キャリア・学び

Voice of Lab. file 09 松井 建二郎(藤田医科大学病院臨床検査部微生物遺伝子検査室
感染症の診断支援(DS)と抗菌薬適正使用支援(AS)、そして研究へ

2026.07.31 06:00 会員限定記事を示すアイコン



私は入職以来7年間、微生物検査に従事してきました。微生物検査室での日常業務を出発点に、感染症診療の質向上を目指して、診断支援(diagnostic stewardship:DS)と抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship:AS)に取り組んでいます。検査結果を単に「報告する」のではなく、臨床現場でより有効に活用される情報として届けるため、検査プロセスの改善や多職種との連携、さらに研究活動へと取り組みを広げています。


 

私、こんなことしてます!

1.診断支援(DS)の質を高める検査プロセスの改善

DSとは、検査前~検査後までのすべてのプロセスにおいて、より良い感染症診療を実現するために、検査室が主体となって行う取り組みを指します。

業務を一通り習得し、研修会や学会などで外の世界を見るようになると、自施設での独自ルールや標準化されていない検査の運用があることに気づくようになりました。なかでも「検査プロセス」は、自分の働きかけで改善できる余地が大きいと感じ、注力してきました。特に大きな改善につながったのが、グラム染色の迅速報告と釣菌基準の見直しです。

藤田医科大学病院(以下、当院)では以前、グラム染色結果を培養検査の最終結果が出るまで臨床へ報告しない運用になっていました。しかし、グラム染色は感染症診療上、非常に有用な検査であり、その結果を迅速に報告しないことは臨床にとって不利益であると考えていました。そこでまず、結果を報告する上で何よりも正確であることが重要と考え、基礎的な判読力を養うことを目標にしました。勉強会や新規配属者への研修を継続的に実施し、数年かけて準備を行った結果、2025年度より当日中の結果報告を達成することができました。

また、微生物検査では、菌種と疾患の関連性に基づいて検査の実施範囲を定めた「釣菌基準」が設定されています。これにより、技師間のばらつきを抑え、一定水準以上の結果報告を可能にしています。近年は質量分析装置の導入により、さまざまな菌種の同定が可能となり、新たな病原性との関連についても知見が更新されています。しかし、当院では長年にわたり同じ釣菌基準が用いられていたため、最新の知見に基づいた基準へ見直す必要性を感じていました。そこで2025年度より情報収集や関連診療科との協議を重ね、2026年度から新たな基準への改訂が実施されました。

 

2.検査結果を抗菌薬適正使用(AS)につなげる

ASでは、抗菌薬治療の効果を最大限に高めると同時に、薬剤耐性菌の出現を防ぐことを目的として活動をしています。薬剤耐性菌による感染症の死者数は、2050年には悪性新生物の死者数を上回ると予測されており、世界的にも大きな課題となっています(図1)。

図1 死因別の年間死者数の推計
図1 死因別 年間死者数の推計
〔GBD 2021 Antimicrobial Resistance Collaborators : Lancet, 404 : 1199-1226, 2024 /O‘Neill J :  Review on Antimicrobial Resistance, Tackling Drug-resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. 2016を参考に作成〕

AS業務では、日常検査で得られる情報をさらに応用して臨床へ還元することが求められます。単なる結果報告にとどまらず、推定される菌種やその耐性率、検出された菌の耐性機序の推定など、踏み込んだ報告が求められます。そのため、日常検査では深く関わる機会の少なかった患者情報、例えば診療経過や他の検査結果、生活背景なども確認するようになり、患者全体の状況を踏まえて検査結果を捉える視点を身につけることができたと感じています。

 

3.臨床業務から研究への広がり

DS・ASと並行して、研究にも取り組むようになりました。きっかけは、本学医学部微生物学講座の鈴木匡弘先生と、元・感染症科の櫻井亜樹先生(現・国立国際医療センター)から、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のPOT法を実施してみませんか?」と声をかけていただいたことでした。

POT法とは、菌株間の遺伝子を比較することによってアウトブレイクの特定を可能にする分子疫学的解析手法です(図2)。この研究を通してPCRの基礎技術を習得するとともに、遺伝子学的背景といったミクロな視点と、患者間での伝搬といったマクロな視点の両方を持つことができました。現在は病院の排水から検出される薬剤耐性菌についてのサーベイランスを行っていますが、間違いなくこのときの経験が生かされていると実感しています。

図2 POT法を用いた菌株解析
図2 POT法を用いた菌株解析

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