変わり続ける検査の現場 #35 京都桂病院
検査室を飛び出し救急の現場へ 段階的参画で広がる検査技師の役割

京都桂病院(京都市、551床)検査科は、臨床検査技師を救急外来に派遣し、心電図や超音波検査、採血、静脈路確保、検体採取・搬送などを担っている。認定救急検査技師の横山健輔氏の提案をきっかけに2023年7月、週1回の活動からスタート。救急医や看護師などと連携しながら段階的に業務を広げ、若手検査技師の育成にもつなげてきた。検査室の外へ活動の場を広げることで、タスクシフト・シェアにとどまらない職種間の相互理解と、新たな専門性の確立を目指している。
京都桂病院は、桂川以西では数少ない大規模総合病院として、京都市西部・乙訓・京都中部エリアにわたる地域医療を担っている。近年は救急医療にも注力。現副院長・救急科部長の寺坂勇亮氏が赴任した2015年に救急科を立ち上げ、2023年1月には新救急集中治療病棟が稼働を開始した。救急医は現在15人体制となり、救急車の受け入れ台数は年間約2500台から大幅に増加。直近では年間約7400台を受け入れるなど、京都市内でもトップクラスの救急病院となっている。
小山賢科長が率いる検査科の臨床検査技師は56人(非常勤含む)。生理検査部門に約20人、その他は検体検査部門などに配属されている。
参画から生まれるニーズ
救急医療への需要が高まる中、検査科が取り組んできたのが、救急外来への臨床検査技師の派遣だ。活動の中心となった横山氏は、生理検査部門で心エコーなどを担当し、救急医療に関心を持っていた。認定救急検査技師の資格を取得した2023年に救急派遣を提案。小山氏も理解を示し、寺坂氏も「一緒に可能性を広げれば病院のアピールにもなる」と快諾した。
ただ、検査科内には当初、人員を救急に出すことに慎重な意見もあった。小山氏は「検査室は内にこもりがち。外へ出てさまざまな職種と交流することは、臨床検査技師にとってプラスになる」と考え、まずは無理のない範囲から始めることを決めた。
2023年7月、週1回午後2時から5時半まで、横山氏1人を派遣する形で活動を開始。この時間帯は救急外来に入り、救急車の受け入れを知らせるホットラインが鳴る段階から、医師や看護師と共に患者対応に加わった。
当初の課題は、救急側が臨床検査技師に何ができるのかを十分に把握していなかったことだった。それは横山氏も同様で、どの業務を担えばよいのか手探り状態でスタート。まず自身の専門性を生かせる超音波検査を強みに、心電図、採血、静脈路確保と少しずつ業務を広げていった。
静脈路確保については、日本臨床衛生検査技師会のタスクシフト・シェアに関する講習を受けた上で、救急外来の看護師から実地指導を受けた。横山氏は、短時間の講習だけでは実際の患者への対応を身に付けるのは難しく、現場で経験を積む必要があったと振り返る。
検査科では、横山氏による週1回の派遣を約1年間続けた後、検体検査部門に所属する経験3~4年程度の若手技師を加え、4人体制へと拡大した。新たに参加した検査技師は、超音波検査や心電図の経験がなかった。まず救急外来の見学から始め、心電図も訓練し、それぞれの習熟度に応じて業務を分担した。派遣日も月・水・金曜日の週3日に増やし、ローテーションを組んで午後の時間帯に1人ずつ配置する運用とした。
相互理解で「顔の見える」関係に
検査技師の救急外来での活動は、医師や看護師にも変化をもたらした。寺坂氏は「横山さんがエコーをできるのはみんな知っていたので、現場へのアピールとして分かりやすく入ってもらえた。研修医への指導など、われわれにとっても大きなメリットがあった」と振り返る。今ではICUベッドサイドのエコーラウンドにも携わっており、「救急のエコーの質も向上した」と評価する。
こうした変化は、救急派遣後の院内アンケート(対象は看護師、救急救命士)にも表れた。看護師からは心電図や鼻咽頭検体採取、シリンジ採血の検体分注などの業務について高い満足度が示され、「今の業務で十分助かっている」との回答が多かった。
寺坂氏は「私自身も、最初は検査技師がどこまで業務できる職種なのか理解していなかった」と率直に語る。一方で、検査技師も救急外来やICUで何が起きているのかを知る機会は少ない。「実際に一緒に働くことで、お互いの仕事が見えるようになった。検査技師は患者さんをより身近に感じられるようになり、医師側も検査技師の専門性を理解できるようになった。『顔の見える関係』ができたことが一番大きい」と強調する。
横山氏は「実際に救急外来に行って、検査技師ができることを示せば、『ぜひお願いしたい』と需要が生まれることを実感している。参画しないと需要は生まれない」と話す。院内アンケートでは「検査技師ができる業務がよく分からない」という指摘もあったため、具体的に「医師の指示なしでできる業務」「医師の指示の下、できる業務」「教育を受ければ実施可能な業務」を整理して救急スタッフと共有し、さらなる役割の拡大につなげている。
現在、検査技師は救急外来で超音波検査、心電図検査、採血、静脈路確保、検体採取・搬送などを担っている。小山氏は「ほとんどの救急患者は点滴や採血、心電図が必要になる。それらを検査技師が担当することで、医師や看護師は他の業務に専念できる。タスクシフト・シェアの効果を実感してもらえているのではないか」と話す。
活動は検査科にも変化をもたらした。週1回から段階的に始めたことで理解が広がり、今では批判的な声もなくなった。救急外来を経験した検査技師が心電図検定を取得したり、外来採血室でも活躍したりするなど、人材育成の面でも効果が現れている。
平日常駐目指し次のステージへ
現在は機器更新やISO 15189関連業務などの影響で、一時的に救急派遣は横山氏を含めた2人体制へ縮小している。小山氏は「できることなら技師全員が関わってほしい」として再度増員したい考えで、将来的には平日午後、救急外来で検査技師1人が常駐できる体制を目指す方針だ。
寺坂氏は「すでに救急では、救急救命士や臨床工学技士など、いろんな職種が連携するのが当たり前になっている。今後、AIや自動化が進むことが予想されるが、人と直接関わる仕事は代替されにくい。検査技師も現場に出て可能性を広げていくことが、これから重要になる」とエールを送る。
ただ、救急への検査技師参画はまだまだ全国的に少ないのが実情だ。横山氏は「最初から同じことを目指す必要はなく、できることから始めればいい。需要があるからではなく、自分たちを必要としてほしいから救急へ行く。自分から売り込んでいく姿勢が大切だ」とアドバイスする。
「需要を待つのではなく、自ら現場へ踏み出す」。その姿勢から始まった京都桂病院検査科の挑戦は、救急医療を支えるだけでなく、臨床検査技師の新たな可能性を切り開こうとしている。
※『THE MEDICAL & TEST JOURNAL』2026年10月1日号に掲載された記事の再掲です。
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