きらり臨床検査技師 [第29回]飯ヶ谷 奈央子さん(かしま病院 医療技術部臨床検査科 担当科長)
病棟常駐10年で築いた“院内他職種との関係づくり”

2026年度診療報酬改定で、臨床検査技師や看護師を柔軟に病棟配置できる加算が新設され、病棟業務を担う検査技師も今後増えることが見込まれる。タスクシフト・シェアを追い風に活躍の場が広がる一方で、多くの検査技師が感じているのは、検査室から離れることや、他職種と関わることへの不安や戸惑いだ。
福島県いわき市のかしま病院の飯ヶ谷奈央子さんが、病棟常駐の検査技師としての一歩を踏み出したのは2005年。働き方改革やタスクシフト・シェアという言葉すらなかった時代に、クラーク業務からスタートし、試行錯誤の10年間で、病棟での検査技師の役割を見いだしてきた。
看護師や医師の近くで積んだ経験から、何を得たのか。検査技師の病棟業務の可能性について、具体的な経験を基に語ってもらった。
―地域に根付いた病院の臨床検査科担当科長として忙しい日々を過ごされています。多くの職種がある中で、臨床検査技師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
親戚に医師がいたこともあり医療職を身近に感じ、何となく憧れてはいましたが、臨床検査技師という職種を最初から目指していたわけではないです。看護師も含め、医療分野の仕事を調べる中で検査技師という職種を知りました。当時は業務内容を深く理解していたわけではなく「白衣を着て働く姿がかっこいいな」というような、かなり漠然とした理由だったと思います。
高校を卒業し、地元のいわき市を離れ、東京都内の検査技師の養成学校に進みました。卒業後には都内の大学病院に入職し、輸血部門の検査技師として最初の一歩を踏み出しました。
クラークとしての病棟配置に
―今から20年以上前、病棟に常駐する検査技師はかなり珍しかったと思います。検査技師として病棟業務を担当することになった経緯を教えてください。
大学病院に入職して数年後に結婚し、いわき市に戻り、検査センターに入社しました。縁あって当時、ブランチラボを採用していた、かしま病院で約1年お世話になりました。産休に伴う補助職員でしたので、その方が復帰されて病院を離れるはずだったのですが、当時の技師長にお声掛けを頂けて。いろいろなことに興味のあるバイタリティーのある技師長で、「病棟に検査技師を配置したい」という思いを持っておられ、そのタイミングで入職した私に、役割が与えられた形でした。
ただ、病棟から検査技師が求められていたわけではなく、実際には看護部長の意向もあり、病棟クラークとして、外科を中心とした急性期病棟に配属されることになりました。2005年から看護部所属のクラーク兼、検査技師として、看護師のサポート業務から始まりました。
信頼は現場での積み重ねから
―看護師らを中心とする病棟での業務は、検査室業務とは大きく異なると思いますが、どのようになじんでいったのでしょうか。
今振り返ると看護部の方々も、検査技師がクラークとして常駐することに戸惑っていたように思います。私に「何を頼めるのか」「いつまでいるのか」のような雰囲気もやはりあって、仕事を取られるのではないかと思われていると感じたこともあります。私自身も「ここで何ができるんだろうか」「検査技師としてここにいる意味はあるのか」などと悩んだことも当然ありました。
今は検査技師が病棟で担う業務は、ある程度整理されてきているのではないかと思いますが、当時は書類整理や電話対応などの事務作業が中心でした。徐々に褥瘡処置の補助やナースコール対応、配膳、寝具交換など、できることを少しずつ手伝うようになりました。
看護業務を知らないからこそ、出しゃばらず、自分にできることから関わり、流れを見て学ぶことを意識しました。物品の棚卸しを通して器具の名前や用途を覚え、処置に必要な物品を先回りして準備するなど、少しずつ関わり方を広げていきました。やがて「手伝ってくれると助かる」と声をかけてもらえるようになって。その頃、クラーク担当が別に配置され、検査技師として採血や検査を担うようになり、病棟に常駐する意義を少しずつ出せるようになりました。病棟内での顔見知りも増え、「この場所で必要とされている」ということを、私自身がしっかり感じるようになったのを覚えています。
現場が見えるようになった経験
―今は検査部門の管理職として活躍されていますが、病棟での経験は、今の業務にどのように生きていますか。
ベッドサイドで患者に向き合う看護師や、医師らの近くで積んだ経験は、今の自分の強みになっています。例えば私自身、輸血部門でキャリアが始まりましたが、検査室では血液製剤の払い出しまでで終わってしまいがちですが、病棟にいるとその後の流れが見えます。実際にどのような段取りで輸血が行われ、どこに注意が払われているのかを実感として理解できるようになりました。トラブルが起きた際にも、「今、現場はこういう状況だろう」とイメージできるようになりました。
