病理は“使える時代”へ——学会の手引きと標本品質で整理する.MTJ ONE 2026年2月13日

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共著|濱田 誠(群馬パース大学医療技術学部検査技術学科)