パニック値の対応についても見方が変わりました。検査技師からすれば、パニック値だからすぐ報告するわけですが、病棟にいる医師や看護師からすれば、「この患者さんは、パニック値が出てもおかしくない状態ですよ」というパニック値もあるわけですよね。同じパニック値の検査データであっても、臨床側は患者状態も考えながら緊急度を判断しているわけで、そうした感覚が理解できるようになりました。
また、当時は必死でしたが、病棟にいる看護師や医師だけでなく、リハビリ職や栄養士などの業務を身近に見て、顔見知りが増えたことも大きいと思っています。管理職になると、院内の他部署とやりとりする機会がどうしても増えるので、他職種との顔の見える関係はとても役立っています。院内に知り合いが多いということは、職種間の垣根の低さや、多職種連携のしやすさにつながることも実感しています。
病棟と検査科をつなぐ仕組みづくり
―かしま病院の検査技師は現在、病棟でどのような役割を果たしているのでしょうか。病棟以外でも検査室外で活躍されているのでしょうか。
病院の医療機能が少し変化したこともあり、現在は病棟に常駐している検査技師はいないです。ただ、今までお話してきた通り、病棟業務でのさまざまな経験が検査室業務にも役立つことは私自身が強く感じているので、常駐でなくても病棟業務に関与できる体制は整えています。
具体的には検体部門の検査技師1人が毎日午後に病棟に出向いているほか、検体検査や生理検査、病理・細胞検査の3部門から1人ずつ、3人がセットで病棟の物品管理や、POCTの精度管理などを担う「病棟担当制」を運用しています。彼らは病棟の看護部ミーティングで、それぞれが検査部からの情報共有が必要な事項などを伝えるようにしています。看護部で発言することで、病棟担当としての責任感に繋がっているのではないかと思っています。
ナースステーションへの出入りに抵抗感のある検査技師も少なくはないと思いますが、やはり病棟、現場に出入りする機会を増やして、顔と名前を覚えてもらうことの大事さを伝えています。
「まずはやってみる」、検査室の外で広がる可能性
―加算の新設によって、検査技師を病棟配置する病院も出てくるように思いますが、そういった機会が増える検査部門、検査技師の皆さんにメッセージをお願いします。
制度的な後押しはありますが、運用に当たっては病院上層部の考え方も、病棟からのニーズもさまざまで、求められなければ動けない部分もあります。だからこそ、何らかの依頼があった時に対応できるよう、検査部門、検査技師として準備しておくことが大事になると思います。
以前、看護部にお願いして、病棟で検査技師に担ってほしい業務についてアンケートをさせていただいたことがあります。結果を見ると、医療安全関連業務や検査関係の勉強会を開いてほしいなど、自分たちが想定していたニーズとは違うものもありました。検査技師にお願いしたい業務をいろいろと聞き取ることも、検査室外のニーズを拾い上げるきっかけになると思います。
20~30歳代くらいの検査技師に、病棟業務への興味を聞くと、「他職種とうまくやれるのかが心配」「何をしていいか分からず、役に立てるか不安」などの声が出てきます。ただ、私自身が思うのは、検査室だけでキャリアを積み重ねるとどうしても固定概念ができてしまう。そうなる前に、短期間でもいいので検査室外での業務を経験してみてほしいという思いがあります。病棟に限らず、救急でも在宅でもいい。一度は検査室を飛び出してやってみてほしい。謙虚な姿勢で明るくコミュニケーションを取りながら、失敗しながらも業務をこなしていくことで仲間として認めてもらえることは伝えたいです。
検査部門の幹部の方々も、これからの若い検査技師の可能性を考えた時に、検査室外での業務も含めさまざまな経験をさせるために動いていく姿勢が求められていると思います。AI技術で検査業務の効率化は進んでいきますし、追い風が吹いているタイミングで、検査室外でも必要とされる検査技師を育てていく環境づくりを意識してほしいですね。
検査室外での業務経験を積んで、検査部門に戻れば、今までやってきた業務や景色が違って見える部分がきっとあると思います。以前よりも物事を広い視点で捉えることができるようになると言えば良いでしょうか。
そして、検査室外で生まれた他職種との関わりは自身の大きな財産になります。さまざまな場所で、多様な経験を積んだ検査技師がどんどん増えていけば、今以上に存在感を発揮できる医療職になると思います。医療現場で求められているチーム医療に不可欠な職種として、一般社会の認知度を高めることにもつながってくるのではないかと思っています。

病院全体のアットホームな雰囲気もあるのだろうが、それ以上に強く感じたのは、日々の積み重ねから生まれた「顔の見える関係」の力だった。互いを知っているからこそ、やりとりに迷いがなく、連携が自然に図られているのだろう。
病棟に違和感なく溶け込み、足早に病棟を行き来する飯ヶ谷さんの姿は、まさに“きらり”と輝いていた。
検査室の外に出ることに不安を感じる臨床検査技師も多い中で、その一歩先にどのような景色があるのか。その答えの一端を、確かに見せてもらった取材だった。(水)
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